ソマリア本土を空爆
2012年 05月 17日
さて、色々と原稿を書いておりましたが、とても印象に残った事件があったので、以下に簡単に引用貼付けを。
===
EU部隊、ソマリア本土の海賊拠点を初めて空爆 船舶破壊
2012.05.17 Thu posted at: 17:58 JST
(CNN) アフリカ東部のソマリア周辺海域で多発する海賊対策で欧州連合(EU)の多国籍海軍部隊は17日までに、同国沿岸部にある海賊の拠点を空爆したと発表した。EU部隊によるソマリア本土の海賊拠点への空爆は初めて。
英国にあるEU海軍部隊本部の報道担当者によると、この攻撃で海賊が商船襲撃に使う小型船数隻を破壊した。ソマリア人の負傷者は出ていないとしている。
===
なぜ個人的にこのニュースが気になっていたかというと、それは海洋戦略の戦略家として有名なジュリアン・コーベットに関することをたまたま少し調べておりまして、それでこのニュースがぐっときたわけです。
すでにこのブログをご覧のみなさんだったらコーベットというイギリスの海軍史家はご存知かもしれませんが、この人はイギリス海軍の歴史を調べていくうちに、
「結局は(当時の)世界最強の英海軍だって、地上の人間に影響を与えられなかったら意味がない」
ということに気づいてしまい、それをイギリスの海軍士官学校などで鋭く指摘しつづけて嫌われたという人物であります。
つまりこの人の理論は、シーパワー(海軍力)を強調しつつも、それが最終的には陸上の戦いに影響を与えてなんぼじゃい、ということを言ったということで、地政学の「シーパワー」論者として有名なマハンとは一味違います。
これを拙訳ワイリー著の『戦略論の原点』にならって、以下のようにものすごく単純化して公式化すると、
マハン:(貿易が行われている)海を支配したら世界を支配できる!
コーベット:海はそこまで支配しなくてもいいが、敵の陸(軍)に影響を与えたら支配できる!
という風に、マハンとは違って「本当は海を越えたもう一段階先の話が重要だぞ!」と言ったわけです。
で、ソマリアの海賊の話なんですが、彼らは基本的に自分たちのことを「ソマリアの海域に不法侵入してくる外国の舟を打ち払う、聖なる役目を持っている」と考えており、外国船から金を要求するということに対してはみじんもやましさを感じておりません。
それに対してEU側は、そういう彼らを海で拿捕(マハン的)しているだけではダメで、それを地上でつぶしておかなければ意味がない(コーベット)ということで、今回の作戦につながったわけです。
結論としては、今回のEUの作戦部隊は、空爆という形をとったにせよ、「陸上をコントロールしなければ海賊は無くならない」という自覚に基づいたコーベット的な行動であったということなります。
最後にコーベットの有名な言葉を。
「人間は、海でなく陸上に住んでいる。そのため、国家間の戦争における大きな問題の数々は、極めて稀な場合を除けば、常に“陸軍が敵の領土および国民にたいして行えること”や、“艦隊が、陸軍ある特定の行動を可能にしてしまうのでは?”という恐怖よって決定されてきたのだ」
ー『海洋戦略の諸原則』より