中国に起こりうるシナリオ(改訂版) |
さて、アメリカのある戦略家の書いた「将来に備えるべきシナリオ」のような本を読んでおりまして、そこで指摘された、「中国に起こりうる問題とその危機要素」のようなものをメモ代わりに記しておきます。
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●中国専門家には、中国そのものをタカ派としてみる「ドラゴン派」と、ハト派として見る「パンダ派」がある。
●北京政府にレジティマシーを与えているのは急速な経済成長だけ。毛沢東が尊敬されているのはとりあえず中国を統一性を保ったから。
●中国経済の拡大を止めてしまう要素は、「エネルギー」、「高齢化」、「経済成長の鈍化」
●人口の動態から見ると、中国の経済成長は2015年くらいから止まり始める
●「一人っ子政策」の影響はかなり大きい。人口の構成ではアメリカのほうがはるかにマシ。
●中国は十分にリッチになる前に経済成長が止まる。
●中国には年金システムがなく、老人が働きやすいサービス産業がまだ少なすぎる
●「一人っ子政策」のおかげで男性が増えすぎており、北京政府は彼らの不満を解消するために対外戦争などを起す可能性がある
●水問題はかなり深刻。とくに北部の干ばつはひどい。これによって経済成長もとまる。
●現在の中国軍の「学べき教訓」となっているのは、アメリカが戦った二つ湾岸戦争だ。
●具体的には、アメリカの精密爆撃の精度と衛星による情報網に驚かされている。しかし直接対峙する「対称戦」は無謀であることをよく理解している。
●これによって生まれたのが、「西洋のテクノロジーと東洋の智慧の混合」である。
●それには「奇襲」が大切で、そこで西側の情報ネットワークをまず破壊し、手出しできないように(もしくは手出しするコストが高いと見積もられるように)するのだ。
●これは「暗殺者の鎚矛」(Assassin's Mace)という言葉に集約される中国の「戦略文化」だ。この概念は1990年代後半から中国の軍事研究の文献でよく触れられるようになったもの。
●長年にわたる中国の軍事発展は二つの柱によって成り立っている。A2/ADと呼ばれる、「アクセス拒否戦略」である。
●具体的にいうと、中国は米軍の前線基地、とりわけ沖縄の嘉手納飛行場のような基地にアメリカのアクセスの拒否を狙っており、これを多数の弾道ミサイルや攻撃機などを配備することにより実現しようとしている。
●また、中国は二つのタイプの潜水艦(無音ディーゼル/攻撃型原潜)を配備することによってこの実現を狙っている。
●また、大きく見れば中国が「グローバル・コモンズ」に対して弱者の戦略である「拒否戦略」を使うことも懸念される。
●たとえばコモンズである「海」では、彼らは潜水艦の増強で「見えない脅威」を強調する傾向があり、孫子のように「戦わずにして勝つ」を上策としているようだ。また、真珠湾攻撃を相当研究しているようにも見える。
●また、宇宙でも「拒否戦略」は対衛星兵器や対衛星弾道ミサイル、それに衛星電波妨害システムなどの開発を急いでいる。
●そしてサイバースペースで上で行われている「戦争」がある。ハッカーなどによる攻撃は北京から来ていることはわかっているが、北京政府はもちろんこれに対する関与をかたくなに否定している。
●中国は内陸に重要な施設を移しており、戦略の懐(strategic depth)が深いことも懸念材料の一つだ。
●それでは想定される具体的なシナリオを見てみよう。
●まず第一段階で経済的な面で問題が起こり、そこで噴出してくる国民の怒りを、政府はとくに日米政府をはじめとする「周辺の対外勢力の浸透工作によるもの」と断定する。これが2017年である。
●その理由は、不公平な貿易均衡や、原油の高騰、台湾への中国本土への投資の禁止などを対外勢力がけしかけている、ということだ。
●ところが日米をはじめとする周辺国のリーダーたちは、このような工作を行っていることを必死に否定する。
●また実際のところ、中国の経済低下はアメリカ経済の鈍化による部分も大きいのだ。
●とにかく北京政府はさまざまな「強制措置」を発動することになり、この中でも特に「台湾に対する経済面での優遇」、「中国周辺の外国勢力の基地の閉鎖」、「(アメリカに対して)中東諸国の石油生産を上げる要求」をすることになる。
●そして台湾に対する要求が高まることをきっかけに、中国が色々な方面で軍事演習などを行って威嚇的な行動をとることになり、軍事関連施設も内陸のほうに移されることになる。
●そしてとうとう北京政府は台湾海峡に潜水艦を大量に航行させて、キューバ危機のような「海上封鎖」に乗り出すことになり、台湾側も驚くべきことに中国に組み込まれることを拒否するために、大規模な紛争へと発展する。
●そして日米は中国側の戦争も辞さない強力なネゴシエーションに太刀打ちできずに、海上封鎖を仕返すか、それとも戦争を行うのかで悩むことになる
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ということでシナリオは終わりです。
この著者も言っておりますが、これを読む上で大事なのは、このようなシナリオを考えることでどこに問題点が出てきそうなのかを認識すること、ということです。
つまり予測の正確さよりも、そこであぶり出される問題点に注視せよ、ということですね