戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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アフガニスタンの「戦術レベル」の話

今日の甲州はよく晴れまして、甲府の近くからは四方が山に囲まれている様子をしっかりと眺めることができました。

さて、ちょっと以前の論説記事ですが、戦争と戦略、そして戦術や現場の兵士たちの考えというものの一端がなんとなく伝わってくるものを一つ。

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Farewell to Korengal

By SEBASTIAN JUNGER(ヴァニティーフェアー誌の編集委員)

●先週のことだが、米軍はアフガニスタン東部のコレンガル谷から撤退した。

●人がまばらに住み、戦略的価値があるのかどうか怪しいこの6マイルの広さの場所は、アフガニスタンで行われている戦争において最も激しい戦闘が行われたところの一つだ。

●米軍は2005年夏にタリバン兵が海軍特殊部隊の四人をその近くの山で囲いこみ、そのうちの三人を殺したという事件以来、そこに何かしらの形で滞在していた。また、タリバンは16人の兵士が乗っていたヘリ(CH-47 チヌーク)を撃墜し、乗っていた全員を殺している。

●2007年と2008年のほとんどの期間に、私は空挺部隊の兵士が守っていた人里離れた前峭地である「レストレポ」と呼ばれる場所に、記者として従事している。この場所では、多い日には一日四回も攻撃されたことがある。

●多くの兵士たちの制服には敵の弾によるキズが残っていた。ある戦いでは、私の15センチ頭上の砂袋に弾が当たったこともある。

●心理的なプレッシャーは莫大であり、「オレはここに四ヶ月しかいないけど、こんだけ大変だとは思わなかったよ・・・あるカウンセラーのところにいってタバコを吸うかと聞かれたんだ。ノーといったら、すぐに吸いたいと思うようになるかもって言われたよ」と、ある兵士が私に語ったことがある。

●この「レストレポ」にはおよそ20人の兵士が駐留しており、彼らは第173空挺旅団戦闘チームの「バトル・カンパニー」(Battle Company of the 173rd Airborne Brigade Combat Team)と呼ばれる150人からなる部隊に所属していた。

●そこでは敵に壊滅させられる可能性についてオープンに議論されていた。兵士たちはそばに銃をおいて寝ており、時にはブーツを履いたまま眠ることもあった。コレンガル谷では40人以上の米軍兵士が死んでいる。

●米軍はすでにここから撤退したが、この時の理由はコレンガル谷があまりにも孤立しており、米軍がいるおかげで逆に地元民をタリバン側につかせてしまっているというものだった。

●ここでいくつかの疑問が出てくる。もしコレンガルには命をかけるだけの戦略的価値がある場所だとしたら、なぜわれわれは撤退したのだろうか、ということだ。それとは逆に、なぜわれわれはそもそもそんな場所に駐留したのだろうか?

●レストレポの兵士たちと同じように、私もこの戦争を小さな鍵穴から覗いていただけであり、このような大きな質問には答えられる立場にはない。しかし私はいくつかの重要なことを指摘されておかなければならないと考えている。

●第一に、コレンガルの敵兵の多くは、聖戦(ジハード)を戦うためにアフガニスタンにやってきた外国人たちだということだ。谷の岩壁には聖戦の志願兵を集めるために使われるパキスタンの携帯電話の番号がいくつも書き残されており、地元民に戦いを促すためにアラビア語で書かれている落書きもあった。

●これらの外国人たちは、おそらくアメリカ人を見つければ場所を選ばずに戦ったはずであり、もしわれわれがコレンガルを避けたとしても、彼らは単に場所を変えて(それが本当に良い場所なのかどうかはタリバンたちにも判断できないと思うが)戦ったはずである。

●さらに言えば、私はコレンガルに基地を設置した理由の一つが「タリバンたちが戦略的にはるかに重要なそのすぐ北にあるペック川渓谷からの攻撃をしかけてくるのを防ぐためである」と聞いている。たしかにペック川渓谷は人と物資を運ぶ上での主要な道であり、コレンガルに基地を設置してからはたしかにこの場所に対するタリバンからの攻撃は劇的に減ったのだ。

●つまりペック川渓谷それ自体は重要な場所ではないのだが、それでも戦略的にこの二つを切り離して考えることはできなかったのだ。

戦争というのは複雑な試みであり、その結末は予測できるものではない。満足な武器を持たない民兵でも現代の軍隊を打ち負かすことはできるのであり、大きな戦闘も運や悪天候に左右されることがあるのだ。したがって、司令官たちに戦略的に常に正しい決定をするように期待することは、戦争を評価する際の現実的な指標とはならない。

●(第二次大戦初期の撤退戦となった)愚かな行為として知られるダンケルクの戦いでは、三万人ほどの英兵士が命を落としたのだが、それでも同盟国側は戦い続け、最終的に戦争に勝っている。よって、ダンケルクがなければ第二次大戦はどのようになったのかはわからないのだ。

●同様に、何百人もの地元民と外国人兵士たちがコレンガルの米軍の部隊に阻止されなければ、クナール省(もしくはアフガニスタン全体)にどのような影響を及ぼしたのかは誰にもわからないのだ。

それでも「撤退したという」感情面における影響は大きい。その一例として、私がレストレポで一緒だった若い兵士は、現在レストレポのすぐ南にあるチョウケイ谷というところに派兵されるところだ。ところが敵兵はチョウケイ谷にまずあらわれ、それからコレンガルに移ってからアメリカ側を攻撃するのだ。

●ようするに過去一年間、ほとんど命を落とすような状況での彼らの戦いは、今では意味が無かったように見えるのであり、この若い兵士が以前と同じようなやる気をもってチョウケイ谷で戦うとは思えない。

●もちろん私は兵士ではない単なる一般人なので、私の見方は完全にまちがっているかもしれない。

●レストレポにいた兵士たちは完全に自分たちのやり方で戦いを意味付けようとしているように見えたし、彼らはその戦争全体のことに関心をもっておらず、この戦争が正しいのか、勝てるのか、さらにはそれがうまく実行されているのかという点についてはあまり考えてはいなかった

兵士たちにとって「戦い」こそがその場に意味を与えてくれるものであり、その逆はありえないのだ。

●そういう意味で、コレンガルは文字通り「聖なる場所」だった。「バトル・カンパニー」の全員は良い仲間をそこで失っているのであり、全員がもう少しで命を落とすような経験を何度もしている。

●この兵士たちにはその場の「戦略的重要性」や「国益」というものは関係ないのであり、彼らはそれらをその場で極端な形で経験しているのだ。

●レストレポという前峭地の名前は、フアン・レストレポ(Juan Restrepo)という2007年7月22日に殺された隊に所属していた看護兵の名前からつけられている。彼はこの部隊の中でも最も人気のある一人であり、彼の死は大きなショックを与えている。

●彼らは自分たちで建設したこの前峭地に大いなる誇りを持っていたが、現在はこの基地を撤退した時に米軍の破壊チームによって爆破された様子を撮影された動画をネットで見ることができる。

●この撤退は彼らの多くにとって痛みをともなう経験であり、最近はこれについて彼らの間でEメールの交換によって色々な議論が交わされていて、これについて納得しようという試みが行われている。

●ある兵士はこの動画を何度も見て興奮してしまい、「われわれが命をかけて戦った意味は何なのか」という疑問を呈している。そして別の兵士がとうとうそれをなだめようと介入した。

●彼はその心を乱した兵士に対して「俺たちは確かに撤退したけど、それでも俺たちがそこで達成したことや、どれだけ懸命に戦ったのかという事実を奪うことはできないんだ」と書いている。「基地は基地であり、いつかはそこから撤退しなければならないことは知っていたはずだ。しかしバトル・カンパニーがそこで行ったことを爆破したり、取り壊したり、燃やし尽くすことはできないんだ。これだけは忘れるな。」

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アフガニスタンの現場で戦っている兵士たちの「思い」というものが伝わってくるなかなか優れた記事です。

これは旧日本軍のことについても言えることですが、やはり状況は違っても、彼らは「自分たちが命をかけて戦った意味」というものを意識しないとやっていけない、という面をよく教えてくれます。

基本的にこれはアフガニスタンの戦争という大枠の中での「戦術レベル」での話なわけですが、彼らが自分たちレベルの話だけに意識を特化している、という心理的な面はとても興味深いですね。

この問題についてさらに考えてみたいと思われる方々には、『戦略論の原点』(第五章p.52-61)や『戦略の格言』などをぜひ(笑


Commented at 2010-05-12 18:17 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by masa_the_man at 2010-05-12 18:40
匿名希望さんへ

>のが通例

ありがたいです。ご指摘ありがとうございました!
Commented at 2010-05-13 10:22 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by masa_the_man | 2010-05-12 16:28 | ニュース | Comments(3)