アジアでは「バランシング」か、それとも「バンドワゴン」か |
私はいよいよ今月末に迫った帰英に向けて、まずは歯医者に行ってきました。しかし何度行っても歯医者というのは好きになれません(苦笑
さて、今日はまたウォルトのブログから。バンドワゴンとバランシングという、ネオリアリズムで中心的になってきた概念をうまく使って論じております。
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Balancing act (Asian version)
By Stephen M. Walt Monday, May 3, 2010 - 5:38 PM
●先週私はこのブログで「もし中国のパワーが上昇しつづけるとすれば、米中関係はかなり競争的なものになる」と言った。
●中国は「地域覇権国」を目指す可能性は高く、アメリカはおそらくそれを阻止しようとするはずなのだ(これについてはロバート・カプランがフォーリン・アフェアーズ誌の最新号で書いている“ 中国のパワーの地理”という記事を参照のこと)。
●また私は中国の地域覇権への道のりはアメリカの過去のそれとは反対にかなり難しいものであると指摘している。なぜならアメリカの場合は西半球に大国がなく、北米を拡大する際に強力な障害とはならなかったからだ。
●この時にイギリスはカナダにおける大国ではあったが、イギリスは全般的にそれ以外の地域のことにかかりきりになっていた。
●それとは対象的に、中国の周囲では中程度のパワーをもつ国家がいくつかある。
●したがってここで重要なのは、他のアジアの国家が中国の勃興するパワーに「バランシング」するのか、もしくは「バンドワゴニング」するのかどうかという点だ。
●もしバランシングするのであれば、中国の「封じ込め」は比較的簡単だ。ところがバンドワゴニングであれば、中国の「影響圏」の登場を防ぐのは困難になるはずだ。
●これについてはタイムズ紙がインドネシアにおける中国の影響の拡大について報じた興味深い記事が参考になる。ジャワ人の多くは中国語を学んでおり、1965年に北京政府が主導して失敗したクーデターのようなイヤな記憶は忘れ去られているようだ。
●このようなトレンドは、中国の「経済力の拡大」と「海外での積極的な中国語の普及」の両方の成果を反映している。
●ではアジアは「バランシング」と「バンドワゴニング」のどちらを行うのだろうか?
●私の過去の同盟についての著作(Origins of Alliances)で、私は国際政治においてはバランシングの例のほうが多いが、弱小国や孤立しているような国家は強い国よりもバンドワゴニングに傾きがちであると論じた。
●その理由は、弱小国家というのは影響力が小さいので、結局のところはどちらか勝ちそうなほうにつかなければならないからだ。
●また、大国というのはグローバルな権益を持つ傾向があるが、弱小国は周辺のバランス・オブ・パワーを主に心配するものなのだ。
●彼らは同盟国の十分なサポートがあれば強力な国に立ち向かうことができるのかもしれないが、自国にそれほど力がないために強力で強い隣国には「叩頭」するしかないことになる。その結果として「影響圏」が生まれるのだ。
●このロジックが東アジアの将来について教えているのは一体何なのだろうか?
●まず言えるのは、バランシングが行われる可能性はけっこう高い、ということだ。たしかに中国はアジアにおいて最大の潜在力を秘めているのだが、その周辺国には「弱小国」は少ない。
●日本は世界の中で(長年不況に苦しんでいるにもかかわらず)第三位の経済規模をほこっており、潜在的な核能力、そしてかなりの軍事力を持っている。高齢化が進んではいるが、それでも脅迫することは困難だ。
●ベトナムは常に手ごわい相手であったし、インドは何億もの数の人口と核能力を備えており、インドネシアやシンガポールのような国々は高価な不動産や(シンガポールの場合は)かなりの軍事力をもっている。
●さらに、中国のパワーがさらに増大したとしても、周辺国に対抗して兵力を機動投射することは難しいはずだ。なぜなら陸上だけでなく、海上、航空、そして水陸両用面での能力が必要とされるからだ。
●そしてアメリカが中国の地域覇権の獲得を阻止することを目指していることを考えれば、周辺国もその動きに対してアメリカと同盟関係を強化して対抗するはずだ。
●しかしその一方で、東アジアにおいて防衛的な同盟を維持しようとするアメリカの努力はいくつかの困難に直面することになる。
●第一に、防衛的な同盟というのは「集団行動」を行う際の問題に直面するものであり、同盟の中の各参加国はお互いに負担を押し付け合おうとするのだ。
●これこそが勃興する側の国にとっては仲間割れを起している同盟側を利用して「分断統治」する際に好都合となる傾向なのだ。
●第二に(そして前のものと深く関係しているのは)、アメリカ側がアジアの仲間の国に対してどれくらいのサポートをすればいいのかを決めるのが難しいということだ。
●たとえばそのサポートがあまりに少ないと同盟国側は北京に寝返るかもしれないし、あまりに多く与えすぎるとアメリカに「ただ乗り」しまくってしまうからだ。
●アメリカ側の「信頼性」についての脅迫観念や、アジアの同盟国側の(ワシントンに振り向かせるために)バンドワゴンを誇張する傾向が加わると、これがアメリカの「コミット過剰」につながることになる
●第三に、このタイムズ紙の記事が強く示しているように、中国にとっての最も有望な戦略は、「やさしく語り」つつ、周辺国との経済・文化的なつながりをつくりあげるものなのだ。
●中国が強硬的な外交を行うと、逆にワシントン政府がアジアの同盟国との関係を維持しやすくなるのであり、その反対に中国が「ソフトパワー」を継続していけば、アジア側の国々は北京政府側につくのもそれほど悪いものではないと判断してくれるかもしれないのだ。
●少なくとも、この戦略ではアメリカが現在のポジションを維持するのを難しくすることはできるのだ。
●これらをまとめてみると、アジアでアメリカが同盟関係を維持していくのは冷戦時代のヨーロッパとの関係を維持するのよりも難しいスキルを要することがわかるのだ(そしてこの関係だってスエズの時みたいに難しい時はあったことを忘れてはならない)。
●しかもこのようなことは、アメリカが究極的にいえば戦略的にあまり意味のないアフガニスタンのような場所で時間と資金をかけている場合にはさらに難しくなることは言うまでもないだろう。
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ウォルト得意の「同盟論」を使った分析でした。やはりというか、やや悲観的な立場ですね。
この議論についてもっと詳しくお知りになりたい方は、こちらをぜひ参考にしてみてください(笑