戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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「オフショア・コントロール」という新しい戦略:その2

長くなりましたが、昨日のエントリーの続きです。

(4)勝利にいたるまでの理論

●この戦略では、中国共産党政府が対インド、対国連(朝鮮戦争)、対ソ連、対ベトナムの時に戦争をストップした例を踏襲する。つまり中国側に「相手に教訓を与えた」と言わせるための状況づくりが重要なのだ。

●中国本土の施設などへの攻撃を禁止することによって、戦闘のエスカレーションと、中国の「教訓を与えた」と言わせやすくして勝利を宣言させ、そして戦争を終結させるということなどを同時に実現するのだ。

この戦略では「決定的な勝利」は追求しない。なぜなら核武装している国家に対して「決定的な勝利」を求めようとする考えること自体がおかしいと考えるからだ。


===

■オフショア・コントロールの有利な点は?

●戦略というのは、他の戦略と比較することによってその特徴があらわれるものだ。

●ところが米国防省が出している「エアシーバトル」というコンセプトは「戦略」ではないし、むしろ「非戦略的」なものであると言っても過言ではないほどだ。

●なぜならそれは兵器の戦術的な使用の仕方を説明しているだけで、どのように紛争を優位に解決するのかまでは何も語っていないからだ。

●米国防省の出している「ジョイント・エアシーバトル」という最近の文書でも「エアシーバトルは限定的な作戦的コンセプトだ」と明確に述べているほどだ。

●よって「オフショア・コントロール」という「戦略」と比較しようとしても、「エアシーバトル」は作戦レベルのものなので、十分な分析はできないと言えよう。しかし国防省が本格的な「戦略」を出すまではこれで我慢するしかないだろう。

●有利な点をあえてあげれば12点ほどある。それぞれ挙げてみると、

(1)透明性があり、秘密はない

●エアシーバトルが提唱しているように、単なる海と空からの攻撃によって短期間に大規模な大陸国家に勝てるわけがないし、歴史的にもそんな例は皆無。

エアシーバトルには透明性がない。公的に発表されていないし、議論もされてないからだ。そこで使われるテクノロジーが秘匿されているからだ。

●これほど秘密だと、協力してくれる同盟国はそれを使う「戦略」がどのようなものなのかわからないし、自信が持てないままだ。

●ところがオフショア・コントロールでは秘密はなく、平時から敵と同盟国の両方と一緒に軍事演習などを行ない、オープンにしておくことによって、敵味方の「相互理解」を深めておくのだ。

(2)同盟国への依存状態を減らす

●この戦略では(オーストラリア以外には)同盟国の基地を必要としない

●同盟国がアメリカに求められるのは、中国の攻撃から海と空を守ることだけだ。同盟国に必要なのは、地上の防空システムと短距離の海洋防衛(機雷設置/除去など)だけである。

●アメリカは同盟国に対してこの方面の軍備を増強するように求め、平時から軍事演習を定期的に行う必要がある。

(3)同盟国とさらなる協力を行えるチャンスが拡大

●平時から実行可能な状態にしておくために、「アメリカは中国攻撃のために同盟国の基地を使わせくれるようには頼まない」と言っておくことが重要。

●こうしておけば、同盟国の空、海、陸を守るためにアメリカの防衛システムのプレゼンスを許可してもらうということだけで済む。

●こうすれば、平時は共同演習をして相互運用を確認しておきながら、紛争がいざ起こっても同盟国に無理矢理一緒に戦うことを強要しなくてもよいのだ。

●同盟国のほうも中国との経済的な結びつきが強いため、アメリカと中国攻撃の演習をして中国を刺激したくない。まず先に中国に攻撃されるのは地理的に近い彼らのほうだからだ。

(4)中国を直接攻撃すると議論しなくてもいい

●エアシーバトルのコンセプトは秘密が多すぎて、中国を攻撃するという意味で外交的にも問題だ。ところがオフショア・コントロールのほうは「航行の自由を守る」というしっかりとした建前があるために説明しやすい。

●この戦略では中国本土へのインフラ攻撃は最小限であるということを強調しているため、その後の貿易も復活させやすい。

(5)核戦争へのエスカレーションの可能性が低い

●エアシーバトルは、実際に使われた場合には根本的にエスカレートしやすいもの。しかもこのアプローチではアメリカが空とサイバー分野における能力に過剰に依存してしまうことになる。

●この両分野ではどうしても攻撃側が有利であるため、中国側の最初の攻撃にアメリカ側が弱くなることが弱点。

●それをカバーするためには、この両分野で第一攻撃でつぶされても復活できるような余計なシステムをつくっておくか、はじめからこのシステムに頼らないという二つの方法がある。

●エアシーバトルだとどうしても最初にアメリカ側の連続した激しい攻撃というものが想定されているために、中国側の過剰な反応を引き起こしてエスカレートしがち。

●それに対してオフショア・コントロールはそもそもこれらのシステムに依存しないようなものであるため、中国側が瞬間的に攻撃してきても大丈夫である。

●もちろんこの戦略が使う遠距離海上封鎖はエスカレートする性格をもっているが、その実行そのものは数週間かけて完成されるものであるので、中国側の指揮系統を混乱させることもない。

●このような透明性と中国側の限定的なインフラダメージによって、エスカレートする危険性は減少させることができるのだ。

(6)平時のコスト減少が、抑止効果を増加

●国防費の減少が明らかな今、これからの戦略は経済的に持続可能なものでなければならない。

●エアシーバトルには新しい兵器が必要のようであるが、オフショア.コントロールは現在持っているものだけでOK。新しい兵器の購入は必要ないから安上がり。

(7)コストの負担を相手側に押し付けることができる

●エアシーバトルは中国の領空内へ攻撃をしかけることが想定されているが、攻撃のためのコストは異様に高い。オフショア・コントロールでは攻撃しないで出てくるところを「拒否」するだけなのでコストは安い。

●現在の中国側のいわゆる「A2/AD能力」への投資は、逆にアメリカ側が「拒否」を狙って守りの姿勢に入ることによって、相手に逆の効果を与えることになる。

(8)中国に「勝利」を宣言させることによって戦争を短期に終結させる

●クラウゼヴィッツの「三位一体」でも指摘されているように、近代戦は「情熱」によって突き動かされるところがある。しかし戦略家は冷静でなければならない。

●もしエアシーバトルのように中国本土を攻撃してしまえば、中国のリーダーたちに「われわれは敵に教訓を与えた!」と宣言させて戦争を終結させるのは難しくなる。

(9)アメリカの強みを最大限に

●この戦略は「第一列島線」内における「海洋拒否」(sea denial)を、アメリカの優秀な潜水艦の能力や、(これからさらに投資する必要のある)機雷などによって実現するものだ。

●また、アメリカの同盟国の空を固めるための、高水準にあるミサイル防衛システムや防空システムもそれに加える必要がある。

●さらにアメリカの陸上部隊は、地上で中国のもつ900隻の商船を監視する。海軍の艦船だけじゃ足りないが、海兵隊や陸軍を臨検用の人員として使えば足りるからだ。

(10)戦術面での地理上の優位を自分たちに!

●この戦略では、中国本土に攻め込んで戦うのではなく、中国のもつ長距離兵器を使わせることが狙われている。

●唯一の例外はアメリカの潜水艦。これは「第一列島線」の中で戦術的に優位。もし中国側の対潜能力が向上したら、東シナ海や南シナ海の入り口までそれらを引くことも可能。

(11)グローバルな貿易システムもすぐ復活可能

●アメリカは地理的にシーパワーで優位なため、中国にたいして海上封鎖を行っても、世界の貿易システムは紛争中でもすぐに修正させることができる。

●逆に中国側が中立国やアメリカの同盟国たちに対して海上封鎖を行おうとしても、アメリカは護送船団を作るなどして対応可能。

(12)核武装国同士の戦い

核武装した国同士が戦争を行った例は二回ある。一九六九年の中ロ国境紛争と一九九九年のパキスタン・インド間の「カルギリ戦争」である。

●両ケースとも、リーダーたちはかなり慎重に対処しており、軍の動きも公表されてほぼ透明性があったと言える。

●それ以外にも核保有国同士の「危機」、たとえばキューバ危機などでは、リーダーたちは包み隠さずに行動して、エスカレートしないようにしているパターンが多く、これらのケースでわかるのは第一攻撃には利益がないということ。

ところがエアシーバトルではサイバーや空の分野に依存しているために第一攻撃に利益がある

●その反対に、オフショア・コントロールはエスカレーションそのものを防ぐようなところがあるので、リーダーたちも慎重に動こうとするのだ。

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■オフショア・コントロールの問題点

●2点ある。一つめはこれからのアメリカの国防予算の見通しがわからないということ。

●もう一つは、紛争が長期になった場合の経済に与えるインパクトがどの程度のものなのか正確にはわからないという点だ。

●これらの点については筆者の能力の範囲を越えるので、別の方に研究をお願いしたい。

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■まとめ

●まずわれわれは中国が核武装国家であるという現実を忘れてはならない。よって、戦争が始まる前や始まってからの戦略がどこまでエスカレートするのかをきちんと見極める必要がある。

●さらに、その戦略はたとえ中国側が最初に攻撃してきたとしても、平時も戦時も実行可能なものでなければならない。しかもそれは戦術面で現在アメリカが地理的にもっている優位に立脚したものでなければならないのだ。

●そしてそれは「どのように戦争を終結させるか」という「勝利の理論」を持つものでなければならないのだ。

●「透明性」と「サイバー/空の分野における依存の減少」によって、オフショア.コントロールはエスカレーションへの圧力を減らし、現在持っている手段を最大限に発揮させることができるのだ。

●また、この戦略は平時においても同盟国にたいする要求を下げることができるし、その実効性をデモンストレートすることによって彼らを安心させることもできるのだ。

●さらには戦略的な地理を活用して中国側に負担をかけさせ、アメリカとその同盟国側を戦術的に優位なポジションにつけさせることになる。

●そして米中双方に「決定的な勝利」というものを強要せずに紛争を終結させるための方法を提供しているのである。

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ざっとお読みになっていただければおわかりの通り、これはハッキリ言って冷戦期の「封じ込め」の焼き直しですね。

コリン・グレイは「戦略のコンセプトというのは・・・再発見、再利用されて“新しい真理”として啓示される」ということを拙訳の『戦略の格言』の中で述べておりますが、この「オフショア・コントロール」も、ケナンから発した「封じ込め」政策の海上版とでも言えるような。

興味深いのは、実際にアメリカがオーストラリアを重視して、色々と興味深い演習を始めたことでしょうか。
Commented by だむ at 2012-05-13 21:08 x
>●この戦略では(オーストラリア以外には)同盟国の基地を必要としない。

誰かが言ってた「米軍は第7艦隊さえあればいい」という話だな
Commented by masa_the_man at 2012-05-13 22:15
だむさんへ

>第7艦隊さえあればいい」という話

わはは、その通りかと。コメントありがとうございました
Commented by (^o^)風顛老人爺 at 2012-05-15 02:11 x
拝啓、奥山様チャイナこと中国は相も変わらず強烈です。
宣伝、ご容赦下さい。
元通訳捜査官、坂東忠信氏 「 外国人犯罪の増加からわかること 」
アメーバ版と併せて精力的に更新中です。

悲惨極まりない関越自動車道バス事故の張本人
河野化山容疑者は、矢張りなりすまし
チャイナ残留孤児関係者のようです。
日本語が理解出来ないのに、多くの乗客の生命を預かる業務用二種免許が取得出来るとは世も末です。

「 日本は中国人の国になる 」
坂東忠信氏 PHP出版が出ました。
m(_ _)m乱文にて 敬具
by masa_the_man | 2012-05-13 19:57 | 日記 | Comments(3)