戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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テクノロジーと「戦争の霧」

今日の甲州は朝からスッキリ晴れまして、かなり気温も上がりました。甲府で「信玄公祭り」が開催されておりましたので見てきました。

さて、また本の紹介を。

今回は久々にテクノロジーについてのものなんですが、けっこう大胆な内容で、かなり注目すべきものかと思われます。

The Scientific Way of Warfare: Order and Chaos on the Battlefields of Modernity

by Antoine J. Bousquet

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この題名を直訳すれば、「科学的な戦闘方法:近代性の戦場における秩序とカオス」という感じになるでしょうか。

簡単に内容をいえば、まずこの著者は「科学がいかに戦争に応用されたのか」ということを、それぞれ時代を大きく四つにわけて、科学が軍事思想そのものに大きな影響を与えたということを論じております。

この四つの時代とは、「メカニクス」(時計)、「熱力学」(エンジン)、「サイバネティクス」(コンピューター)、「カオスと複雑性」(ネットワーク)ということになります。

そして結論だけいえば、このようなテクノロジーが変化するときに常に軍事担当者たちが求めていたのは、科学的なテクノロジーによって「秩序」と「確実性」を得たい、ということになります。

本ブログではおなじみのクラウゼヴィッツは、「戦争は不確実で何が起こるかわからない」と言っていたことは皆さんもご存知だと思いますが(詳しくは拙訳『戦略の格言』を参照してみてください)、この「戦争の霧」を、近代の軍事担当者たちは「科学やテクノロジーの力を使ってなんとか晴れさせてやりたい!」という思いを持っていたということですね。

まず著者は近代というものが登場して来た16世紀のヨーロッパには三つの大きなトレンドがあり、これらはそれぞれ①伝統よりも合理性、②官僚組織、③科学とテクノロジーの応用、ということになり、これが17世紀に発明された時計に代表される社会革命につながり、最終的にはフリードリッヒ大王の「時計仕掛けの軍隊」(clockwork army)につながったと言います。

これは集団的な秩序ある軍事行動や調練/ドリルなどの普及につながり、その底で追求されていたのが「正確性」「予測可能性」「行動予定」などというもので、結果として狙われていたのは軍事行動というカオスからリスクを最小限化するということだった、というのです。

このような調子で、この著者は科学とテクノロジーの戦闘への適用がすべて「戦争の霧」というカオスを解消しようとする人間の行動のあらわれであると説くわけですが、とくに最後のほうでは「特に二十世紀において、集中化と分散化(centralization vs decentlization)という対立が常に起こっていた」という興味深い指摘をしております。

考えてみればこの「集中化と分散化」というのは現代の政治でも社会でも重要なテーマでして、この対立というのは常に起こっているわけですよね。

この本は「軍事とテクノロジー」という切り口なんですが、そこで論じられているテーマはかなり普遍的に使えるものなのかなと思われます。

かなり学術的に真面目に書かれておりまして、なかなかオススメです。こういう本はぜひとも積極的に邦訳していただかないと。
Commented at 2010-04-10 23:52 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by at 2010-04-11 03:26 x
日本が得意とするのはメカニクス分野だけですかね。
最近はトヨタで世界的には怪しまれてるのかもしれないけど。
エンジンはメカニクスの様に思えるけど、何故か昔から不得意ですね。
後の二つはハードよりもソフトがものを言うでしょうから、
これもソフトが駄目な日本の不得意分野でしょうね。
しかし最近はハードでもソフト開発力の優位性が強くなってきたように思えます。
日本の携帯とiPhoneの違いみたいで、ハードがよくても、ソフトで負ける事が多々あるように思えます。
Commented by nanashi at 2010-04-11 06:13 x
強いためには集中しなくてはいけないが、強さを維持するには分散化する必要がある。
防御は強さの維持でもあるが、それ以外にも、企業の競争のように内部に競争関係を保つと、互いに比較することが可能になり様々な向上を期待できる。
国家は官僚組織の達成度を比較できる道州制のような形が一番良いと思うが、左翼のような普遍主義者や外国勢力が道州制を利用して国家を分離解体してしまうリスクがある。
統御された分散というのが望ましい。
Commented by 焔剣 at 2010-04-11 14:58 x
>「戦争の霧」というカオスを解消しようとする人間の行動のあらわれである

テクノロジーを得て、逆に不確実性が増しているところが、なんともはや・・・(^^;
Commented by 待兼右大臣 at 2010-04-11 23:11 x
テクノロジーとは次元をことにしますが、自然科学という広い意味での「テクノロジー」という世界でいうと、理論物理学の分野では、量子力学という確率論的な「揺らぎ」の世界に入り込んで、 「霧」 はなくならないということが判明してしまいました。

それやこれやで最新の量子力学と「神の実在」を巡る宗教的議論との境目がわからなくなってきています。
Commented by masa_the_man at 2010-04-11 23:40
生永さんへ

>是非!

そうですねぇ、時間ができたらぜひそうしたいところです。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-04-11 23:41
派 さんへ

>エンジンはメカニクスの様に思えるけど、何故か昔から不得意

いわれてみれば、たしかにそのような・・・・

>最近はハードでもソフト開発力の優位性が強くなってきた

結局はソフトが強くないとハードの意味はない、ということで。時代が「ソフト化」しているんでしょうな。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-04-11 23:42
nanashi さんへ

>統御された分散というのが望ましい。

結局はバランスの問題なんでしょうなぁ。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-04-11 23:43
焔剣さんへ

>テクノロジーを得て、逆に不確実性が増しているところが、なんともはや

そうなるとうちの先生なんかが大喜びで、「ほらいわんこっちゃない、クラウゼヴィッツは正しいのだ!」といいそうな(笑)コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-04-11 23:45
待兼さんへ

>「揺らぎ」の世界に入り込んで、「霧」 はなくならないということが判明

厳しい現実です(苦笑

>宗教的議論との境目がわからなくなってきています。

ここまでくると意味のわからない世界ですな。コメントありがとうございました
Commented by 中川信博 at 2010-04-12 18:14 x
「女心と秋の空」、晴れていてもわからない「恋愛の霧」。「失敗は成功の母」、「苦労は買ってでもしろ!」、何が幸い(災い)するかわからない「人生の霧」。科学的なテクノロジーによって「秩序」と「確実性」を得たいと思うのは僕だけか…。
Commented by elmoiy at 2010-04-12 19:58 x
>理論物理学の分野では、量子力学という確率論的な「揺らぎ」の世界に入り込んで、 「霧」 はなくならないということが判明してしまいました。

これまで西欧近代文明が築き上げてきたものの解体が始まっているのかもしれませんね。これは物理学に限らず、あらゆる分野で感じることなのですが。

イラクで「戦争請負会社」が活躍していますが、ある意味、国民軍が出現する以前の状態への逆戻りです。三十年戦争の時代の傭兵軍は、冷徹な企業論理を貫いた自立的な組織で、失業兵や落伍兵へは無配慮でした。安田純平『ルポ 戦場出稼ぎ労働者』 (集英社新書)を読むと、弱者の立場にいる人々の待遇のひどさは現代でもさほど変わっていないと思ってしまいます。
Commented by masa_the_man at 2010-04-12 21:17
中川さんへ

>科学的なテクノロジーによって「秩序」と「確実性」を得たいと思うのは僕だけか…。

思うのは当然でしょうなぁ。問題はそれができないということであり、人間というのはどこかでそれを得ることができないということを知らなければ(諦めなければ)ならないのかも知れませんね。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-04-12 21:19
elmoiy さんへ

>これまで西欧近代文明が築き上げてきたものの解体が始まっているのかもしれません

ニーチェはある意味でこれをわかっていた先駆け?

>弱者の立場にいる人々の待遇のひどさは現代でもさほど変わっていないと思ってしまいます。

そういえば私の先生が「現代の対テロ戦について理解したかったらローマ時代の文献を読め」と言ってましたが、それも近いかも知れませんね。コメントありがとうございました
Commented by もするさ at 2010-04-14 14:33 x
細胞説、アトポーシスも追加。
西欧近代文明が築き上げてきた価値観は、これまでもキリスト教的世界観を根底から否定するが如き科学的現実を突きつけられて、ボディブローのごとくじわりじわりと痛めつけられて来ていたように思えます。
あとは、「思想の面で決定打を待つのみ」の状況というのは言えるかも知れません。
(その決定打を打ちかねないのが日本であるが故に叩いているという側面もあながち誇張には見えてないのかも)
軍事史的な面でテクノロジーを見ますと
「技量の高低が戦闘の結果に結びつきにくい」
銃と言う武器が近代国民軍を産み、そして元込め銃と共に代表制民主主義が、そして機関銃と共に福祉国家が生まれた事を考えると「個々人の持つ武器の破壊力」が
極大化し高コストになっていく事で「数が必ずしも戦力に反映されない」時代が来て
「軍事技術の変遷から来る帰結として、ひょっとしたら近代民主主義は崩壊するかも知れない。」
としたフリードマンの「戦場の未来」の予言が当たるかも知れません。
(たしか、日本語訳の終章が「さらばGI」ってタイトルで内容も国民軍の終焉を匂わせる物でした)
Commented by elmoiy at 2010-04-14 16:43 x
>ボディブローのごとくじわりじわりと痛めつけられて来ていたように思えます。

ヨーロッパの場合、世紀末に破局の予兆のようなもの(表現主義、抽象絵画、シェーンベルクによる調性の破壊など)が現れてきましたね。

>元込め銃と共に代表制民主主義が

そういえば古代ギリシアの直接民主政も、無産市民がガレー船の漕ぎ手として戦争に参加したことから生まれたものでした。

>軍事技術の変遷から来る帰結として、ひょっとしたら近代民主主義は崩壊するかも知れない

産業革命以後、自然科学の分野では体系的で細分化された研究が必要になり、それとともにジャーゴン(専門用語)も増加して、一般の人々にはとても理解できないような内容になっていきましたね。現代ではテクノロジーの発達により、一部の人々が重要な判断をし、残りの大部分の人々がその判断に従うという構造がかえって強まっているのかもしれません。
Commented by masa_the_man at 2010-04-15 00:03
もするささんへ

>科学的現実を突きつけられて、ボディブローのごとくじわりじわりと

皮肉なもんですよねぇ。神を証明するためにはじまったような科学が、今度は否定する側にまわってしまうわけですから。

>その決定打を打ちかねないのが日本であるが故に叩いている

一つあるでしょうね。キリスト教国でない日本があれだけテクノロジーを持っているわけですから恐怖です。

>軍事技術の変遷から来る帰結として、ひょっとしたら近代民主主義は崩壊するかも知れない

そこらへんのつながりをいう人はあまりいませんが、実はどこかでリンクしているんですよね。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2010-04-15 00:06
elmoiy さんへ

>直接民主政も、無産市民がガレー船の漕ぎ手として戦争に参加したことから生まれたもの

統治者からすれば「ロクでもない」という感覚があったんでしょうなぁ。

>現代ではテクノロジーの発達により、一部の人々が重要な判断をし、残りの大部分の人々がその判断に従うという構造がかえって強まっている

ありますね。アメリカで一番尊敬されているのは聖職者ではなく科学者というのもその一端かと。コメントありがとうございました
by masa_the_man | 2010-04-10 23:04 | 日記 | Comments(18)