戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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口頭試験の内容:後半

今日の東京はすっかり晴れて気温が上がりましたが、午後からなんとなくはっきりしない雲が多めの天気に。暦の上では夏に入りましたが。

さて、口頭試験の後半の話を。

前半は二人の試験官のおおむねポジティブなコメントに終始していた最終口頭試験なんですが、後半も実は終わりに近づくにつれてさらに「雑談化」してきました。

まずは二人の先生のコメントが終わったところで、イギリス海軍史の歴史家である外部試験官が、私に質問というか、確認する形で、具体的に論文の中のページ番号を示しつつ、

「ここで君はこう言っているが、これはどういう意味かね?」

という、今回ではじめて本物らしい質問が出てきました。

ところがそれも数カ所で、たとえばその例としては、「この本はたしかにベストセラーになったものだが、歴史書としては認められていないので、たとえ社会的影響は大きかったとしても学術論文には引用するな」というものがあったこと以外には、「変化するのは地理ではなくて、地理観のことだよね?」という確認するようなものばかり。

これでほぼ一時間くらいがすぎたわけですが、その中で一番盛り上がったのは、海軍史家であったジュリアン・コルベットの交流関係と、そして私の論文の中でも最も重要な概念となった「コントロール」という言葉の位置づけについて。

まずはその外部試験官は、コルベット(マハン以降の最大のシーパワー理論の大家)は、実は地政学者のマッキンダーとかなり交流があったことに言及しました。

私はこの二人に交流があったことを(互いの文献を読んでいたにもかかかわらず)知らなかったのですが、どうやら外部試験官はこの関係について色々と調べて書いているところだったらしく、マッキンダーが20世紀の初頭に何を狙って論文を書いていたのか、当時のイギリスのエリートたちの脅威認識、つまり「世界観」についてコメントをしました。

それい対して私はマッキンダーが「大戦略」を語っていたことや、その理論では軍事戦略レベルにおける「勝利」(ヴィクトリー)ではなく「コントロール」を狙っていたことを強調しますと、この試験官がこれに大いに賛同してくれまして、「コントロール」の定義としては、

「不確実性(uncertainty)を減少すること」

であると考えていると披露してくれました。

たとえば現在の覇権国であるアメリカにとって独裁者の存在が必ずしも悪くないのは「彼らの行動がある程度予測できる」という点にある、という話になりまして、それから北朝鮮の不確実性と予測しやすい部分、それにアメリカの中東諸国に対する態度などの話になってまた脱線。

その後はコントロールの話からアメリカの覇権の話になると、今度はアメリカのグローバル化の勢力として「コモンズ」(公共財)を提供している立場と、それに「タダ乗り」(フリーライド)しているイギリスや日本のような立場についての意見交換が交わされ、

私(日本)
外部試験官(イギリス)
内部試験官(アメリカ)

という三者の立場から現在のアメリカの覇権についてどのように感じているのかという話になって大盛り上がり。

昔世界帝国を築いているイギリス人の立場からは現在のアメリカに「従属」している立場はどうなのか聞いてみると、外部試験官は、

結局のところ、われわれはアメリカが築いた世界秩序にフリーライド(タダ乗り)しているんだ。これは日本だけの立場じゃなくて、イギリスもそうだし、これからアメリカの覇権に対抗しようとしてくる中国だって実質的にはアメリカにフリーライドしているんだ」

という、冷静な意見。それに対して世界秩序をになっている立場のアメリカ側としてはどうだという意見を聞くと、内部試験官の若い先生は、

アメリカは自分たちのことをバットマンだと思っているんだ。たまにロビンのようなキャラ(日・英など)を従えて悪を倒す、みたいな」

という興味深い視点を提供。

このような論文をネタにした話で盛り上がって話をしていると、いつのまにか1時間15分ほどたち、そろそろ終わりという雰囲気になったところで、この試験会場を提供している例の女性教授(試験は彼女のオフィスで開催)が突然ノックして入ってきて、

「もうそろそろ終わりじゃない?あとどれくらい?」

と大胆に聞いたのです。私はこの瞬間に試験をやっていることを思い出してまた少し緊張したのですが、外部試験官は

「そうだね、もう最後の質問だからあと5分くらいだな」

と、嬉しいような、しかしその結果をまだ知りたくないような、微妙な返答。

「そろそろ終わりにしてちょうだいね」

という軽く圧力をかけるようなコメントを女性教授が残していったあと、再び気をとりなおして試験が再開したわけですが、どうも話題は脱線して、しまいには

●イギリスの戦いかたとアメリカの戦いかたの違い

●なぜ中国はイギリスが香港をとってもあまり気にしなかったのか

●プラトンやジェファーソンはランドパワーの味方だったこと

●イギリスだって今はロジスティクスがしょぼいこと

●イギリスがなぜ第一次大戦直後にカメルーンにあるドイツの無線基地を破壊したのか

などのように話がかなり脱線してしまい、「あと5分」と言った時点から、結局30分間ほど歴史談義に花をさかせて「談笑」して、開始から1時間45分ほどたった時点で、とりあえず試験は終了ということになりました。

この後、私はひとりだけ部屋の外に出されまして、5分ほど二人の試験官が最終結果を議論するまで待つことになりました。

この5分間なんですが、手応えはあったにせよ、これまでの一生で感じた5分間の中でおそらく最も長く感じた5分間のうちの一つであったように思えます。

そして本当に5分ほどすると、内部試験官が部屋の中から姿を現し、私に部屋に入ってくるように呼びかけました。

いよいよ審判の瞬間が近づいてきたわけです。

とここまで書いて時間切れです。続きはまた後ほど。
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(蹴ります、そして噛みます)
Commented by 奥山さんが地政学で学んだことは at 2011-05-07 02:38 x
クリフハンガーでもあったのか><;

立場の違う人達がある認識について語り合うときって、世界観の再構築が起きることがありますよね。

僕にはここで書かれているほとんどのことが分からないけど、知的興奮の片鱗に触れたような気がしました。

続きも期待しています。
Commented by sdi at 2011-05-07 02:53 x
率直な感想ですが、まるで雑談して終わっているような印象をもちました。口頭試問というから、もっと丁々発止な突っ込みと突っ込み返しみたいなやりとりを想像していたのですが。でも、面白かったでしょうね。
>「アメリカは自分たちのことをバットマンだと思っているんだ。
>たまにロビンのようなキャラ(日・英など)を従えて悪を倒す、みたいな」
思わずウンウンと頷いてしまう一言。同時に「アメリカが主導権を決して手放さない」というニュアンス込みですね。あくまでヒーロー(主役)は自分(アメリカ)だ、きみら(英・日etc)はオレのサポートなんだぞ、というのがアメリカの本音でしょうか。ちなみに、ロビンがイギリスでバッドガールが日本ですかね(笑)。
Commented by 寝太郎 at 2011-05-07 21:04 x
>(蹴ります、そして噛みます)

流石のコメントです。 そして遅まきながら、おめでとうございます。
by masa_the_man | 2011-05-07 02:12 | 日記 | Comments(3)