2012年 02月 07日
創造性を上げるには「孤独」になれ |
今日の横浜北部は朝から雨です。しかもけっこう土砂降り。私も体調がすぐれないので家でゆっくりしております。
さて、地政学や戦略とは全く関係ないかもしれませんが、みなさんの職場の環境づくりにヒントになるような論考がありましたのでそのご紹介を。
ちなみに私のような個人業者(?)にとっては非常によくわかる話です。
====
「新グループシンク」の台頭
By スーザン・ケイン
●「孤独」というのは時代遅れである。
●アメリカでは「新グループシンク」(New Group Think)というべきものが大流行中である。これは「グループや集団でどんどん働きましょう」という考え方だ。
●この典型的なのが、「オフィスの壁を取り払って、アイディアを交換しながら、創造的に働く」という最近の職場環境の風潮だ。
●ところがこのような風潮には大きな問題がある。なぜなら最近の心理学の調査研究では、人間というのはプライバシーが守られ、邪魔から自由になると創造性を発揮する、という結果が出ているからだ。
●ある心理学者の調査では、あらゆる分野で共通する「最も創造的な人物」というのは、大抵は内向的であり、たしかにある程度はアイディアを交換したりするくらい活発なのだが、それでも彼らは自分たちのことを「独立した個人主義者だ」と考えるのである。
●これらの調査が示しているのは、内向的な人物は一人で静かに働くのを好み、しかも孤独な状態がイノベーションを生み出す、というものだ。
●ある有名な心理学者によると、「内向的な人々は目の前の仕事に思考を集中させ、仕事とは関係のない社会的や性的なことに余計なエネルギーを漏らさないようにすることによって」創造性を高めるというのだ。
●たしかに歴史を見て行くと、孤独が人類の創造性を生み出してきたことは否定しがたい。ピカソは「孤独がなければ、優れた作品は生まれない」と言っている。
●宗教で言えば、モーゼやイエス、それに釈迦も孤独を必要とした。われわれは彼らのようなカリスマに注目はするが、その思想が作られた背景にある「孤独」というプロセスを軽視しすぎている。
●たとえばアップルだ。ジョブスの死によって神話が生まれつつあるが、最も注目しなければならないのは、そのパートナーであり、内向的な、スティーヴ・ウォズニアックという発明家の存在である。
●彼の仕事のプロセスを見て行くと、そこに「孤独」というキーワードが浮かんでくる。彼は何かを発明するときに独りで黙々とこなしているのだ。
●彼は自伝でも「今まで会った発明家やエンジニアのほとんどは、僕みたいに内向的だった・・・彼らは自分の頭の中に生きていて、まるで芸術家のようだった。芸術家というのは単独で仕事をする時に最も創造性を発揮するんです。チームや委員会ではなく、独りで仕事をしなさい」と発言しており、自分で意識的に孤独の状態を作っていたことがわかる。
●ところが現在の(アメリカの)仕事場では70%の時間は孤独ではない。小学校でも独りで何かを勉強するという時間はほとんどない。これは教会でも一緒だ。
●心理学の最近の研究結果として出ているのは、オープンなオフィスはそこで働く人々を「敵対的にして、不安にさせ、集中力を失わせる」ということだ。また、彼らは高血圧になりやすく、ストレスにさらされ、カゼにかかりやすく、疲労もたまりやすいという。
●他の人に邪魔される環境で働く人は、孤独に働く人々と比べて仕事で5割ほど間違いを犯しやすくなり、仕事を終えるのに2倍かかるという。
●多くの内向的な人物はこれを直感的にわかっているようで、たとえばバックボーン・エンターテイメントというゲームソフトの会社は、創設当時はオープンなオフィスだったが、内向的なソフトエンジニアたちには不評であり、壁で仕切られた形に変えたら能率が一気に上がったという。
●他の会社でも同じような結果が出ており、プライバシーは能率を上げるのである。
●心理学者のアンダース・エリクソンの言うように、学習の場合でも同じで、人間は独りでやらなければならない状況に直面した時に学習効率が一番上がるという。
●その逆に、いわゆる「ブレーンストーミング」は創造性という意味では最悪の部類に入るものの一つだ。
●この「ブレーンストーミング」を一九五〇年代に流行らせたのはアレックス・オズボーンという広告会社の人間。
●ところがそれ以後の数十年間の研究調査で判明してきたのは、個人はグループで働くよりも単独で働いた時のほうがほぼ常に量・質の両面でパフォーマンスが良い、ということだ。
●しかもある集団のパフォーマンスは、その集団のサイズが大きくなるにつれて低下するという。
●心理学者エイドリアン・ファーンハムは、「科学的な証拠が示しているのは、ブレインストーミングを使うビジネス業界の人は正気ではない。ということです。才能があってやる気のある人材を抱えていて、彼らに創造性と効率を第一に求めるのなら、彼らを一人で仕事させるように仕向けるべきです」と書いているくらいだ。
●「ブレーンストーミング」に効果がない理由は他にもある。エモリー大学のグレゴリー・バーンズによれば、人間は集団の中で別の立場を取ろうとすると、脳の中にある扁桃体が反応し、拒否される恐怖を感じるという。これを彼は「独立の痛み」と読んでいる。
●ところがこれを感じない「ブレーンストーミング」がある。それはネットなどを使う「エレクトロニック・ブレーンストーミング」だ。これだと集団は個人のパフォーマンスを越える。
●インターネットから集団的にすばらしい創造が生まれて来た理由はここにある。なぜならインターネットだと、一人一人が孤独でいるのにもかかわらず、集団で作業できるからだ。
●つまりネットだと、人間は「みんなで一緒に孤独になれる」のだ。
●ここで注意していただきたいのは、私が「共同作業をやめてしまえ」と提案しているわけではない、ということだ。最近の影響力のある学会の論文というのは、そのほとんどが共同作業なのだ。
●ところがこの学者たちの共同作業も、実は別々の大学で個別に作業をしておこなれているものだ。最近の研究テーマは複雑になっているので、互いに助け合う作業が必要になってくるからだ。
●ところが問題がいくら複雑化しても、人間の本質(human nature)は不変である。
●しかも人間には、互いに矛盾する二つの衝動があるのだ。それは、「人間は他人を好きだし必要としているのだが、同時にプライバシーと自律性も必要としている」ということだ。
●この二つの衝動を上手く活用して「新グループシンク」を越え、創造性と効率を促進させる新しいアプローチを、われわれは必要としているのだ。
●つまり職場環境は、それなりの人的交流があっても良いのだが、それと同時に、彼らを孤独にさせるようにプライベートな場に消えさせるような場をつくるべきなのだ。
●学校でも、共同作業の時間と孤独な作業の時間をわけるべきだ。
●そしてスティーブ・ウォズニアックのように、とくに静かな環境でじっくりと孤独な作業をしてもらうのが極めて重要であることを忘れてはならない。
=====
非常に興味深い。
日本のオフィスは逆にオープンスペース化しつつありますが、あれは創造的な仕事をする人々にとってはストレスがたまって逆効果だと。
この記事の著者の最近の著作は以下の通り。
Quiet: The Power of Introverts in a World That Can't Stop Talking
by Susan Cain
日本でもそのうち『沈黙力』とかいうタイトルで翻訳されるかもしれませんな。
ちなみに元の「グループシンク」という言葉は国際関係論などでもけっこう頻繁に(とくにベトナム戦争のときのアメリカの民主党政権の例がネタ)使われる専門用語です。
このページのものがよくまとまっているかと。
▼若きクリエイターたちへ捧ぐ!
Cumulative & Sequential Strategy
累積戦略と順次戦略
~『Quiet(クワイエット)』を読み解く:引きこもりが勝利する時代~
さて、地政学や戦略とは全く関係ないかもしれませんが、みなさんの職場の環境づくりにヒントになるような論考がありましたのでそのご紹介を。
ちなみに私のような個人業者(?)にとっては非常によくわかる話です。
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「新グループシンク」の台頭
By スーザン・ケイン
●「孤独」というのは時代遅れである。
●アメリカでは「新グループシンク」(New Group Think)というべきものが大流行中である。これは「グループや集団でどんどん働きましょう」という考え方だ。
●この典型的なのが、「オフィスの壁を取り払って、アイディアを交換しながら、創造的に働く」という最近の職場環境の風潮だ。
●ところがこのような風潮には大きな問題がある。なぜなら最近の心理学の調査研究では、人間というのはプライバシーが守られ、邪魔から自由になると創造性を発揮する、という結果が出ているからだ。
●ある心理学者の調査では、あらゆる分野で共通する「最も創造的な人物」というのは、大抵は内向的であり、たしかにある程度はアイディアを交換したりするくらい活発なのだが、それでも彼らは自分たちのことを「独立した個人主義者だ」と考えるのである。
●これらの調査が示しているのは、内向的な人物は一人で静かに働くのを好み、しかも孤独な状態がイノベーションを生み出す、というものだ。
●ある有名な心理学者によると、「内向的な人々は目の前の仕事に思考を集中させ、仕事とは関係のない社会的や性的なことに余計なエネルギーを漏らさないようにすることによって」創造性を高めるというのだ。
●たしかに歴史を見て行くと、孤独が人類の創造性を生み出してきたことは否定しがたい。ピカソは「孤独がなければ、優れた作品は生まれない」と言っている。
●宗教で言えば、モーゼやイエス、それに釈迦も孤独を必要とした。われわれは彼らのようなカリスマに注目はするが、その思想が作られた背景にある「孤独」というプロセスを軽視しすぎている。
●たとえばアップルだ。ジョブスの死によって神話が生まれつつあるが、最も注目しなければならないのは、そのパートナーであり、内向的な、スティーヴ・ウォズニアックという発明家の存在である。
●彼の仕事のプロセスを見て行くと、そこに「孤独」というキーワードが浮かんでくる。彼は何かを発明するときに独りで黙々とこなしているのだ。
●彼は自伝でも「今まで会った発明家やエンジニアのほとんどは、僕みたいに内向的だった・・・彼らは自分の頭の中に生きていて、まるで芸術家のようだった。芸術家というのは単独で仕事をする時に最も創造性を発揮するんです。チームや委員会ではなく、独りで仕事をしなさい」と発言しており、自分で意識的に孤独の状態を作っていたことがわかる。
●ところが現在の(アメリカの)仕事場では70%の時間は孤独ではない。小学校でも独りで何かを勉強するという時間はほとんどない。これは教会でも一緒だ。
●心理学の最近の研究結果として出ているのは、オープンなオフィスはそこで働く人々を「敵対的にして、不安にさせ、集中力を失わせる」ということだ。また、彼らは高血圧になりやすく、ストレスにさらされ、カゼにかかりやすく、疲労もたまりやすいという。
●他の人に邪魔される環境で働く人は、孤独に働く人々と比べて仕事で5割ほど間違いを犯しやすくなり、仕事を終えるのに2倍かかるという。
●多くの内向的な人物はこれを直感的にわかっているようで、たとえばバックボーン・エンターテイメントというゲームソフトの会社は、創設当時はオープンなオフィスだったが、内向的なソフトエンジニアたちには不評であり、壁で仕切られた形に変えたら能率が一気に上がったという。
●他の会社でも同じような結果が出ており、プライバシーは能率を上げるのである。
●心理学者のアンダース・エリクソンの言うように、学習の場合でも同じで、人間は独りでやらなければならない状況に直面した時に学習効率が一番上がるという。
●その逆に、いわゆる「ブレーンストーミング」は創造性という意味では最悪の部類に入るものの一つだ。
●この「ブレーンストーミング」を一九五〇年代に流行らせたのはアレックス・オズボーンという広告会社の人間。
●ところがそれ以後の数十年間の研究調査で判明してきたのは、個人はグループで働くよりも単独で働いた時のほうがほぼ常に量・質の両面でパフォーマンスが良い、ということだ。
●しかもある集団のパフォーマンスは、その集団のサイズが大きくなるにつれて低下するという。
●心理学者エイドリアン・ファーンハムは、「科学的な証拠が示しているのは、ブレインストーミングを使うビジネス業界の人は正気ではない。ということです。才能があってやる気のある人材を抱えていて、彼らに創造性と効率を第一に求めるのなら、彼らを一人で仕事させるように仕向けるべきです」と書いているくらいだ。
●「ブレーンストーミング」に効果がない理由は他にもある。エモリー大学のグレゴリー・バーンズによれば、人間は集団の中で別の立場を取ろうとすると、脳の中にある扁桃体が反応し、拒否される恐怖を感じるという。これを彼は「独立の痛み」と読んでいる。
●ところがこれを感じない「ブレーンストーミング」がある。それはネットなどを使う「エレクトロニック・ブレーンストーミング」だ。これだと集団は個人のパフォーマンスを越える。
●インターネットから集団的にすばらしい創造が生まれて来た理由はここにある。なぜならインターネットだと、一人一人が孤独でいるのにもかかわらず、集団で作業できるからだ。
●つまりネットだと、人間は「みんなで一緒に孤独になれる」のだ。
●ここで注意していただきたいのは、私が「共同作業をやめてしまえ」と提案しているわけではない、ということだ。最近の影響力のある学会の論文というのは、そのほとんどが共同作業なのだ。
●ところがこの学者たちの共同作業も、実は別々の大学で個別に作業をしておこなれているものだ。最近の研究テーマは複雑になっているので、互いに助け合う作業が必要になってくるからだ。
●ところが問題がいくら複雑化しても、人間の本質(human nature)は不変である。
●しかも人間には、互いに矛盾する二つの衝動があるのだ。それは、「人間は他人を好きだし必要としているのだが、同時にプライバシーと自律性も必要としている」ということだ。
●この二つの衝動を上手く活用して「新グループシンク」を越え、創造性と効率を促進させる新しいアプローチを、われわれは必要としているのだ。
●つまり職場環境は、それなりの人的交流があっても良いのだが、それと同時に、彼らを孤独にさせるようにプライベートな場に消えさせるような場をつくるべきなのだ。
●学校でも、共同作業の時間と孤独な作業の時間をわけるべきだ。
●そしてスティーブ・ウォズニアックのように、とくに静かな環境でじっくりと孤独な作業をしてもらうのが極めて重要であることを忘れてはならない。
=====
非常に興味深い。
日本のオフィスは逆にオープンスペース化しつつありますが、あれは創造的な仕事をする人々にとってはストレスがたまって逆効果だと。
この記事の著者の最近の著作は以下の通り。
Quiet: The Power of Introverts in a World That Can't Stop Talking
by Susan Cain
日本でもそのうち『沈黙力』とかいうタイトルで翻訳されるかもしれませんな。
ちなみに元の「グループシンク」という言葉は国際関係論などでもけっこう頻繁に(とくにベトナム戦争のときのアメリカの民主党政権の例がネタ)使われる専門用語です。
このページのものがよくまとまっているかと。
▼若きクリエイターたちへ捧ぐ!
Cumulative & Sequential Strategy
累積戦略と順次戦略
~『Quiet(クワイエット)』を読み解く:引きこもりが勝利する時代~
by masa_the_man
| 2012-02-07 17:22
| 日記