戦略についてのある論文:その17 |
しかしこれは「この決断が戦略的な論理以外のものにしたがって決定されなければならない」ということを示していることにもなる。なぜならチャーチルが成功する確率はヒトラーのそれよりも明らかに高かったというわけではないからだ。
たとえばヒトラーはソ連侵攻のための論理的根拠をもっていたし、アメリカに対しても宣戦布告している。ソ連を攻撃したのはソ連のパワーが増加していたからであり、イギリスはそれを予防的に行ったのだ。
この時にロシアの応援を待っていたら、イギリスはいつまでたっても何もできなかったはずだ。ソ連の陸軍はフランス軍よりも弱かったし、アメリカの戦争は不可欠だったが、本格的に武力が使用されるまでは一年以上かかると見込まれており、それまでに戦争は終わっていて、大陸での決着はついていたはずなのだ。アメリカに対する宣戦布告は枢軸国の条約履行の義務を果たさせる役割を果たし、これによって日本は米ソの国力を削いでくれるチャンスを増加させることになるのだ。
ヒトラーはソ連軍の実力に関して正確な情報を把握していたわけではないし、同時に彼らはポーランド、ノルウェー、フランス、ギリシャ、そしてユーゴスラヴィアに対して連戦連勝をおさめていたので、自分たちの陸軍の強さを疑う理由はどこにもなかったのだ。
ヒトラーの決断の論理的根拠がチャーチルのそれよりも無謀に見えるのは、歴史を後から振り返った場合だけなのだ。