エアシーバトルの興味深い関係性 |
先日の私のソロ講演会にご参加いただいた方々、本当にありがとうございました。久々のソロ講演会でちょっと緊張したのですが、なんとか無事に終えてほっとしております。
さて、久々に私の思いつきを一つ。
日本の防衛コミュニティーでも注目されている、例の「エアシー・バトル」というコンセプトなんですが、私が見る限りでは、主に日本で行われている分析は「アメリカがこのコンセプトをどう考えているのか」というものや、「それが日本の防衛体制にとってどういう意味があるのか」というものばかりで、肝心の「エアシーバトルの戦略コンテクスト」というものがあまり解説されていないように思いました。
ということで、私は主に戦略論的な観点から、ビジネス戦略の理論として有名なランチェスターのものからヒントを得て以下のように簡単に分析してみました。
まずは「ランチェスター戦略」ですが、これは元々イギリスのランチェスターという軍人が戦闘機の空中戦の成果の分析法(オペレーションズ・リサーチ)として編み出したものですが、日本の故・田岡氏によってビジネス用のものとして完成させられた戦略、というか、戦術分析のことです。
これをアメリカが「エアシーバトル」というコンセプトをなぜ必要としているのかという観点から考えていくと、面白いことがわかります。
まずはランチェスター式の分類法で考えますと、「強者のとるべき戦略」と「弱者のとるべき戦略」というものが分類できます。まずは以下のように列挙してみますが、
●「強者の戦略」:
1、広域戦
2、総合戦
3、確率戦
4、遠隔戦
5、正面突破
という特色が出てきます。それの反対としては、
「弱者の戦略」:
1、局地戦、
2、一点集中
3、一騎討ち
4、接近戦
5、陽動作戦
ということになります。
で、これを「エアシーバトル」が適用されている状況に当てはめて考えてみますと、
強者:アメリカ(そして日本をはじめとする同盟国)
弱者:中国、イラン(そしてヒズボラなどの非政府組織など)
ということになります。あまり公式の文書ではいわれませんが、エアシーバトルで想定されている「敵」は、東アジアでは明らかに中国なんですね。
そしてこれをランチェスターのこの二つの分類に当てはめてみますと、
●アメリカ(強者)
1,広域戦=中国の沿岸部を広い範囲で封じ込める
2,総合戦=空・海軍を中心に、大量の武器とテクノロジーの優位をつかって
3,確率戦=範囲を広げるが細かいところで小さなポイントをかせぎ
4,遠隔戦=もちろん「オフショア」の離れた安全な場所から
5,正面突破=基本的に洋上部隊を通じた正攻法
●中国(弱者)
1、局地戦=自国の沿岸地域に入れないようにする(A2AD)
2、一点集中=空母など、大きなターゲットの破壊に集中
3、一騎討ち=奇襲で一対一、最初の一撃が大事
4、接近戦=自国の領海で潜水艦・ミサイル・衛星などで対処
5、陽動作戦=外にはプロパガンダ戦、自国の実力は明かさず
というアナロジーが使えるかと。
基本的に中国人民解放軍は(当たり前ですが)米軍に対しては自分たちのことを「弱者」ととらえており、それに見合った戦略を採用しているということがなんとなくおわかりいただければ。
以上、簡単ながら米中のエアシーバトルから見える関係性についてメモ代わりにまとめてみました。