戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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レイン著「幻想の平和」の書評:毎日新聞日曜版から

お知らせです。

すでにご存知のかたも多いと思われますが、昨日(13日の日曜日)の毎日新聞の書評欄に、拙訳の『幻想の平和』の書評が掲載されました。その重要部分だけ引用貼付け。

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 わたしは、オフショア・バランシングがこれから10~20年のうちにアメリカの大戦略になるとは考えない。それには二つ理由がある。その一つはきわめて単純である。本書はアメリカの大戦略の基本に「門戸開放」のイデオロギーと政策があることを示している。では、なぜ、門戸開放が近い将来、力を失うというのか。

 もう一つ、世界がこれから多極化に向かうことは疑いない。しかし、それでアメリカを中心とした世界秩序が終わるわけではない。かつて19世紀には、国際社会は、国家を超えた超越的権威がないという意味でアナーキー(無政府状態)だったばかりでなく、主権国家の行動を律する国際的規範とそれを体現する制度も未成熟だった。しかし、21世紀の現在、世界には、アメリカの覇権下につくられたさまざまの制度と規範がある。新興国の台頭とともに、こうした制度と規範は変わっていく。しかし、なくなるわけではない。多極化するからアメリカは引くべきだということにはならない

 わたしは、本書(原書)出版以来、大学院のセミナーで本書をテキストの一冊として使っている。国際政治について考えるとはどういうことか、本書の骨太の論理と格闘させることが、学生が成長する上で役に立つと考えるからである。決して読みやすい本ではない。しかし、アメリカの世界戦略について考えたい人には必読の書である。

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実は私は白石教授(良書の翻訳多数)が授業でこの本を使用されていることを知っておりました。ネットで検索すると授業のシラバスが出てくるんですよね。そういうことだったので、訳者あとがきの中にも「日本の大学のごく一部では授業に使われている云々」と書きました。

上の引用の箇所は書評の核となる部分なんですが、やはり問題は教授の考える「オフショア・バランシングは起こらない」という2つ目の理由のところでしょうか。

たしかに教授のおっしゃる通り、「多極化するからアメリカは引くべきだ」という風にはならないかもしれませんが、「財政的に厳しいから引かざるを得なくなる」という可能性はあるかと。つまり、「金の切れ目は縁の切れ目」という古典的なことわざです。

もちろんレインのいうような完全なオフショアバランシングは当分の間は実現せず、現実は「半分はオフショアバランシング、半分は選択的関与」みたいな大戦略が採用されることになるのかもしれませんが、では20年後は?というと厳しいような。

私はレインの提唱する「オフショアバランシング」という大戦略の日本についての重要性は、いままでの日本の安全保障についての考えの大前提となっていた「アメリカの覇権による秩序」という想定の外でものごとを考えるようにわれわれに迫るという箇所にあるのかと考えております。

原発事故でもわかったように、われわれは常に「想定外」を考える訓練をしておかなければならないのであり、それにはレインの指摘するような日本のリベラリズム的な「幻想の平和」ではなく、「現実の厳しい“平和”の実態」というものを根本から考えなおす必要があるのでは、と考えるわけです。

たしかに教授のおっしゃる通りにこの本は「決して読みやすい本ではない」のかも知れませんが、日本がいままでの「幻想」から覚めて国際政治の厳しい現状を考える際には、このようなリアリストの思想が展開されている国際政治の理論書を読んで考えることは、日本の外交・防衛政策をになうエリートたちにとってはきわめて重要なことなのでは。

ということで、書評を書いていただいた白石教授には本当に感謝です。
Commented by masaya at 2011-11-14 12:16 x
キッシンジャーの本にアメリカの外交は孤立主義と十字軍の間を揺れ動いてきたと書かれてありました。第2次大戦後のアメリカ外交は基本的に十字軍的なものでありましたが、今回の不況でそれが変化をする可能性があります。ロバート・ライシュが2020年にはティー・パーティーのような人たちが政権につくと予測しています。その時のアメリカの世界に対する態度はより孤立主義的になっているのではないでしょうか。
Commented by 名無し at 2011-11-14 12:18 x
一つ目の条件にある門戸開放も、強ち万全とは言えないような。
ユーロ危機のような外的な要素とともにアメリカ経済の不況が改善されない場合、保護貿易に走る可能性も否定は出来ない気が。
とは言っても確率としては無視してもいい程度か。
Commented by ふゆづき at 2011-11-14 22:22 x
米国の覇権という傘の下に慣れた日本にとって、7年戦争の時のプロイセンのように、オフショアに位置する国(プロイセンの場合には英国)にとって同盟国に足る存在になるということのハードルは、決して低くないと思います。
米国の覇権という傘が無くなると、吉田ドクトリンがそのままでは通用しなくなると思いますが、だからといって米国の重要性が減少するものでは無く、米国との関係を維持しつつ全方位に触覚を伸ばして、常在戦場の気持ちで事に当たらなければならないということではないでしょうか?
間違っても、日本がゴーリストの道を歩まないようにしなければなりませんね。
Commented by 待兼右大臣 at 2011-11-15 23:18 x
>>想定の外でものごとを考えるようにわれわれに迫る

そういう場合、我が国では「縁起でもない」という言葉で、想定外に追いやられます(特に政治的な場面で)。

という井沢元彦氏の「言霊」理論は説得力があります。そして、そのために、原発建設でも「リスク」の議論ができなかったのではないかと思います。
(誰しも、「リスクがある」というものをあえて行うという「リスク」を引き受けたがらない)
Commented by masa_the_man at 2011-11-16 17:42
masayaさんへ

>今回の不況でそれが変化をする可能性があります。

ありますねぇ。まあそうならなかったとしても、それを想定して色々と考えておくことのほうがむしろ大切、というのが私の立場です。

>ロバート・ライシュが2020年にはティー・パーティーのような人たちが政権につくと予測しています。その時のアメリカの世界に対する態度はより孤立主義的になっている

お金の問題ですからね。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2011-11-16 17:44
名無しさんへ

>一つ目の条件にある門戸開放も、強ち万全とは言えないような

その通りですね。

>アメリカ経済の不況が改善されない場合、保護貿易に走る可能性も否定は出来ない

まったくできません。

>とは言っても確率としては無視してもいい程度か。

こればっかりはなんとも。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2011-11-16 17:45
ふゆづき さんへ

>米国の覇権という傘が無くなると、吉田ドクトリンがそのままでは通用しなくなる

まさに。

>常在戦場の気持ちで事に当たらなければならないということではないでしょうか?

それです。

>間違っても、日本がゴーリストの道を歩まないようにしなければなりませんね。

短期的にはその通りですね。ただし終わりが見えてきた時には・・・コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2011-11-16 17:46
待兼さんへ

>我が国では「縁起でもない」という言葉で、想定外に追いやられます(特に政治的な場面で)

わははは(笑

>原発建設でも「リスク」の議論ができなかったのではないか

まあできませんね。

>誰しも、「リスクがある」というものをあえて行うという「リスク」を引き受けたがらない

これは至言ですねぇ。コメントありがとうございました
by masa_the_man | 2011-11-14 11:01 | 日記 | Comments(8)