戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28

無人機と民主制度

今日の横浜北部はまたまたよく晴れました。気温は相変わらず真冬ですが、昼間はなんとなくしのげる感じが。

さて、久しぶりに記事の要約を。私が関心を持っているテクノロジーと戦争の変化についての興味深い記事を。

====

民主制度に攻撃する無人機

by ピーター・シンガー

●民主制国家では、歴史的に戦争と国民の間に深い絆があった。

●ところがアメリカの最近のテクノロジーの変化のおかげで、この絆に大々的な変化が起こっている。

●10年前にはロボットが戦争を戦うというのはハリウッド映画に出てくる単なるファンタジーだったが、いまはそれが現実になっている。

●現在の米軍は、無人機を7000機もっており、地上には12000機の軍事ロボットが活躍している。

●去年の2011年には、このようなロボットが6カ国で攻撃を行っているのだ。

●われわれはもう宣戦布告をしていない。最後に議会がこれを行ったのは一九四二年で、このときはブルガリア、ハンガリー、ルーマニアに対するもの。

●現在アメリカで従軍しているのは人口のたった0・5%だ。

ロボットというテクノロジーのおかげで、われわれは戦争を行う際の最後の政治的障害を取り除いてしまったのだ。なぜなら自分たちの息子や娘を戦場に送らなくてもよくなったからだ。

●そうなると、戦争と平和という問題が、少なくともこのようなテクノロジーをもっているアメリカには深刻な問題とはならなくなるのだ。

●つまり戦争は、以前は国民にとって命をかける「リスクのあるもの」であったが、今はそうではなくなったのである。

●しかも現在の無人機はまだ発展をはじめたばかりである。初期のものはGPSもついていなかったほどだが、最近のものは自動で離着陸をするし、1600メートル下の地表の変化を感知して足跡を追跡できるような高感度センサーまでついている。

●しかも空軍は現在、有人の飛行機(戦闘機と爆撃機)のパイロットの訓練よりも、無人機のパイロットの訓練のほうを遥かに多く増やしている。

パキスタンでは2004年から300回以上にわたって無人機から空爆しているのだが、この作戦はアメリカの議会でほとんど議論された形跡はない

●これは米軍ではなく、CIAによって行われているという部分もあるのかもしれない。軍ではなく、民間人が戦争をやっていると、政治家の見方も変わってくる。

●先日パキスタンで大統領が海軍の特殊部隊を40分間の作戦にゴーサインを与えて「大変な決断だった」という評判だが、同時期に同じ国で行われていた300回の攻撃は政治的には何も問題になっていない

●私はこのような作戦には賛成しているが、それでもこの新しいテクノロジーが民主制国家にとっての最も重い「戦争」という決断を経ずに行われている事実には心配している。


●去年のリビアの事件はさらに問題。この時は米軍が直接介入したわけではないから議会に許可を得ていないし、国民からも支持はほとんどなかった。

●ところがアメリカは地上軍を派兵していなかったため、戦闘行為開始から48時間以内に議会に報告し、60日以内に議会の許可を得るというベトナム時代に制定された「戦争期限法」(the War Power Resolution)には違反しないとホワイトハウスが説明。

●ところがアメリカは以前は「戦争」と呼ばれていた破壊行為にリビアで関係したことは明白。

●去年の4月23日からはじまった無人機による攻撃で、少なくとも146回攻撃を行っているのだ。戦闘期間は戦争期限法の60日をはるかに上回っている。

●また、無人機はNATOの有人飛行機のためにターゲットの狙いをつける作業にも従事していた。

●6月21日には米海軍の無人ヘリ(ファイアースカウト)が親カダフィ派の攻撃によって墜落しているのだが、これは米軍側には人的被害が出なかったためにニュースにもならなかったほど。

●もちろん議会は戦争に関する決断をスルーされたわけではなく、同じ時期にアフリカのウガンダの軍の訓練のために米軍を派遣する際にはオバマ大統領は議会に報告している。議会はこの行為を賞賛。

●ところが同じ時期に無人機で戦闘行為を行っているリビアのほうには無関心。

●これはつまりテクノロジーが人間を戦場から引き離してしまったということだ。

●そして新しい現実は、「大統領は人的被害が出そうな作戦の場合にのみ議会の承認が必要だ」ということ。


●政治的な議論もなしで戦争を行うというのはいままでになかったことだ。しかしこれが将来どのように変化するのかについてはまだよくわからない。

無人機による作戦というのは「コストなし」というわけではない

●たとえば去年ニューヨークのタイムズ・スクエアを爆破しようとしたパキスタン人ファイサル・シャザド容疑者は、パキスタンのプレデターの攻撃のおかげでテロ組織に入ったという。

●しかも現在無人機を獲得しつつある国は50カ国以上になっており、それには中国、ロシア、パキスタン、そしてイランも含まれている。

●アメリカの「建国の父」たちは、国が戦争を行うためには政治的なプロセスに深く関与するような体制をつくった。ところが最近の議会は戦争の許可についてはほとんど何もできていない。

●去年私は米国防省の高官たちが集まった会合で、最近の増加しつつある戦争におけるロボット使用について厳しい議論をする様子を聞いていたが、ある参加者が、「このような(民主制度と戦争の許可の)問題について一体誰が考えているんですか?」と質問している。

●「建国の父」たちは無人機による戦争については想像できなかったはずだが、それでも彼らは一つの答えを出している。

●それは、「戦争は行政府だけで実行できるものではない」ということだ。民主制国家では、これはわれわれ全員の問題なのだ。

====

クラウゼヴィッツは戦争の本質である「奇妙な三位一体」として、政府(理性)、軍隊(チャンス)、国民(情熱)という三つの要素を挙げておりますが、このうちの国民という要素が(無人機を使う)アメリカ側からどんどん乖離していっている、ということがこの記事のテーマでしょう。

私が一番気になったのは、「コストが低いから戦争しやすくなる」という勘違いで、知らないところでアメリカは恨みを買うわけですから、実は「コストなし」ではないというところかと。

アメリカに限らず、西洋諸国をはじめとする先進諸国ではリベラリズムによる「痛みを少なくする」という思想や傾向が多く見られるようになっておりますが、この無人機による戦闘行為は、まさに(自国側の)人的被害を少なくするという意味で非常に興味深いものかと。
Commented by 緑川だむ at 2012-01-31 23:28 x
この理屈だけ読んでると無人機が今回のテロ戦争で初めて登場した革新的な新技術みたいに言うてますが、「アメリカ人が死ぬ可能性が皆無の軍事作戦」という点ならばクリントン政権時にさんざん使った巡航ミサイルだって「一種の無人機」じゃないのかと
Commented by 大阪人K at 2012-02-01 23:21 x
「アメリカのロボット兵器と戦う途上国の少年兵」というハリウッドのB級映画のような光景が想像してしまうのは私だけでしょうか。(しかもアメリカが悪役)

ロボット兵器について思うことが一杯あるのですが、その中で一つ上げるとすれば英雄の不在のように思います。

ロボット扱う側にすれば、オフィースワークでロボットを操って敵を殺傷していく。どう見ても英雄的行為に見えない。
逆にロボットと戦う生身の人間が幾らロボットを破壊したところで英雄に見られることもないでしょう。

もしかしたら戦場から英雄が消えてしまうのかもしれません。
Commented by ランバダ at 2012-02-02 14:36 x
紛争地域で不運にも攻撃対象に入ってしまった人たちは、一体誰の、何の
戦争なのかわからなくなるだろうから対象地域の混乱に拍車をかけるのでは
ないかと思いますが。
そもそも紛争地域では個々人の帰属意識がばらばらだったりするでしょうし。
世界の個々人の帰属意識が希薄化していくなかでこんなことを続けて
いっていいもんでしょうか。
Commented by masa_the_man at 2012-02-07 18:09
緑川だむさんへ

>巡航ミサイルだって「一種の無人機」じゃないのかと

その通りですね。というか、ICBMと長距離爆撃機もこれですな。エアパワーが出て来た時からこの概念があると見たほうがよさそうです。その一つの契機として日本の特攻隊の活躍があったのかと。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2012-02-07 18:11
大阪人K さんへ

>英雄の不在のように思います。

ルトワックなんかは第一次湾岸戦争の後にそういう論文書いてましたなぁ。

>逆にロボットと戦う生身の人間が幾らロボットを破壊したところで英雄に見られることもないでしょう。

ある意味でこれはスターウォーズの新しい方の映画で再現されていたような。

>もしかしたら戦場から英雄が消えてしまうのかもしれません。

その通りです。私の知り合いの先生はFrom Greek to Geekというタイトルの本を書いているとか。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2012-02-07 18:13
ランバダ さんへ

>対象地域の混乱に拍車をかけるのではないかと

ありますねぇ

>世界の個々人の帰属意識が希薄化していくなかでこんなことを続けていっていいもんでしょうか。

そうなった時に「アメリカの価値観」が攻撃されることになりますね。その一つの結果がテロ事件ということで。コメントありがとうございました。
Commented by 待兼右大臣 at 2012-02-12 00:00 x
そういえば、高校か大学生のころ、もし戦争が「国際紛争を解決する手段」というのであれば、自動化された兵器同士による「戦争の無人化」という事態になれば、「安全な」戦争となって、逆に戦争の復権になるのではないかと真剣に考えたことがありました。

そのときの結論は 「人命を賭けるからこそ、国際紛争解決の『最終手段』足りうる」 というものでしたが、本当はどうなんでしょうか。例えば、サイバー戦も、よほどのことがない限り、死者は出ないでしょうから。
Commented by 緑川だむ at 2013-09-26 22:31 x
無人機もNHKのクロ現で取り上げられるに到りましたが、無人機に反対するアメリカ人の言動を見てたら彼らの心理がなんとなくわかりました。

「無人機が子供を殺している」つまり、「無人機に攻撃を命じたアメリカの軍人が子供を殺したのではない」と言う形で、自分たちの国が行っている虐殺から目をそらそうとする心理があるんじゃなかろうかと。

これが無人機ではなく巡航ミサイルや弾道ミサイルや有人機からの爆撃では、発射→殺害の間に「無人機」という「アメリカ人ではない」存在を挟む事が出来ないから、「アメリカ人が子供を殺した」という現実に否応なく向き合わざるを得ない。

現実には無人機は単なるリモコンにすぎないのですが、それをあえて無視して「無人機は人間の判断から自立した戦闘知性体である」とSF的な妄想を差し挟む、または実際に自立型無人機を開発しようとする事で、「子供を殺したのは無人機である」と無意識な責任転嫁が行われているのでは無かろうかという印象を抱きました( ・・)/
Commented by 中山太郎 at 2013-09-27 09:54 x
「無人機問題」これは、これから色々議論されなければならない複雑な問題ですね。あるパイロットが、無人機とペアの飛行は御免だと述べていたのが印象的です。ここらへんも、テクノロジーの進歩で解決されてゆくのか、或いは、人間とロボットは永遠に一定の距離以内は、相容れない関係であるのか。
by masa_the_man | 2012-01-31 21:45 | 日記 | Comments(9)