戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28

抑止:その1

ある本にあった解説を訳したものです。前半だけここに貼付けておきます。

==============

Deterrence

●抑止とは、もし相手が従順な態度でこちらの望むような行動をしなければ条件付きで仕返し/懲罰を求める、というコミットメントのことである。

●したがって、抑止とは個人間やグループ間の関係性についてのことだ。たしかに、抑止というのは子どもの教育のためのしつけのシステムから国際関係まで、かなり広範囲にわたる「社会関係」までカバーしていると言えるのだ。

●この関係性は、たった二人の人間の関係―「圧力をかける側」と「かけられる側」―として置き換えることもできよう。

●したがって、「圧力をかける側」(Imposer)は「圧力をかけられる側」(Target)が望ましくない行動をとることを、懲罰の脅しによって思いとどまらせようとするのだ。

●抑止ではネガティヴな「制裁措置」、もしくは「脅し」だけに集中するのであり、これによって望ましくない行動を防ごうとするものだ。したがって抑止というのは調和的な関係よりも、敵対的な関係の中で広く一般的に普及しているものだ。

●「圧力をかける側」は、自分たちが気に入らない状況や、自分たちが対抗することを狙う「圧力をかけられる側」の行動やプレゼンスに対して脅しを行う確率が高いのだ。

●この意味で、抑止というのは制裁の使用によって形作られる社会対抗的な状況によって決定される、パワー関係の特別な例である。さらにいえば、抑止というのは徹底的にネガティヴな制裁に関係しているのだ。

●抑止というのは、脅威のシステムについてのアイディアや、リアリストの伝統における戦略研究の分野によくありがちな「懲罰を行うぞ」という条件付きの約束がもとになっている。

●1945年以降の核兵器の登場は、この分野の研究家たちにとって新たな挑戦となった。その理由は、核兵器の使用をちらつかせて脅すことは専門家や政策家たちにとって特別な問題を持つように見えたからだ。このクラスの脅しにつきまとうのは、どうしてもそれが信頼性に欠けるからだ。

●相手側が核兵器を持っているという現実を一旦知ってしまうと、核による脅しは「圧力をかける側」にとってみれば合理的に考えても実行するつもりのない条件付きの約束であることになる。なぜなら「圧力をかける側」はそれを実行しても何も得ることがないからだ。

●もし「圧力をかける側」が脅しを本当にその実行できるようなポジションになってしまえば、その本来の目的は失われ、実行そのものの価値はなくなってしまう。

●逆説的だが、これは「圧力をかけられる側」が説得されて、脅威が本当に効果をもっており、「圧力をかける側」が実行することに躊躇しないような状態である場合には当てはまらない。

●簡潔にいえば、実現可能性が不確定であればあるほど実際にその脅しが実行される確率は減るのだ。


●すでに述べたように、この不確定な脅しを十分パワフルにするための問題というのは「信頼性の問題」と考えることができる。

●信頼性というのは脅威が実行されるというプロセスそのものなのだ。

●第一に、脅威を実行可能にするには、それが相手にハッキリと伝わらなければならない。

●第二に、脅威は「圧力をかけられる側」のもっている数少ない価値のものを奪うようなものでなければならないのだ。

●「圧力をかけられる側」は、もし従わなかったら犠牲にして、もし応じたら我慢するような、どの価値よりもはるかに高い価値を見定めないといけないのだ。

●「圧力をかけられる側」が「失うものは何もない」と感じている場合に強制しづらくなるのはまさにこの理由からだ。

●このような状況の場合、抑止は機能せず、「圧力をかける側」は信頼性を保つために、そしてハッタリと見られないようにするために、その脅しを実行しなければならなくなる可能性が高まるのだ。

●このような問題は研究書などでは「事前事後状況」と言われており、これは脅威というのは実行される前のほうがもっともらしく思われるのに、実行された後には逆に怪しいものになるということだ。

●このような考え方を使って、相互確証破壊(MAD)に批判的な人々はこの戦略には信頼性がないように見えると論じている。
Commented by Oink at 2010-05-25 20:48 x
「地政学的リスク」という言葉が、日本の記事・ニュースで
良くみかけますが、いまいちちゃんとした定義が無いような。
Commented by nanashi at 2010-05-25 22:55 x
「戦略原論」ですか?
戦争に勝つということはどういうことか?という問いを立てないと戦略論にはならないと思います。
軍事的に勝利しても、戦後に反感を残したのでは勝ったことにならない。どうしても世界観や言語やパブリックデプロマシー(プロパガンダ)が必要になります。そのへんのことが本書にはないのが少し残念です。
Commented by masa_the_man at 2010-05-26 00:33
Oinkさんへ

>「地政学的リスク」という言葉が、日本の記事・ニュースで
良くみかけます

最近増えましたよね。

>いまいちちゃんとした定義が無いような。

ないですね。まあ「安全保障問題がマーケットに及ぼす影響」みたいな感じでしょうが。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-05-26 00:34
nanashi さんへ

>「戦略原論」ですか?

いや、英語の本です。

>どうしても世界観や言語やパブリックデプロマシー(プロパガンダ)が必要になります

なりますねぇ

>そのへんのことが本書にはないのが少し残念です。

これがいわゆる「戦略論」の限界です。コメントありがとうございました
Commented by yamo at 2010-05-27 08:28 x
>「失うものは何もない」
>信頼性を保つために、そしてハッタリと見られないようにするために

何だか北朝鮮と韓国の事を言ってるみたいな気がします^^;
Commented by elmoiy at 2010-05-27 10:59 x
>「失うものは何もない」

これが国家ではなく、個人のレベルになると「自爆テロリスト」になるということで(笑

>どうしても世界観や言語やパブリックデプロマシー(プロパガンダ)が必要になります


ttp://booklog.kinokuniya.co.jp/hayase/
(前略)
はじめは、博物館や記念館の展示、戦死者ひとりひとりの名前を刻んだおびただしい数の墓碑・慰霊碑に圧倒され、総力戦のむごたらしさに押しつぶされそうになった。しかし、時間がたつにつれ、戦争は戦後も引き続いていることに気づいた。イギリスを中心とした連合軍側は、勝利したことで正義の戦争であったことを前提として戦争の悲惨さを訴えているように思えた。…戦争博物館、墓地などを維持・管理しているのがイギリス連邦戦没者墓地委員会などで、同委員会は現在も年間100億円近い予算で活動しており、その8割近くをイギリスが出している。

やはり政治は「血を流さない戦争」なのかと。
Commented by f15 at 2010-05-27 14:30 x
抑止力には2種類ありますね
行為の達成が困難であると相手に予見させ、行為を断念させる(拒否的抑止力)
行為の代償が高くつくと相手に予見させ、行為を断念させる(懲罰的抑止力)
核抑止を例にすると、前者がミサイル防衛、後者が報復核になります

北朝鮮のような破綻国家には、失うものが何もないので
懲罰的抑止力は通用しないという主張がありますが
下層民の命を一顧だにしない北朝鮮の指導層、特権層も
彼ら自身の生命の危機には敏感に反応するでしょうし
また下層民から富を吸い上げる社会システムの崩壊も望まないはずです
こういう風に考えると、失う物がないように思われる北朝鮮にも
失うわけにはいかない物が沢山あるのではないでしょうか
Commented by もするさ at 2010-05-27 17:50 x
>失うわけにはいかない物
エリート層の忠誠ネットワークとそれを支える「贅沢品の入手ルート」がそれに当たるのではないか?と思います。
金正日は「没理想的リアリスト」かつ「朝鮮人を統治するために特化された能力を持つ人物」で、誰にどういう贈り物をすれば良いのかという勘所を小憎たらしいまでに心得た人です。そのインフラは現行の経済制裁ではあまり破壊されてないのでは?等と思います。
内政こそ壊滅的ですが、安全保障と外交のセンスは超一流であると認めざるを得ない人物の一人です。
MAD(相互確証破壊)の最大前提かつ最大の問題は
「核兵器を使えばお互い無事では済むまい」と互いが思っているという詰めの甘さであり、もしそう思っていなかったら?と言う観点からの想像が出来てないことのように思えます。
核戦争がこれまで起こらなかったのは、
「核兵器という物があからさまで大仕掛けな代物でしかなかったから」
のような気もしてなりません。スーツケース大になるまで核兵器の時代はやってこないとした石原莞爾の慧眼は未だ以て色あせて無いと思いますが、如何でしょう?
Commented by masa_the_man at 2010-05-27 18:11
yamo さんへ

>何だか北朝鮮と韓国の事を言ってるみたいな気が

この二国はどうしてもそうしなければならない事情がありますし(苦笑)コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-05-27 18:12
elmoiy さんへ

>個人のレベルになると「自爆テロリスト」になる

なりますなぁ(笑

>どうしても世界観や言語やパブリックデプロマシー(プロパガンダ)が必要になります

公然と認めると嫌がられるんですが、これは事実ですからねぇ。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-05-27 18:13
f15さんへ

>失う物がないように思われる北朝鮮にも失うわけにはいかない物が沢山あるのではないでしょうか

やぶれかぶれというわけには行かない、と(笑)たしかに全てを捨てられるような国ってのはそうそうありませんからね。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-05-27 18:23
もするさ さんへ

>「贅沢品の入手ルート」

ここがチョークポイントと。

>内政こそ壊滅的ですが、安全保障と外交のセンスは超一流

たしかに(苦笑

>もしそう思っていなかったら?と言う観点からの想像が出来てない

これはソ連側の資料によって彼らはそう思ってなかったというのが明らかになってますからねぇ。

>スーツケース大になるまで核兵器の時代はやってこないとした石原莞爾の慧眼は

これを一番恐れているのがアメリカですからね。コメントありがとうございました
Commented by elmoiy at 2010-05-27 19:08 x
>軍事的に勝利しても、戦後に反感を残したのでは勝ったことにならない。

イラク戦争に勝利した後のアメリカがまさにこのパターンですが、安田純平『ルポ 戦場出稼ぎ労働者』(集英社新書)に、次のような記述がありました。

イラク人はよく、「マスコミはウソばかり報道する」と言う。米軍がイラク市民に与えてきた被害や、その反撃を受けている米軍側の被害など、「都合の悪いものは事実を報道しない」という話だ。しかし、「血は身体に悪い」という、彼らの考えるイスラムに合う内容に関しては疑うこともなく受け入れている。批判的に受け止めているというよりも、自分に合うかどうかで判断しているように見える。

だそうです。
Commented by elmoiy at 2010-05-27 19:13 x
また、カタールのTV局『アル・ジャズィーラ』が開局したとき、これで中東の民主化が進むのではないかと期待する向きもありましたが、結局一番視聴率が高かったのは政治番組ではなく娯楽番組だったとか。
アラブ人に限らず、人間というものは、興味のあることしか知ろうとせず、自分の価値観に合致することしか理解しないのでは。

日本でも最近、「情報の対外発信の重要性」が叫ばれていますが、パブリック・ディプロマシーにあまり過大な期待をよせるのもどうかと。日本が情報を発信しても、それを海外の人々がそのまま信じてくれるとは限りません。むしろ、先入観に合わない情報は無視され、先入観に合う情報だけが多くの人に受け入れられていく可能性のほうが高いと思われます。
Commented by nanashi at 2010-05-27 20:09 x
プロパガンダというのは、そういうものではないと思います。
宗教の普及 言語の普及 マルクス主義などの擬似宗教の普及
ハリウッド映画にネガティブなプロットやイメージを刷り込む
戦争経験世代が死んだのを見計らって改変された歴史教育を強力に推し進める等々


あるいは、テロと称して、イラクの部族長を殺しまくるとか(結婚式などを狙って)伝統的政治構造の破壊
イラク戦争で部族長がどれだけ死んだか知りたい気がする
Commented by sdi at 2010-05-27 23:44 x
これも「抑止」の一環ですかね。ただ、誰に対する抑止かという点も検討項目ですね。
3艦隊旗艦合同演習というよりは、対地攻撃能力のある艦を全艦集結ですね。


露海軍 3艦隊旗艦が日本海で演習へ
http://japanese.ruvr.ru/2010/05/26/8526474.html
Commented by 上山祐幸 at 2010-05-28 18:13 x

 お疲れ様です。

 「抑止力」というものは、その効果が基本的に「相手がどう判断するか」という部分に委ねられてしまう。

 例えば、日本がたとえ核武装したとして、中国がそれを脅威と感じ、なおかつ矛を収めようとしなければ、効果はあるとは言えない。

 故に日本が核武装するならば、中国共産党指導部の心理を十分に研究し、効果的な配備方法をとらねばならないということである。

 私は、核武装論を直接的アプローチで捉える一方で、間接的アプローチ、心理的な影響をどのように与えるか、という面でも研究されなければならないと考えている。

 その点を考慮しているのならば、日本はひどい軍拡に走ることなく、国際社会での主導権を握ることも夢ではないはずだ。

 ここで問題にしなければならないのは、ワイリーの言う、順次戦略と累積戦略双方のバランスの問題である。あくまでも「両の中道」を行くことが肝要であると思う。
Commented by nanashi at 2010-05-29 08:07 x
鳩山のようなアバター ナイトウォーカーが首相では紛争に引きずり込まれるね
あんなのを首相にしてしまって
椿事件の朝日と、小沢をなんとかしないと日本人の命は幾らあっても足りな
by masa_the_man | 2010-05-25 19:52 | 日記 | Comments(18)