戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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『戦略論の原点』の「第三章」のまとめ

今日の甲州は、昨日の午後の強風の影響もあってか、やけにスッキリ晴れておりまして、普段はうちからあまり見えない富士山の頭も、今日はクッキリ見えておりました。

さて、突然ですが、拙訳『戦略論の原点』の中から前半のハイライトともいえる第三章の「累積戦略」と「順次戦略」についてのワイリーの説明を、もう一度見直すつもりでポイントフォームで。

私もこの二つの概念をよく講演会などで使うんですが、ワイリー自身がどのように説明したのかを振り返ることは重要かなと思い、以下のようにまとめてみました。こういう風にすると、普段から使い慣れた概念でも勉強しなおすことになってためになります。

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●戦略には二つの実行パターンがあり、これをベースにした分析法がある。

●あまり注目はされていないが、この分析法は重要だと思うので、もう一度(以前に論文という形で発表したことがあるが)ここで簡潔に説明しておきたい。

●これが「累積戦略」(cumulative strategy)と「順次戦略」(sequential strategy)だ。

●この概念の元ネタはハーバート・ロジンスキー氏が1951年に行った講演の中だ。ただ彼は「順次戦略」という言葉の代わりに「直接的戦略」(directive strategy)という言葉を使っていた。

●しかしロジンスキー氏はこの二つの概念をそれほど熟成・発展させていないので、今の私の考えと違うかも知れない。

●まず順次戦略だが、これは第二次大戦における太平洋戦線のアメリカ洋上艦隊の日本への動きに代表される。またノルマンディー上陸作戦からドイツに至る一連の行動や、ドイツのロシア侵攻などもこれにあたる。

●具体的にいえば、これはある段階が次の段階につながっていて、また次の段階がどのようになるのかが予測できるような戦略の進め方だ。

●その反対に累積戦略のほうは、ひとつの作戦が前後の段階を踏むわけではなく、すべて独自の個別の作戦として行われるようなものだ。

●この具体例としては経済戦や心理戦、それに第二次世界大戦の太平洋戦線だと、アメリカが日本に対して行っていた潜水艦戦がこれに当たる。

●この戦略の特徴は、個別の攻撃が戦争全体の結果にどのような効果をあげるのかが全く予測できないものだが、ひとつひとつの戦闘での勝利が積み重なって結果をもたらすものだ。

●太平洋戦線の対日戦に例をとると、アメリカは洋上艦隊によって太平洋を横切って日本へと到達する「順次戦略」を行っていたと同時に、潜水艦をつかって日本経済に打撃を与える「累積戦略」を行っていたのだ。

●この二つの戦略は時間的には同時に使われていたが、実際のところは別々に切り離されて実行されていた。

●われわれは「順次戦略」の結果を、ある程度予測できる。ところが「累積戦略」は働きが複雑であり、その結果は全く予測できない、もしくは予測しようと努力していない。

●累積戦略というのはある時点で効果を発揮するものだが、その点(臨界点)がどこになるのかは、自分も相手もわからないことが多いのだ。

●「順次戦略」は目に見えるような段階を踏んで行くものであり、「累積戦略」は効果を発揮する「臨界点」まで、見えにくい小さな成果をひとつずつ積み上げて行くものだ。

●この二つの戦略は、矛盾するものではなく、むしろ相互依存するような補完的な存在だ。

●「累積戦略」は伝統的には海戦の特徴であり、航空戦もこれである可能性が高い。

●「累積戦略」だけ使って成功した有名な例は見当たらない――ドイツの海戦、フランスの巡洋艦を使ったゲリラ戦。

●しかし「累積戦略」の強さが「順次戦略」の結果に大きな影響をもたらすことは間違いない。順次が弱くても累積の強さで勝利できた例は山ほどある。

●目標達成のためには「累積戦略」と「順次戦略」とのバランスをとることが大切。これによって経済的に効率よく勝つのだ。

●「累積戦略」は複雑であるため、今後はさらなる研究が必要だ。

●この二つの戦略それ自体だけでは戦争全体を分析する際の基本的なコンセプトとはならないが、戦争を理解するためにはかなり有用だ。これらの概念は、ある問題に対する知的なアプローチである。

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ここで大切なのは、ワイリーが累積と順次は補完的な相互依存の関係にある、ということと、累積は順次を成功させる土台であるという認識をしているということですね。

久しぶりにあらためて読んでみて、こういう基本的なアイディアを再確認する作業は重要であると実感します。

最近話題の「抑止力」なんかも、もう一度見直してみましょうか。
Commented by 愚人 at 2010-05-14 00:30 x
明確な敵対関係であれば順次、累積を組み合わせることができるかと思いますが、平時では累積戦略に重きを置かざるを得ないかと。
順次戦略による明白な効果は、特に民主国家においては他国民はもちろん、自国民に対しても都合が悪い。

実際、中国は日米に対して累積戦略を行っているように見えますが、中国人自身、それに気づいていないように見えます。
もっとも、自国の政府が行っている累積戦略に気づく様なら他国で傍若無人な振る舞いを控えるのでしょうが。
Commented at 2010-05-14 09:06 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by masa_the_man at 2010-05-16 01:37
愚人 さんへ

>平時では累積戦略に重きを置かざるを得ない

その通りですね。

>自国民に対しても都合が悪い。

あからさますぎると嫌われますよね。

>中国人自身、それに気づいていないように見えます。

それはありますね。まあ「できることをやっていったらそうなった」という部分が大きいかと。

>他国で傍若無人な振る舞いを控えるのでしょうが。

そこまで理性があればいいんですけどねぇ。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-05-16 01:39
キモオタ さんへ

>RPGのレベル上げ

鋭いですなぁ。

>累積した経験地といつレベルが上がるか というのは視認することができない

これなんです。

>ダイエットとか筋トレとか語学学習とか人生の戦略目標って
ほとんどが累積戦略の蓄積で達成できる

わかってらっしゃいますねぇ。

>番付が上の人ほど累積戦略の蓄積に重きをおいて

うーむ、鋭い。実は小冊子に同じことを書きました。コメントありがとうございました
Commented by 上山祐幸 at 2010-05-28 18:36 x

 お疲れ様です。
 怒涛の連続投稿…申し訳ございませぬ。

 現代の国家戦略における順次戦略と累積戦略の比重は、多くの人々が指摘しているように、累積戦略に傾かざるを得ない。この意見には私も同意できる。

 しかし、政策上の目標を達成するためには、累積戦略ばかりやっていてもらちが明かない。順次戦略にもそれ相応の比重をかけなければならない。何故なら、政策上の目標は「見える」状態で達成されなくては、理解されないからだ(自国民や相手国民にも)。

 中国は、おそらく事の経緯を自国民に知らせずに、結果だけを教えているのだ。これがすなわち情報操作のうまいやり方であろう。日本は、ぜひとも中国を見習うべきである。

 
Commented by masa_the_man at 2010-05-31 02:20
上山さんへ

>政策上の目標は「見える」状態で達成されなくては、理解されない

ある意味で、これはやりすぎて失敗したのが鳩山さんかと。

>経緯を自国民に知らせずに、結果だけを教えている

まあそれはあるでしょうな。コメントありがとうございました
by masa_the_man | 2010-05-13 15:24 | 日記 | Comments(6)