国際関係の「三つのイメージ」:再録 |
さて、国際関係に大きな影響を与えるリビア情勢の先が見えない中東はますます混沌となってきましたが、今日は裏のほうでも活用している、ウォルツの「三つのイメージ」について。
実は去年あたりから、ビジネスをやっている方々の前で私がお話させていただく時にウォルツの「三つのイメージ」という分析法を使うことが多くなったのですが、この概念についておさらいをするために、かなり昔にこのブログのエントリーで書いたものの中の、主要部分だけをもう一度ここに貼りつけておきます。
これは自分の人生や組織の戦略を考える場合にも使えますので、ぜひ応用してみて下さい。
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国際関係や世界情勢を論じる場合の考え方の枠組みとしてさまざまな方法があるのですが、これをわかりやすく分類したのが、ネオリアリストの創始者であるケネス・ウォルツ(Kenneth N. Waltz)でした。
ここでも何度か紹介している名著、『人間、国家、そして戦争』(Man, the State, and War)という古い本(1959年刊)の中で、ウォルツは「ファースト・イメージ」、「セカンド・イメージ」、「サード・イメージ」というアイディアを提案しております。
これはどういうことかというと、国際政治の動きを分析する際に「どのレベルを見ていけばよいか」ということを言っているわけです。
たとえば今回の「アメリカによるイラク侵攻」という事件があったとして、これをブッシュとフセインの関係など、個人の関係などから分析するやりかたがありますが、これを「ファースト・イメージ」による分析といいます。
ところが同じ事件をネオコンや政府内の省内の権力争い、ロビーなどの団体や組織の面や、アメリカの文化などから分析する方法もあります。これは国内レベルを中心に見ますので、「セカンド・イメージ」。
そして国家同士の力関係や国際システムなどの枠組みの変化によってアメリカが侵攻した、という分析は、もっとも高いレベルの「サード・イメージ」による分析である、ということになります。
ウォルツはこの三つのレベルの強さを比較検討して、最終的には「サード・イメージ」、つまり国家の国際レベルの枠組みの力が国際関係を動かすもっとも強力な要素だという結論を出しております。
もちろんすべての国際政治の動きはこのように単純ではなく、ファースト・イメージからサード・イメージまでの力が複合的に組み合わさったものなのですが、とりあえずこの分析法を理解しておくととても便利だということです。
問題なのは、日本をはじめとする国際関係を分析する人々が、往々にしてこの三つのイメージの分析を整理せず、ごちゃまぜにしたままでいる、ということですな。
もちろんこの分析をごちゃまぜにしてもかまわないのですが、欧米の国際関係を分析する学者たちの間では、ウォルツのこのような分析の仕方を基本知識として持っている、という点で大きなアドバンテージなのです。
で、私が翻訳したミアシャイマーなのですが、完全に「サード・イメージ」による分析。
これを理解できているといないとでは、なぜミアシャイマーが「国際システム内の枠組み」の中だけで議論をしているのかわからない、ということにもなりかねません。
もちろんミアシャイマーはナポレオンやヒトラーについても論じているのですが、自身の国際関係の理論であるオフェンシヴ・リアリズムを説明する際には、下の二つのイメージを完全に無視して議論を行っております。
もちろんウォルツも言いだしっぺだったので、1979年に発表したネオリアリズムの聖書である『国際政治の理論』では完全に「サード・イメージ」だけの分析でした。
ところがウォルツの「サード・イメージ」だけによる理論では、うまく説明できないことがたくさんありまして、それを出版直後から色々とほかの研究者に突っ込まれておりました。
よって、彼の弟子たちは、この「サード・イメージ」だけの理論に、「セカンド・イメージ」の要素、つまり国内政治の要因(軍国主義、官僚政治、国内の政治闘争など)を含むことによって補ったわけです。
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この「三つのイメージ」による分析なんですが、かなり応用が効きます。
たとえば「グローバルに展開しているある自動車会社の業績が落ちている」というケースを分析しようとした場合、「三つのイメージ」から考えると、
●サードイメージ:欧米を中心とするサブプライムローンの失敗による、世界経済の失速が原因
●セカンド・イメージ:日本の政府、社会制度、もしくは会社組織そのものの制度疲労などが原因
●ファースト・イメージ:社長をはじめとする会社のリーダーたちの責任
という風にわけることができます。
ちなみにこれは個人の人生を分析する際にも使えるわけで、たとえば「最近自分の収入が落ちているなぁ」と考えた時に、その原因を探ってみると、
●サード・イメージ:世界の景気が悪いことに原因がある。
●セカンド・イメージ:会社がダメだから問題がある。
●ファースト・イメージ:自分自身に問題がある。
という風に考えられるわけです。
ここで重要なのは、あらゆる分野で「成功した人物」というのは、どう考えても「ファースト・イメージ」で考える人、いいかえれば「人生で起こる全てのことは、自分に責任がある」と考えている人が圧倒的に多い、という事実です。
そこで教訓:自分の人生は徹底的にファースト・イメージで考えるべし
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