アメリカの分裂したユダヤ人 |
さて、今日の記事もちょっとコアなもの。アメリカの「ユダヤ人問題」についての意見記事の要約です。
この辺については、なぜミアシャイマーが『イスラエルロビーとアメリカの対外政策』という本を書けたのかという事情にもつながってくる、非常に興味深いところです。
簡単にいえば、アメリカのユダヤ人も一枚岩じゃない、ということでしょうか。「ユダヤ人陰謀説」などありますが、この辺をもう少し理解しないといけないかと。
それと大きな違いは、やはり「世代」ですね。
著者はニューリパブリックの若手の元編集長で、テレビの討論などではけっこうレギュラー出演していた人です。下の記事のネタになったのは、最近彼が出版した以下のもの。
The Crisis of Zionism
by Peter Beinart
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アメリカの分裂したユダヤ人
by ピーター・ベイナート
●私の『シオニズムの危機』という本が出版された当日に、私はメリーランド大学で講演を行っていた。
●その講演の後の質疑応答の時間に、ある厳しい表情をしたユダヤ人の老人が私に質問してきた。
●その質問の内容は「ヨルダン川西岸地区はパレスチナ人によってそのほとんどが統治されていて、しかもイスラエル政府とは平和的に暮らす意思を持っていないにもかかわらず、なぜイスラエルがヨルダン川西岸地区を占領していることを批判できるのか」というものだった。
●それにたいする私の答えは、「たしかにパレスチナ人側にも責任があるが、イスラエル政府がヨルダン川西岸地区を含む地域にユダヤ人の移住を認めて助成金を出しているという事実そのものが、パレスチナ側の過激派たちを刺激している」というものだった。
●これを聞いたその老人は不服の意見を表して立ち上がり、その後に座って私を睨みつけていた。
●その次に質問したのは学生で、彼は私の講演を興味深く聞いたが、ユダヤ系アメリカ人として宗教組織と国家の分離を認めている立場から、そもそもなぜユダヤ人のための国家が必要なのか理解できない、と言ったのだ。
●私はその老人と学生に向かって、「ご両人は互いに話し合ったほうがいいですよ」と提案した。
●私自身は、世代的にこの二人のちょうど中間に位置している。つまり、私はその若い学生と同じように数度に渡る恐ろしい「中東戦争」をこの目で見て覚えているわけではないし、イスラエルが支配する前のヨルダン川西岸地区を知っているわけでもない。
●だがその老人と同じように、私は世界からユダヤ人たちがイスラエルに避難するために集まっていた様子をこの目で目撃しているのだ。
●私が覚えている最も古いイスラエルの風景は、ソ連の収容所から出てきたばかりのアナトリー・シャランスキ―が、ベングリオン空港に降り立った瞬間のイメージだ。
●よって、私の本で「ユダヤ人には自分たちの命と文化を守るための国家が必要だ、しかし同時に、イスラエル政府のヨルダン川西岸地区の占拠状態は、国家の根本と矛盾しているので心配だ」と論じているのは全く不思議なことではないのだ。
●ところがアメリカのユダヤ人コミュニティーの中には、このような主張を行う私のことを「左翼だ」と決めつける人々がいる。
●私はこの意見に反対だ。私は自分自身のことをアメリカのユダヤ人の中で減少しつつある「中道派」だと認識している。
●なぜなら私はイスラエルという国家の存続を応援しつつも、現在の政府のやり方に非常に大きな不満を持っているからだ。
●たとえば私のような立場に対する批判者は、まさに講演の時の老人のように、宗教や性別や民族によって差別されないという憲法を持っているのに、40年間もパレスチナ人にろくな権利を与えないで支配している点に矛盾を感じない人々なのだ。
●ところがアメリカの若いユダヤ人の中には、段々と「ユダヤ人国家」というアイディアそのものに疑問を感じはじめている集団が増えてきている。
●アメリカのある調査によれば、アメリカの65歳以上のユダヤ人たちの80%以上が「ユダヤ人国家」というアイディアに賛成であるのにたいし、35歳以下だとその割合が50%ちょっとに落ちてしまうのだ。
●実は「シオニズム」(ユダヤ人国家建設運動)というのはアメリカのユダヤ人コミュニティーでは全員が賛成していたわけではなく、イスラエルが建国される前、さらには1967年以前までは、アメリカのユダヤ人たちのかなりの数の人々は、ユダヤ人国家というアイディアそのものに疑問をもっていたのだ。
●私がおそれるのは、このままの状態が続けば、数年以内に以前のような分裂状態が、アメリカのユダヤ人の中でも復活するのではないか、ということだ。
●つまりヨルダン川西岸地区の占領がつづけば、アメリカのユダヤ人たちは民主的でない「ユダヤ人国家」か、パレスチナ人たちを取りこんでユダヤ人の特徴を失った完全に民主的な国家のどちらかを選ばなければならなくなる、ということだ。
●こうなると、アメリカのユダヤ人の年配者たちは前者、そして多くの若者たちは後者を選ぶようになってしまい、世代の分裂が起こってしまうことになる。
●イスラエルを民主的なユダヤ人国家にしようとする戦いと、アメリカのユダヤ人の中でシオニズムのコンセンサスを維持するための戦いは、同じコインの表裏である。
●この本が出版されてから、私はアメリカのユダヤ人コミュニティーの中で、過激で集団を分断させるような働きをしている人間だと非難されることが多くなった。ところがこのような非難は私を非常にがっかりさせるものだ。
●私はこのメリーランド大学での質問を何度もされたおかげで、パレスチナ国家の建設といういわゆる「二国解決法」が失敗したらユダヤ人の間に本物の分裂がやってくることをますます確信するようになったのだ。
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アメリカとイスラエルの政治が直結している、という前提で書かれている点が独特かと。