「オフショア・コントロール」という新しい戦略 |
さて、本ブログでは私が翻訳をした本(ミア、ウォルト、レイン)に提唱されているという関係から「オフショア・バランシング」というアメリカの大戦略のコンセプトについて注目しているわけですが、ここに来てまた新しい戦略の概念が出てきました。その名はなんと、
「オフショア・コントロール」(offshore control)
というもの。
提唱しているのは「第四世代戦闘」(4GW)というコンセプトを提唱し、ラムズフェルドを痛烈に批判して退役した米海兵隊の元大佐のトーマス・ハメス。The Sling and the Stoneという本でかなり有名になりました
この人が日本の防衛サークルでも話題の「エアシーバトル」というコンセプトの代わりに、さらに踏み込んだ「オフショア・コントロール」という概念を提唱したのですが、これとリアリズム系の学者たちの言う「オフショア・バランシング」との整合性などを考えてみると、なかなか面白いものが。
ということで、本日はこのハメスの「オフショア・コントロール」という新しい概念について説明した論文を要約。
===
オフショア・コントロール:新たな戦略の提案
●オバマ政権はアジア・太平洋地域への戦略シフトを明言しているが、具体的な「戦略」はまだ出てきていない。
●中国の軍事力などが劇的にアップしている状況を踏まえて、私は新たに「オフショア・コントロール」という戦略を提唱してみたい。
●これはもし米中間で紛争が起こったとしても、アメリカとその同盟国側にとって受け入れられる形で紛争を終結させることを狙った戦略である。
●軍事戦略というのは、単なる①「紛争解決を成功させるためのガイダンス」としか見られないことがある。
●ところがその紛争が起こる前の②「抑止」(これは核武装した相手国に対峙する場合には決定的に重要)や、③「同盟構築」という機能もそれと同じくらい重要である。
●よって、アメリカのあらゆる対中戦略は、この三つの機能を達成するものでなければならない。
●ところがアメリカ側の戦略を難しくしている要因が二つある。
●一つが米軍の予算削減。もう一つが「良い戦略」というものは存在しないということである。
●結局米中間で戦争が起これば被害が大きくなるのは確実であり、戦略を選ぶときも「どちらのほうがマシか」という観点しかないからだ。
●戦略を考えるときに役に立つのが、エリオット・コーエン教授のものである。彼は戦略を考えるときに、以下のような四つのことが必要であると言っている。
1、戦略の「前提」を設定する
2、目的・方法・手段の三つを整えること
3、優先順位とその順序を確定すること
4、勝利にいたるまでの理論を確立すること
である。私はそれにもう一つ、
5、戦略はその地政学的なコンテクストの中で実現・実行可能なものでなければならない
ということを付け加えておく。
●「オフショア・コントロール」という戦略で行われるのは、中国の海上貿易を阻止し、アメリカ側につく味方の国々の領土を守るということだ。
●また、この戦略では中国にたいする「決定的な勝利」ではなく、経済消耗戦に持ち込み、中国本土のインフラへのダメージを最小限にして、互いに行き詰まりの状態をつくることによって軍事衝突を停止させることが狙われている。
●よってこの戦争の終結は、物理的な破壊ではなく、経済消耗戦という形から完成するのだ。
====
(1)前提
●この戦略の「前提」(assumptions)は三つある。
1、戦争を始めるのは、中国である。
2、中国との戦争は、長期戦になる。
3、アメリカは中国の核使用がどのように決定されるのか、絶対にわからない。
(2)目的・方法・手段
●「目的・方法・手段」であるが、まず手段として、国防費削減という現実を踏まえれば、プラットフォーム(F-22やF-35など)やシステム(ミサイル防衛システム)などの大幅な増加を期待することができないため、手段は現存のものに限られていることを認識すべし。
●中国の保有する核兵器のおかげで、アメリカが中国側の施設を攻撃する「方法」は制限を受ける。
●よって、核戦争へのエスカレーションを避けるために、アメリカは攻撃に使う「方法」をかなり慎重に選ばなければならない。
●なぜなら、中国側がどのように核を使ってくるか全くわからないし、大規模な核戦争が起こったとしたら誰も勝者はいなくなってしまうからだ。
●こうなると「手段」と「方法」が限定されるということなので、「目的」も少なからず限定的なものにならざるを得ないことはおわかりいただけると思う。これが「オフショア・コントロール」につながってくる。
●実際の戦争のオペレーションの段階では、以下の三つのコンセプトにつながってくる。まずその土台として「手段」と「方法」が限定的であるため、
拒否(deny):中国が「第一列島線」の内側の海を使用するのを拒否。
防御(defend): 「第一列島線」の海と空を防御する
圧倒(dominate):「第一列島線」の外側の海と空で圧倒的な立場を維持する
の三つがカギを握る。
●なお、中国の領空内への侵入は行わない。
●この理由は、核戦争へのエスカレーションの防止と、戦争の終結を容易にするためだ。その代わりにこの戦略では中国を経済面で縛り上げることにより、中国側の戦争終結への意欲を高めることが狙われている。
●拒否(deny)のためには「第一列島線」内で航行排他海域を確立することが狙われる。具体的には潜水艦と機雷、それに空軍力を使って、中国の艦船を沈める。
●防御(defend)では、協力してくれる同盟国の領土を守るためにあらゆる手段を使う。これによって中国側は長距離を越えて戦わなければならないのに対し、アメリカと同盟国側は自国の近くで戦えるのだ。
●圧倒(dominate)では、中国の兵器が届く範囲の外側の、インドネシア列島からアメリカ西海岸までの海域にあるいくつかのチョークポイントにおいて、商船などの通行を阻止することが狙われる。アメリカのもつ資産をフル活用すれば中国のもつ900隻の商船はコントロール可能。
●そうなると「目的」はかなり控えめなものになる。
●まず中国は核武装国家であるため、中国共産党政府を崩壊させるという「目的」はあまりにも危険である。
●よってアメリカが戦争終結において狙わなければならないのは、敵対関係をすぐに停止し、国境の状態を戦争前の状態に戻すことである。
(3)優先順位と順序
●優先順位とその配列だが、その順番としてはまず、
①協力してくれる同盟国の軍備の強化
②距離が離れた位置での海上封鎖の確立
③「第一列島線」の内側での海洋排他圏の確立
④「第一列島線」の外側で圧倒し、中国に対する海上封鎖を強める
ということだ。
●これらは戦時に多岐にわたる分野で同時進行に行われることが重要であるため、平時からの準備が必要である。したがって、外交面や軍事面ですぐにこの準備にとりかからなければならない。
●この戦略では透明性を確保されているため、同盟国にどんどん説明して演習などによって全ての面を明らかにすべきだ。
===
続きは後ほど!