戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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サイバースペースと国家

今日の横浜北部は相変わらずよく晴れました。気温はかなり低めでして、さすがに外出時には手袋を着用しました。今季初です。

さて、去年の年末から書こうと思っていた書評を一本。いま話題のサイバースペースについての最新刊です。

Cyberspace and the State: Toward a strategy for cyber-power (Adelphi paper)
by David J Betz & Tim Stevens

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原題を直訳すると、「サイバースペースと国家:サイバースペースのための戦略」というわかりやすいタイトルとなっております。

著者はキングスカレッジの二人の若い先生でして、内容もイギリス的なスパイスが随所に見られるかなり本格的なもの。

具体的な内容なんですが、これが思ったよりも歴史的な背景などから丁寧に説明されておりまして、サイバースペースというコンセプトが80年代初期のSF小説などから論じられていたことや、実は古代からサイバースペース自体は存在していたこと、そしてサイバースペースの登場してきた文脈は、19世紀末の電信や電話の登場の時と似ていたり、おまけに西洋の力が衰えてきたように思える時期に出て来たことなど、なかなか興味深い指摘があります。

面白いのはハッカーたちの哲学やポリシーや道徳観、そしてもちろん中国やスタクスネットなどをはじめとする、国家ぐるみのハッキングの事件の背景などについてもしっかり触れられていることでしょうか。

この二人の結論としては、サイバースペースの登場というのは、人間にとって最大のチャンスであると同時に最大の脅威でもあるという矛盾した複雑性をもたらす、ということになるわけですが、実は大メディアに喧伝されているほど破壊的なものではなく、国家(や企業)たちはそれに上手く順応していくのであり、これはエアパワーの登場と比較することができるように、強者をますます強くするというちょっと意外なもの。

もちろん彼らは楽観主義というわけではないのですが、サイバースペースの特殊な性質を戦略家は理解し、それを世間に喧伝する必要があるとしている意味で、なかなか深いところまで論じているなぁと感じました。

ひとつだけ難点を言えば、話が行ったり来たりしてちょっと論文としてはまとまり切っていない部分があるということでしょうか。

それでも全140ページの中に豊富なケースだけでなく、政策に関わってくる哲学・道徳面の考察まで含んで論じられているのは優れものというべきでしょう。おススメです。

というか、誰か訳して出版してくれませんかね??
Commented by 大阪人K at 2012-01-03 22:47 x
>サイバースペースというコンセプトが80年代初期のSF小説などから論じられていたことや、

正しくそれは「ニューロマンサー」のことでしょうか。(笑)
(これ以来、サイバーパンクには気の強い、いい女というのがワンセットになって来るのですが・・・)

>強者をますます強くするというもの。

まず何を持って強者と弱者を規定するかによって、考え方が大きく変わりますが私は弱者がゲリラ戦に使う有効な手段として見ています。(ここで私が想定している強者と弱者は、資金力、組織規模の大きさの大小を想定しています。)
サイバー空間はレバレッジ効果が大きく発揮しやすいため弱者にとっては有効な武器なりえると考えているからです。

よって、以前から博士が仰っているように戦略の階層が重層化して複雑になるだけのように思えてなりません。
(実際、エアパワーにしたってアメリカのエアパワーを以ってしてもアフガンゲリラを殲滅することができませんでしたから。)
by masa_the_man | 2012-01-03 22:40 | おススメの本 | Comments(1)