戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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マハンのような「名著」の書き方

今日の甲州はよく晴れたのですが、午後から雲がみるみる増え始め、夕方には雨になりました。

キルギスでクーデターが起こったり、アフガニスタンでカルザイが反米的な発言したり、アメリカがロシアと核削減交渉したりと地政学的な話題にことかかない毎日ですが、みなさんはいかがお過ごしでしょうか。

さて、久々に地政学の理論家であるアルフレッド・マハンについて少し。

マハンの主著である『海上権力史論』の中の最初の章にある、有名な「シーパワーの六つの理論」は盗作である可能性が極めて高い、というのは、少しマハンを読んだことがある方々ならすでにご存知のことかと思いますが(ちなみに元ネタと思われる1882年のプロシーディングス誌に掲載された論文を書いたのはウィリアム・グレン・ディヴィッドという人物)、今日それに関して資料を調べていた時に面白い記述を発見。

それは、「なぜマハンの著書はそれほどポピュラーになったのか」というもの。

この理由としていくつか挙げられるのですが、まず一つ目は「マハンが非常に宗教的な文の書き方をしたからだ」というもの。

たしかにマハン自身はキリスト教の信仰心の厚い宗教的な人物であったのは事実なんですが、彼の書き方から垣間見える「世界観」も、実はかなりキリスト教的だとか。

たとえば彼の想定する世界(の歴史)というのは、秩序やパターン、それに知性に満ち満ちている神がその中心にある「メカ的」な宇宙であり、この崇高な真理は無限の神によって有限の人間に段々と明らかにされ、それを明らかにするのは神によって選ばれた(?)歴史家(つまりマハンのような人物)ということになるとか。

マハンはこのような神の摂理である歴史というものを、「いくつかの原理を把握しておけばすべてがわかる」という想定(assumptions)をベースにして、このブログではおなじみの「シーパワー」という新しい概念をつかって「経済的」に説得力ある説明をしたわけですな。

しかしマハンの本が有名になった二つ目の理由は、「彼がすでに多くの国々のエリートたちによって採用されていた政策(海軍主義)を再確認して提唱したから」というもの。

たしかにマハンが本を出した時点(1890年)ではすでに世界中の大国では海軍増強の競争が開始されていたと見るほうが正しく、そういう意味では彼の考えは「後付けの理論」とでも言えるようなものです。

しかしこれがポピュラーになって受け入れられることにより、結果的に彼の本は「歴史の必然としての海軍力増強」というレジティマシーを、日本を含む当時の大国たちに与えることになったんですね。

現代の例でこれを考えてみれば、一番わかりやすいのがトマス・バーネットであります。

この人物は冷戦後のアメリカ軍がなんとなくすでに行っていた政策について、「それはグローバル化推進だ!」という「答え」を見いだし、「いままでそれを無意識的にやっていたんだから、逆に意識的それを推進していけばいいじゃないか」という政策を提唱したわけです。

つまり彼の場合も、すでに行われていた政策に理由付けをしたという意味でマハンと瓜二つなわけですな。

名著と呼ばれるような本は、多かれ少なかれ上記のような「売れた理由」があるわけですが、それが必ずしも学術的なものではない(マハンの本は歴史本だが二次資料しか使っていない)というところもミソかと。

ここで教訓めいたことを一つ。

マハンの『海上権力史論』のような歴史的名著を書くためには、

1、世界を動かすカギとなる新しい概念を、キーワードにして説明する
2、最近の世界の流れについて論理的に説明し、そこから向うべき戦略を具体的に示す

ということでしょうか。
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(都内某所の桜)
Commented by 柴崎力栄 at 2010-04-12 01:06 x
この写真、靖国神社の前の通りですよね。確かに、マハンが伝わらなくとも、あの時代の日本海軍は同じようなイデオロギーを独自に作れたはずです。今回わたくしの名前に入れたurlは、韓国国防大学校の教員が、東大駒場でとった博士論文の要旨です。
Commented by ひろ at 2010-04-12 14:35 x
ちょうどマハンの時代はフロンティアが西海岸にまで広がって、「その先」をどうするか模索していた時代です。ですからマハンの本が売れた背景にあるのはフロンティア消滅後の合衆国の国策に対する処方箋として当時の時代背景にうまくマッチしたんですね。
Commented at 2010-04-12 14:49 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by elmoiy at 2010-04-12 16:16 x
>それを明らかにするのは神によって選ばれた(?)歴史家

旧約聖書の時代なら、歴史家ではなく預言者だったんですけどね(笑

>フロンティア消滅後の合衆国の国策に対する処方箋

1890年代のアメリカでは経済不況と社会不安が深刻化していて、合衆国の海外市場の獲得をより積極的に図ろうとする対外膨張への機運が噴き出していましたからね。実際、1898年には米西戦争が起きて、スペイン領キューバだけでなく、太平洋の彼方のフィリピンにも艦隊を送ることに。
Commented by masa_the_man at 2010-04-12 21:03
柴崎さんへ

>靖国神社の前の通りですよね

よくわかりましたなぁ。

>マハンが伝わらなくとも、あの時代の日本海軍は同じようなイデオロギーを独自に作れたはず

そうなんですよね。マハンはすでにあった動きを明らかにしたという役割かと。

>韓国国防大学校の教員が、東大駒場でとった博士論文の要旨

なるほど。

>このような近代科学技術の集約と対外政策の強力な軍事的手段を意味する近代海軍が、何時から「海国」日本に形成され始めたのであろうか

この結論が気になるところです。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-04-12 21:04
ひろさんへ

>「その先」をどうするか模索していた時代です。

そうですよね。フロンティア消滅宣言がこの前後です。

>国策に対する処方箋として当時の時代背景にうまくマッチした

これが重要ですよね。「うまくマッチ」しないといけません。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-04-12 21:07
キモオタさんへ

>なんだかモヤモヤしている段階の概念をすばりなキーワードにして説明してそれに対処する方法を説明する

クラウゼヴィッツの「摩擦」とか、ナイの「ソフトパワー」なんかがこれですね。

>最近だと 「バカの壁」

なるほど(笑

>これからは身分ではなくて勉強して西洋の文化学問を会得した人間が強いんだろ」という共通認識

たしかにそうですなぁ。

>世間一般の流れや認識からかけ離れた名著は存在しない

しませんね。そういう意味ではコピーライターの才能も必要ですな。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-04-12 21:10
elmoiy さんへ

>歴史家ではなく預言者だったんですけどね

マハンはその役割が歴史家にある、と考えている雰囲気が(笑

>海外市場の獲得をより積極的に図ろうとする対外膨張への機運が噴き出していました

この辺の経緯についてはザカリアの本がけっこう詳しく書いておりましたな。彼はこれで「オフェンシブ・リアリズム」の第一波を起したわけで・・・

>太平洋の彼方のフィリピンにも艦隊を送ることに。

そしてフィリピンの統治と台湾の統治が衝突して、シーパワー同士の日米開戦へという流れですな・・・コメントありがとうございました
Commented by sdi at 2010-04-12 22:08 x
>最近の世界の流れについて論理的に説明し、そこから向うべき戦略を具体的に示す
「論理的に説明」「具体的に示す」というの点が私は重要と思えます。凡百のデマゴギーやアジとの違いはここにあると考えます。
「○○は将来☐☐となる」とか「○○の未来は☐☐にある」とただ唱えるだけで、しっかりした論拠や具体的な指針の提示がなくては説得力がありませんし、共感や賛嘆の念を読み手から勝ち得ることはできません。
あと、時代の要請を半歩か一歩先取りするという要素も必要ですね。あまりにも、時代より先に進みすぎてしまっては読み手から無視されてしまいます。
Commented by Oink at 2010-04-12 22:29 x
>地政学的な話題
「カチンの森事件」追悼に出席しようとしたポーランド首相らが
飛行機事故で亡くなりましたが、これは「斬首戦略」の
興味深いケースになりますか?
東欧のパワーバランスも変わるかな?
ブレジンスキーは、何か書かないのかしら?

>マハンの『海上権力史論』のような歴史的名著を書くためには、

1、世界を動かすカギとなる新しい概念を、キーワードにして説明する
2、最近の世界の流れについて論理的に説明し、そこから向うべき戦略を具体的に示す

3年くらい前のゴア副大統領みたいなものですかw
Commented by masa_the_man at 2010-04-12 23:18
sdiさんへ

>「論理的に説明」「具体的に示す」というの点が私は重要と思えます

「具体的に示す」というのがマハンの場合はイギリス海軍史だったわけですな。

>時代の要請を半歩か一歩先取りするという要素も必要

たしかにそうですなぁ。「予見性」という部分ですね。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-04-12 23:26
Oinkさんへ

>「カチンの森事件」追悼に出席しようとしたポーランド首相らが飛行機事故で亡くなりました

大ニュースですね。

>「斬首戦略」の興味深いケースになりますか?

大胆な視点ですなぁ(笑)まあ本当に攻撃されたかどうか微妙ですから厳密には「斬首」にはならないのかもしれませんが。

>ブレジンスキーは、何か書かないのかしら?

書いてほしいですね。もしかしたら息子のマークのほうが書くかもしれませんが。

>3年くらい前のゴア副大統領みたいなものですかw

彼の場合はキーワードが少なかったですが、まあ時代の流れを代表していたという意味ではそうかもしれませんなぁ。コメントありがとうございました
Commented by 柴崎力栄 at 2010-04-13 01:25 x
奥山さん:
「この結論が気になるところです。」は、PDF全48ページをダウンロードしてお読みください。海洋基本法が成立して3年、宇宙基本法が成立して2年の現在と、二重映しに見えて仕方がありません。
Commented by nanashi at 2010-04-13 07:19 x
論理的というのは、他人の論理構築の土台になっても、引用してくれた人に恥をかかせない崩壊させないということですよね。
日本人が日本人を引用できるような土壌になれば、地政学もどんな学問も日本の地で大木が育つようになるんだが・・・
Commented by masa_the_man at 2010-04-14 01:10
柴崎さんへ

>海洋基本法が成立して3年、宇宙基本法が成立して2年の現在と、二重映しに見えて仕方がありません。

そうなると、やはり「現代のマハン」は誰かという点が気になりますね・・・コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-04-14 01:14
nanashi さんへ

>他人の論理構築の土台になっても、引用してくれた人に恥をかかせない崩壊させないということ

なんとなくニュアンスはわかるんですが・・・まあそうかも知れませんな。単純なことばでいえば「ぶっ飛んでない」ということでしょうか。

>日本人が日本人を引用できるような土壌になれば、地政学もどんな学問も日本の地で大木が育つようになる

これはあるでしょうね。コメントありがとうございました
Commented by mmj at 2010-04-14 02:35 x
>1、世界を動かすカギとなる新しい概念を、キーワードにして説明する
>2、最近の世界の流れについて論理的に説明し、そこから向うべき戦略を具体的に示す
ドラッカーやナイにも当てはまりますね
こういったことを意識して書くことが大切なのでしょうか

>マハンの『海上権力史論』のような歴史的名著を書くためには、
>1、世界を動かすカギとなる新しい概念を、キーワードにして説明する
>2、最近の世界の流れについて論理的に説明し、そこから向うべき戦略を具体的に示す
>ということでしょうか。
この部分を引用してtwitter、mixiでコメントしてもよろしいでしょうか
Commented at 2010-04-14 18:59 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by もするさ at 2010-04-15 21:51 x
>日本人が日本人を引用できるような土壌になれば、地政学もどんな学問も日本の地で大木が育つようになるんだが・・・
マハンの「海上権力史論」には少し見劣りするかも知れませんが、敢えて言うなれば石原莞爾の「戦争史大鑑」「世界最終戦論」ではないでしょうか?
地政学よりも、軍事技術史に偏りがちのきらいもありますが日本の産んだ軍事理論家としては一級の人物の書いた名著である事は間違い有りません。
日蓮宗の門徒で多少神懸かりなところがあったり、大外れした予言もありますが、
「戦闘の最小単位はやがて個人となる」
「核の手詰まり」
「(その帰結として)WW2以降大国同士の戦争はやってこない」
「ソ連は苦手分野(であるエレクトロニクス)での競争に誘導され(冷戦に)負ける」
といった予言は的中、もしくは実現しつつあり、たぐいまれな先見性を持った人物だと思いますがいかがでしょう?
彼はもっと評価され、読まれるべきだと思いますが
Commented by nanashi at 2010-04-15 23:29 x
言語帝国主義 トール・サンダルソラ

アングロサクソン圏は言語による世界観の支配を明確に戦略目標として持っていると論じている
Commented by masa_the_man at 2010-04-15 23:38
mmj さんへ

>ドラッカーやナイにも当てはまりますね

あてはまりますね。彼らはやっぱり意識して書いているんでしょう。

>この部分を引用してtwitter、mixiでコメントしてもよろしいでしょうか

ぜひぜひ。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-04-15 23:41
waterloo さんへ

>月の南極に基地を作りたい

やりそうですなぁ。シャトルは終わりましたが。

>アメリカのフロンティアスピリットを刺激…。以前も、そんな大統領が

しかも今回も似たような民主党の大統領ですし(笑)コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-04-15 23:49
もするささんへ

>敢えて言うなれば石原莞爾の「戦争史大鑑」「世界最終戦論」

なるほど、一理ありますな。

>多少神懸かりなところがあったり、大外れした予言もありますが、

ここがネックですよね(苦笑)

>彼はもっと評価され、読まれるべきだと思いますが

そういう意味では、これから少し解釈も違ってくるかも知れませんね。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-04-15 23:50
nanashi さんへ

>アングロサクソン圏は言語による世界観の支配を明確に戦略目標として持っていると論じている

あるでしょうね。そういえば1930年代にはドイツも「うちらが勝ったら英語なんかドイツ語の一方言になる」と言っていたらしいですが(笑)コメントありがとうございました
Commented at 2010-04-24 15:21 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2010-04-24 20:44 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by masa_the_man at 2010-04-26 20:05
waterlooさんへ

>やっぱりちゃんとやる事やってますね。

まあ組織が勝手にやっていた、という解釈もできますが(苦笑)しかし動画は普通にニュースでも流れてましたな。名前がけっこう暗示的だという指摘が多いですが。コメントありがとうございました
by masa_the_man | 2010-04-12 00:14 | 日記 | Comments(27)