戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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ギリシャ危機の「地政学」

今日の甲州は午前中に雨が降っておりましたが、昼すぎからスッキリと晴れて気温も上がっております。

さて、最近本ブログでは何かと話題のカプランの記事を。

ヨーロッパの地理の影響を分析しております。うーん、地政学です(笑

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For Greece’s Economy, Geography Was Destiny

By ROBERT D. KAPLAN
Stockbridge, Mass.

●ギリシャの財政危機では、経済面の原因ばかりが強調されている。ところがこの危機には誰も今まで指摘しなかった、宿命的な原因がある。それは「地理」だ

●ギリシャというのは歴史的に地中海とバルカン半島というあまり発展していなかった地域の重なったところであり、これが政治的・経済的に大きな意味を持っているのだ。

●ヨーロッパ北部の国々にとって、ギリシャのような国を通貨共同体に取り込むというのは、実はものスゴい大変なことなのだ。多くのドイツ人や他の北ヨーロッパの人々はまさにこれを実感しつつある。

●現在ヨーロッパで経済的な問題を抱えている国々がギリシャ、イタリア、スペイン、そしてポルトガルであるというのは偶然の一致ではない。

●政治的な発明が行われたのはたしかに地中海周辺の地域(アテネの民主制とローマの共和国)であったことはたしかだが、20世紀に活躍したフランスの歴史家フェルナン・ブローデルに言わせれば、この地域は「伝統主義と硬直性」によって定義される。

●この周辺地域の土壌はあまり肥えたものではなかったので、大規模な土地をもつ富めるものが小作を支配することが可能であった。

●このおかげで社会秩序が固まってしまい、中流階級の勃興がヨーロッパの北部よりもかなり遅れてしまい、国家統制や独裁制国家という欠陥が長続きすることになったのだ。その証拠に過去50年間のギリシャの政治は、たった二つの家族(カラマンリス家とパパンドレウ家)によって支配されている。

●現代のヨーロッパの超国家を目指す試みが、地理的に中世にカール大帝が首都をおいていたアーヘン(昔はエクス・ラ・シャペル)を中心に行われていることは偶然ではない。

●なぜならそこはヨーロッパ連合のあるブリュッセルや、オランダにあるハーグとマーストリヒト、そてにフランスのストラスブルグなどから地理的にちょうど中間点となる場所になるからだ。

●このような町のある現代の重要な地帯というのは、旧世界の文明においては海と陸の富が混じり合っていた場所(訳注:つまりリムランド)なのだ。

●(オランダ/ベルギーのような)低地国は大西洋に抜けられるし、川や運河によって富が守られているために貿易を行うには最適であり、このような動きの自由さは政治面での発展にも影響を与えることになったのだ。

●しかもその周辺の土壌は肥えており、背後にある森林が自然の防壁の役割も果たしてきたのだ。古代ヨーロッパは地理的に地中海の支配下にあったのだが、ローマが辺境を失ってからは歴史は北に移動してきたのだ。

●ヨーロッパを苦しめているのは南北問題だけではない。ローマ帝国は四世紀にローマとコンスタンチノープルという風に東西にわかれ、西ローマ帝国はカール大帝の王国とヴァチカンを生み出すことになり、これが西ヨーロッパにつながった。

●ところがビザンティウム(イスタンブール)にあった東ローマ帝国は、主にギリシャ語をつかる正教徒たちが中心であり、1453年にオスマン帝国がコンスタンチノープルを占領してからはイスラム教徒によって占められることになったのだ。

●ユーゴスラヴィアだった場所からルーマニアをわけるカルパチア山脈は、東西ローマ帝国をわける一因となったのであり、これは後に豊なウィーンのハプスブルグ帝国と、貧乏なコンスタンチノープルのトルコの帝国をわけることにもなったのだ。

●そして現在のギリシャは、歴史的にはペリクレスが治めていたアテネというよりも、東ローマ帝国やトルコの専制政治に近いのだ。

●古代ギリシャは地理的な面で恵まれていたのであり、エジプトやメソポタミアのような厳しい制度を持っていた近東からはやや離れていたために、もっと人道的かつソフトな制度を生むことができ、これが西洋諸国につながったという説明がなされるのだ。

●しかし現在のヨーロッパでのギリシャは「オリエント化」の逆側にいる。もちろん彼らはブルガリアやコソボよりははるかに安定していて繁栄しているが、それはそれはソ連式の共産主義の略奪から逃れられたからにすぎない。

●地理と昔の帝国が現在の帝国にどれだけの影響を与えているのかについて理解したければ、共産圏にあった東欧諸国がどうなったかを考えてみればよい。

●プロシアとハプスブルグの伝統を持つポーランド、チェコ、ハンガリーなどは、東ローマ帝国やオスマン・トルコを引き継いだルーマニア、ブルガリア、アルバニア、そしてギリシャなどよりも、経済的にはるかに繁栄しているのだ。

●そして以前ユーゴスラヴィアだった国の中でも、特にハプスブルグの影響を受けているスロヴェニアとクロアチアは、それ意外のトルコの影響を受けたセルビア、コソヴォ、そしてマセドニアよりも上昇している。

●1991年のユーゴスラヴィアの崩壊は、少なくともその最初の部分では東西ローマ帝国の分裂を反映していたのだ。

●ギリシャの財政危機は、ヨーロッパにとってはユーゴスラヴィアの崩壊後の地理的・歴史的な困難の克服以来の最大の挑戦だ。

●冷戦初期のヨーロッパで問題だったのはドイツとフランスの長年の亀裂をいかにするかということだったが、今はカロリング朝とプロシア的ヨーロッパ――つまりブリュッセルとベルリンーーが遠方の地中海とバルカンという辺境をいかに組み込むかという点が問題になっている。

●そしてヨーロッパが「史上初めて外敵から脅威を受けていない」という事実そのものが、逆に内部の自己陶酔(ナルチシズム)の矛盾にむしばまれてしまうことにつながるのだ。

●EUの北にある国々が自分たちだけでギリシャを救済せず、IMFに助けを借りて200億ドルを調達しようとしていること事態が、ヨーロッパ大陸の統一という夢の限界を教えている。

●しかし地理はヨーロッパをわけていると同時に、それをまとめる役割も果たしている。

●たとえば大西洋から黒海までつづく低地は、ヨーロッパを比較的快適に横断することを可能にしてきたのであり、これがヨーロッパの統一感を生み出すことに貢献してきたのだ

●イタリアの学者であるクラウディオ・マグリスは、「ドナウ川はドイツの文化をギリシャ神話の冒険精神から東へと向わせ、それを他の文化と混じり合って変質させたのだ」と熱狂的に語っている。

●冷戦時代に西側諸国から切り離されていた中欧は、ヨーロッパ大陸の文化の交差点であり、この分断がドイツの統一に及ぼして来たというのは事実である。

●ドイツはたった1100万人しかいないギリシャがヨーロッパの健康状態を測るものであることを理解しなければならない。 なぜならバルカン半島で地中海にアクセスできる場所はかぎられているのであり、しかもそこからブリュッセルとモスクワはほぼ同じ距離にあり、宗教的には「正教」という意味で文化的にロシアに近いのだ。

●これから百年間にはロシアが復活してきて特にソ連時代の東欧の元衛星国に対して圧力を加えるような状態が見込まれるため、ギリシャの政治状態は「ヨーロッパ連合」という大きなプロジェクトが成功するかどうかを測る基準となるのだ。

●救いがあるのは、北ヨーロッパの人々がギリシャをこのまま落ちぶれさせるわけには行かないことを知っていることだ。たしかにギリシャを政治的に東側に流れさせてしまうことは、地理的にも、政治的にも、そして文化的にも、ローマであるかのように振る舞うカール大帝の帝国である大きなヨーロッパとしての希望を失いことになりかねない。

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地理的なところから政治を説くという、まさに「地政学的」な議論以外の何ものでもないですね。

名著『カミング・アナーキー』の頃から安全保障と地政学的な議論を活発にしてきたカプランですが、ここ数年はマッキンダーやスピークマンの名前をあからさまに使うようになってきてます。

そういえば今度うちの学校でカプランのFA誌に載った最新論文である中国の地政学の分析について、うちの先生が学部内で発表をするという知らせがありました。カプランはかなり注目されております。
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Commented by at 2010-04-28 17:16 x
経済危機が起きた場合、世銀やIMFが救援の役割をおうわけですが、
世銀(アメリカ)はどうやら日本を世界的な役割から引き摺り下ろし、
中国を持ち上げたいようですね。
世銀、新興国の投票権比率を拡大 中国3位に〜「最大の敗者」は日本、中国が3位に
http://www.afpbb.com/article/economy/2721387/5667911

この動きは結構重要(日本にとっては深刻)な気がするんですが、
どうみますか?
Commented by masa_the_man at 2010-04-28 21:57
派 さんへ

>中国を持ち上げたいようですね。

あるでしょうな。

>この動きは結構重要(日本にとっては深刻)な気がするんですが、どうみますか?

私はチャンスである、とも見ますね。この際分担金などを一気に引くとかできます。ただしそういうことをする勇気のある政治家がいないので結局意味はなく、つまりは「危機」なんですが(苦笑)コメントありがとうございました
Commented by WIZARD03 at 2010-04-28 22:13 x
人間はランドパワーを基本として生まれ、環境によってシーパワーへの変化を余儀なくされる、これが私の印象です。
三方向海に囲まれた半島でも世界島の一部である以上、なかなかシーパワー化しないという例ですね。
ギリシャを含めた西欧がシーパワーだったのは冷戦時代だけで、その後ランドパワーに回帰しました。
私のランドパワーの認識は以下のとおりです。
1.ランドパワーは元々不安定であり、それを安定化させるために独裁/統制を行う。
2.ランドパワーは奪って自給しようとする。(アウタルキー)
3.ランドパワーは経済発展が難しい。
この認識は正しいでしょうか?
Commented by masa_the_man at 2010-04-28 22:18
WIZARD03 さんへ

>ランドパワーを基本として生まれ、環境によってシーパワーへの変化を余儀なくされる

なるほど。たしかにこれは一理あります。

>半島でも世界島の一部である以上、なかなかシーパワー化しない

ありますねぇ

>ギリシャを含めた西欧がシーパワーだったのは冷戦時代だけで、その後ランドパワーに回帰しました。

トルコも一緒ですね。

>1.ランドパワーは元々不安定であり、それを安定化させるために独裁/統制を行う。

たしかに。

>2.ランドパワーは奪って自給しようとする。(アウタルキー)

しかしそれができないためにジレンマに陥るわけで(苦笑

>3.ランドパワーは経済発展が難しい。

これは場合によりますね。リムランド化しているとうまくいく、というのはどうでしょう?コメントありがとうございました
Commented by nori at 2010-04-29 12:43 x
いつもとても勉強させていただいています。
ちなみに英国の影響力というのは特に無いのでしょうか?
下記ブログを見て気になりましたので。
http://extremist5123.iza.ne.jp/blog/entry/428576/
Commented by elmoiy at 2010-04-29 19:38 x
>これから百年間にはロシアが復活してきて特にソ連時代の東欧の元衛星国に対して圧力を加えるような状態が見込まれるため

シュレーダー政権時代、ドイツはえらくロシアに接近していましたが、今の独露関係はどうなっているのでしょうか?

ドイツが将来、EU内の貧しい国を助けるよりも、天然資源のためにロシアに接近したほうが得だと考えるようになる可能性はあるでしょうか?
Commented by masa_the_man at 2010-04-29 22:31
nori さんへ

>ちなみに英国の影響力というのは特に無いのでしょうか?

あると思いますよ。ただしカプランは意図的に避けているような気が(笑)まあ「優秀な北ヨーロッパ」ということで。コメントありがとうございました。
Commented by masa_the_man at 2010-04-29 22:32
elmoiy さんへ

>今の独露関係はどうなっているのでしょうか?

相変わらず近いと思っておりました。そういえば最近の関係をあまり見てませんなぁ。

>天然資源のためにロシアに接近したほうが得だと考えるようになる可能性はあるでしょうか?

十分ありそうです。どの国も「現実主義」ですから。コメントありがとうございました
Commented by 失地農民 at 2010-04-30 13:03 x
現世界銀行総裁のぜーリックはアメリカの国務省に勤めていたときから露骨な反日、親中政策を進めています。反日が動機ではなく、西欧諸国に対しても親中で、パンダ・ハガーとして悪名高い人物です。
Commented by ぱんだ at 2010-04-30 16:50 x
Foreign Affairsの最新号の目玉論文としてカプランの地政学の論文がありました。マッキンダー、マハン、スピークマンも出てきて、中国の勢力範囲の地図がのっていました。大変面白い論文でした。
Commented by masa_the_man at 2010-05-01 01:31
失地農民 さんへ

>露骨な反日、親中政策を進めています。反日が動機ではなく、西欧諸国に対しても親中で、パンダ・ハガー

そういう意味ではマンデルソンにも近い感覚が。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-05-01 01:32
ぱんださんへ

>Foreign Affairsの最新号の目玉論文としてカプランの地政学の論文がありました。

ネット上でチラっと読みました。

>マッキンダー、マハン、スピークマンも出てきて、中国の勢力範囲の地図がのっていました。大変面白い論文でした。

うちの先生がさっそく反応しております。コメントありがとうございました
by masa_the_man | 2010-04-28 13:26 | ニュース | Comments(12)