戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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インテリジェンス研究と戦略学のギャップ

今日のイギリス南部は朝から小雨でして、午後にはやみましたが、それでもどんよりした肌寒い一日です。

さて、イギリスに着いた翌日にいきなり週一ミーティングに参加しまして、久々に先生やコースメイトたちの顔を見て来ました。

クラスに入ると空軍大佐の隣の席が空いていたので座ると、いきなり彼はJAXAの話をしてきました。私が学会でスペースパワーの発表があり、大佐の名前も参考文献のところで出ていたと言うとかなり嬉しそうにしておりました。

そして先生ですが、どうやら第二次大戦の英軍のエアパワーについて書いるらしく、「バトル・オブ・ブリテン」や、なぜか若いころのマルクスが書いた言葉(人間が歴史をつくる云々)という言葉を引用しつつ、戦略を決めるのは一体何なのかを論じておりました。

そして今日の発表は、以前ここでも登場したことがある、若いイギリス人のコースメイトによる「インテリジェンス研究と戦略研究のギャップについて」というテーマの論文の内容のプレゼン。

彼によれば、現在の(日本でも盛んになってきた)インテリジェンス研究と、戦略研究(strategic studies)の間には大きなギャップがあり、これを彼は埋めて行きたいと考えているとのこと。

そのためのケーススタディとして、彼はスエズ危機やイラク侵攻の時のインテリジェンスと戦略の形成のされかたについて調べているとのこと。

とりあえずいままで調べたものとして出てきたのは、冷戦時代のインテリジェンスというのは核兵器が中心的であったこともあり、きわめてテクノロジーに偏ったものだったらしいのですが、冷戦後はテクノロジーが有利なアメリカがなかなか苦労していることも踏まえてインテリジェンスに注目が集まったという背景が。

しかしこのインテリジェンス、まずはその定義が難しいことが挙げられますし(事実、この発表した彼も具体的な定義を出さなかった)、最近の研究ではあまりにも「インテリジェンスの客観性」というものがフォーカスされすぎてしまい(例:ピーター・ギル等)、内部のダイナミズムだけに特化したものばかりが増えているとか。

これに対して私の先生がコメントしたのは、インテリジェンスというのも(完璧ではない)人間が行う主観的な行為であり、それには絶対に「コンテクスト」というものが含まれる、というもの。

というのも、先生としてはまず国家の政策やその時の雰囲気、そして物事の流れみたいなものがあり、それがインテリジェンス活動そのものにも影響を与える例を身近に何度も見て来た部分があるからだそうです。

結局のところ、政府につかえる人間というのは、どうしても家族や出世という自分の保身という部分を考えなければなりませんし、あからさまに政府が聞きたくないことを堂々と言えるわけでもありません。

そして最後に、戦略は(理論上では)インテリジェンスの上にくること、インテリジェンスは基本的に「政治活動」であること、そして戦略研究というのは体系化された学問(ディシプリン)ではないし、インテリジェンスも同様ではないか、とコメントして締めくくりました。

面白かったのは、このコメントの途中で、戦略とインテリジェンスの関係の中で、

①情報を集める人
②その情報を分析する人
③政策や作戦を実行する人

という意味で役割が違うということを強調していたことでしょうか。

最後には別の若い先生が、今回のイスラエルがパレスチナ支援船を強襲した際に少し返り討ちにあった(「平和活動家」に棒でボコボコにされた)ことについて「インテリジェンスの失敗だ」と指摘しておりました。
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(本日午後の近所の様子)
Commented by 無花果 at 2010-06-02 09:25 x
イスラエルのパレスチナ支援船襲撃事件は、英国の方にとってはどうしてもWW2の頃のエグゾダス号事件を思い起こさせるのではないでしょうか。
イスラエルにとっては皮肉な事ですが。
Commented by 上山祐幸 at 2010-06-02 15:54 x
 お疲れ様です。

 私が、航空自衛隊に勤務していた時のことです。
 
 秘密保全を訴えるために通信戦史を整理しようとしていた時に、冷戦期各情報機関には科学情報を収集する部門があった…云々と書いていた本(資料)を読んだことを思い出しました。

 インテリジェンスをやるときに感じることは、収集するのも分析する、その情報をもとにして判断するのも人間で、人間はおかれる状況によって様々な反応を示すということです。

 私は「人間は不安定である」というアサンプションのもとで、様々な要因によって様々な反応を示す以上、戦略研究やインテリジェンスなどをある一定のレベルまでは体系化できるが、完璧なものにはならないと考えています。

 戦略研究をある一定のレベルにまで持ってくるにしても、その国の文化や歴史、地形などを考慮する必要があり、それらの研究も非常に重要なのではないかと感じています。

 戦略研究は色々な学問の複合なのだなと感じています。

 奥が深い…
Commented by elmoiy at 2010-06-02 20:10 x
>まず国家の政策やその時の雰囲気、そして物事の流れみたいなものがあり、それがインテリジェンス活動そのものにも影響を与える例

菅原出『戦争詐欺師』(講談社)にこの辺の様子がよく描かれていますね。「政策立案者はインテリジェンスを政治的に利用する、すなわち自分たちが推奨する政策を正当化する目的で、彼らの望むように情報分析を歪めるように情報機関に対して圧力をかける傾向がある」と。

>冷戦時代のインテリジェンスというのは核兵器が中心的であったこともあり、きわめてテクノロジーに偏ったものだった

科学やテクノロジーは整合的ですが、人と社会は矛盾を含んでおり、本質的に科学の象限に取り込めませんからね。イギリスはかつて植民地で異民族を統治した経験があるので、アメリカよりはうまくやっているのでしょうか?地理学や文化人類学が、帝国主義的拡大や植民地統治という必然性と相まって発展してきたことはよく知られていますが。
Commented by Nate at 2010-06-02 21:20 x
こないだ「抑止」の話が出たときに書きたかったことなんですが、今日はその「努力」の結果が出て来たということで、書き込ませていただきます。
USは朝鮮半島情勢を使って(あるいは作り出して)、沖縄基地問題の抑止に成功したと見ていますが、どうでしょう?
結果として首相、幹事長がそろって辞任というのがその抑止戦略の表れなんでしょう、、、、っていうのは穿ちすぎでしょうか?
Commented by nanashi at 2010-06-02 21:46 x
インテリジェンスは論理ですね。テキスト分析・クリティカルシンキング。
戦略は論理ではなくアートですね。アートの材料をインテリジェンスが提供しますが。
鳩山の腹案はやっぱりグアム・テニアンらしいですね。
米国はノムヒョンに続いて二枚目の絵を描こうとしたが、アートではなくドジョウすくいでした。大失敗です。
その直後に魚雷撃沈事件。
韓国 ハリキッテマスネ。米国にとっても韓国は鬼門になると思います。
Commented by 大阪人K at 2010-06-02 22:04 x
冷戦時インテリジェンス活動において、東側は西側より優秀だったような印象があります。(秘密の世界であるため、実際どうかは分かりませんが・・・)

西側の場合は自由主義を標榜しているため、東側の工作に弱い側面があったのは否めません。

それでも東側のインテリジェンスは自陣営が崩壊することを止めることが出来なかった。

結局は「③政策や作戦を実行する人」の世界観が国の明暗を分けるという当たり前の話に帰結するのでしょうね。
Commented by enronnie at 2010-06-02 22:27 x
はじめまして。いつも興味深く読ませていただいています。twitterもフォローさせてもらいました。
インテリジェンスについて、このブログでよく論じられている内容との絡みだけで申し上げれば、
(1)インテリジェンスの政治化(politicization)は双方向から起こるもので、政治がインテリジェンス機関に対して望ましい情報を上げてくるように明示・暗示の指示を出すことと、インテリジェンス機関が政治にすり寄って、望ましいと思われる情報を上げる傾向が強まること、この両者が同時並行的に人間関係のダイナミズムの中で(つまり外形的に判別不能)起こると言われています。英国でのイラクWMD存否問題について、公式調査報告(バトラーレポート)ではpoliticizationはなかったとされていますが、国民はMI6がsex upしたと思っているようです。
Commented by enronnie at 2010-06-02 22:27 x
つづきです。
(2)本文の③の人と②の人は客観性や相互チェックを担保するために分けるのが普通ですが、分けなかった好例2つ。どんな悪い情報も上げてこさせて自分で判断したチャーチルと、部下を誰も信用しなかったためにすべての生データを上げさせた独裁者スターリン。通常、前者は戦時&卓抜した個人として幸せな例外扱いされますが、後者の例は他山の石とすべき好例かもしれません。その意味で、③の人の世界観云々という大阪人Kさんのコメントに同意です。まぁ、横綱は政策や作戦を実行なんてしないでしょうから、チャーチルが大関、スターリンが前頭だったということでしょうか(笑)
翻って、前頭か小結しかいない政治指導者層を見るに、学ぶべきは英国の成功例ではなく、旧ソ連の失敗例のような気がする昨今の日本ですな。長文失礼しました。
Commented by sdi at 2010-06-02 22:35 x
data→infomation→intelligenceとなる過程でなにが行われ、その時に何が入り込むかについて、故江畑氏の「情報と国家」が論じています。この本でも、湾岸戦争やイラク戦争を題材として論じています。最後に、infomationを分析・評価してintelligenceにする時は客観性を保たなくてはならないがそれが難しい、と結んでます。
情報を収集・分析・評価する各段階で「人」の思考が介在します。ただのdataの集合に担当者の思考が混ざることで有用なintelligenceになる、と言えるかもしれません。さらに、その情報を元に政府・軍統帥部などが「決心」するのですから、ここでも人の「思考」が介在します。人が論理100%で思考・判断・行動できると私は思っていません。ですから、私には記事中の「インテリジェンスは基本的に『政治活動』」というのは、かなり納得のいく結論です。
インテリジェンスについて客観性を維持することもそうですが、他者の「政治活動」に影響されたり主導権を取られないように安全措置を設けることが必要なのでしょうね。特に自分に都合のいい情報だけを選択し取り込み続けて斜め上の方向の判断をする、なんて無様な真似は避けたいですが、言うは易し行うは難しですね。
Commented by masa_the_man at 2010-06-03 04:16
無花果さんへ

>WW2の頃のエグゾダス号事件を思い起こさせるのではないでしょうか。

なるほど、それは一部あるかもしれません。それにしてもこっちでは大々的にトップニュースです。イスラエルロビーの多いカナダの報道は好意的ですが。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-06-03 04:18
上山さんへ

>「人間は不安定である」というアサンプション

ああ、これはいいですね。

>ある一定のレベルまでは体系化できるが、完璧なものにはならない

なりませんね。

>色々な学問の複合なのだなと感じています。

だいたい戦略研究のスターたちが分野バラバラですからね。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-06-03 04:20
elmoiyさんへ

>菅原出『戦争詐欺師』(講談社)にこの辺の様子が

あるかも知れません。

>人と社会は矛盾を含んでおり、本質的に科学の象限に取り込めません

つらいところですがねぇ。

>イギリスはかつて植民地で異民族を統治した経験があるので、アメリカよりはうまくやっている

それはあるかも知れません。すくなくともエリートたちは他国の文化をマジメに研究しようという姿勢がありますね。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-06-03 04:21
Nateさんへ

>今日はその「努力」の結果が出て来た

なるほど(笑

>USは朝鮮半島情勢を使って(あるいは作り出して)、沖縄基地問題の抑止に成功した

一理あるでしょうな。全てではないと思いますが。

>首相、幹事長がそろって辞任というのがその抑止戦略の表れ

しかしこれは日本側の政府のだらしなさもあるわけですから一概にはなんとも言えないところが。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-06-03 04:23
nanashi さんへ

>インテリジェンスは論理ですね。テキスト分析・クリティカルシンキング。

これはどうですかねぇ?そもそも定義があやふやなところがあるのでこういうことは言えないかと。

>戦略は論理ではなくアートですね。アートの材料をインテリジェンスが提供しますが。

これはわかります。

>米国にとっても韓国は鬼門になると思います。

というか、この構造は1945年からアメリカにとって変わってませんよね。ブリッジヘッドをめぐる争いということで。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-06-03 04:27
enronnie さんへ

>インテリジェンスの政治化(politicization)は双方向から

なるほど。

>この両者が同時並行的に人間関係のダイナミズムの中で(つまり外形的に判別不能)起こると

これですね、発表者の彼が言っていたのは。

>分けなかった好例2つ。どんな悪い情報も上げてこさせて自分で判断したチャーチルと、部下を誰も信用しなかったためにすべての生データを上げさせた独裁者スターリン。

なるほど。これはベッツも戦略とのからみでよく使う例ですな。

>チャーチルが大関、スターリンが前頭

うまい(笑

>旧ソ連の失敗例のような気がする昨今の日本

ですねぇ。なんだか悲しくなってきますが(苦笑)しかし参考になりました。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-06-03 04:29
sdi さんへ

>最後に、infomationを分析・評価してintelligenceにする時は客観性を保たなくてはならないがそれが難しい、と結んでます

というか、そもそも不可能でしょう(笑

>ここでも人の「思考」が介在します

私の先生が一番強調しているのはここですね。

>他者の「政治活動」に影響されたり主導権を取られないように安全措置を設けることが必要

うーん、そうなんですが、この安全装置も所詮は人間がやることなので・・・

>言うは易し行うは難しですね。

結局こうならざるを得ないかと(苦笑)コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-06-03 04:43
大阪人Kさんへ

>西側より優秀だったような印象があります。(秘密の世界であるため、実際どうかは分かりませんが・・・)

たしかに私もそんな印象がありますが・・・それをうまく活かせていなかったとは思いますが。

>それでも東側のインテリジェンスは自陣営が崩壊することを止めることが出来なかった。

これですね。決定的です。

>結局は「③政策や作戦を実行する人」の世界観が国の明暗を分けるという当たり前の話に帰結

そうなります。いくらすごくても、それを使えなければ意味ないですからね。コメントありがとうございました
by masa_the_man | 2010-06-02 03:03 | 日記 | Comments(17)