2010年 04月 02日
中国の「国防動員法」 |
今日の甲州は曇りがちの肌寒い一日でしたが、とりあえず連日の寒さのピークは越えたような気がします。夜にはけっこう暖かくなりました。
さて、日本ではあまり分析されていない中国の「国家防衛動員法」のネタを。
アメリカにいる中国系の人の分析なんですが、官民一体となったその取り組みが与える影響、みたいなところを考察しております。
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Is There Still a Need for War Time Mobilization? China Thinks So
Published on March 29, 2010 by Dean Cheng
●中国共産党の全国人民代表大会(全人代)であまり注目されなかった事実としてあるのは、「国防動員法」の制定である。
●通常型の紛争が数日から数週間で終結するように計画される現代において、中国がこのような長期戦に対する準備を整えていることは驚きである。
●実際のところ、人民解放軍は国家総動員などがまったく論じられなくなった西側諸国の軍とは対照的な戦争の将来像を描いている。
●西側とは違って、人民解放軍は短期戦と長期戦の両方で激しい戦いが起こることを想定しているようなのだ。
●今回の全人代での決議はアメリカの国防企画者たちにとってかなり重要な意味をもっている。なぜならそれが自分たちの潜在的な敵が長期戦(しかもIEDを使うようなものではなく、対艦ミサイルを使って)を戦おうとしているからだ。
●しかもこれは海外からの投資家にとっても重要な問題を含んでいる。つまりこのような危機が起こった時、彼らの中国内の資産はどうなるのか、ということだ。
まだまだ必要とされる「動員」
●中国側の「情報化された状況における地域戦争」という文書では、突発的に起こるような限定的な戦争を戦うことが集中的に論じられている。
●しかし中国の動員計画が示しているのは、人民解放軍はもっと広範囲にものごとを考えているということだ。
●具体的には、動員するために必要な科学的/テクノロジー面が強調されており、これはまさに長期戦を想定したものとして位置づけることができるのだ。
●このような首尾一貫性のなさをどのように理解すればいいのだろうか?一つの可能性としてあるのは、人民解放軍の分析官がみるように、この論文で論じられているような戦争は、兵器に費やす国防費をが高まることや、敵味方の双方に過大な被害がでること、そしてその戦争が突然はじまる可能性が高いということなのだ。
●人民解放軍のような現代の軍隊は、すでに持っている兵器や兵士だけでなく、国家経済から多くを必要とすることになるのだ。そういう意味で、中国の「現代の戦いのための動員」というのは重要なコンセプトであり続けるのだ。
●同時に、北京政府自身は自分たちがまだ発展途上国であると認識しており、そのために軍事面だけを発展させるわけには行かないのだ。
●その証拠に、中国の専門家はソ連の崩壊を教訓としており、国防費に予算をかけすぎたモスクワの過ちを繰り返さないよう決心している。
●今年の人民解放軍の国防費の伸び率は縮小しており、過去十年間で10%の伸びを下回った最初の年となったのだが、これは中国共産党が国防費に回す予算を制限したことを意味している。
中国の動員インフラの発展
●中国がこのディレンマを解消するためにつかうアプローチとして考えられるのは、軍事面での発展を国家経済の発展に従属させることだ。
●民間と軍事の政策の統合は鄧小平、江沢民、そして現在のリーダーである胡キントウによって追求されてきているものだが、とくに胡キントウは民間と軍事を統合することによって平時と戦時の生産力を混合させる政策を推進している。
●さらに中国経済の発展という面から考えると、中国政府は「政府の強制的な手段」、つまり徴発だけでは、平時やとくに戦時の要求(演習や訓練)に答えることができない。中国政府自身が理解しているように、そのような手段では限定的な効果しかあげられないのであり、むしろ法的な手段に頼るほうがいいのだ。
●また、法的な面からアプローチするやりかたのほうが、平時の経済発展に決定的に重要となる見通しの良さや首尾一貫性というものを提供してくれるのだ。これは海外からの投資家たちにとっても心強いものだ。なぜなら、彼らにとっては自分たちの投資が消滅しまう恐怖は大きいからだ。
●国家防衛動員法の制定により、これで中国国内の戦時の動員の基礎が整ったことになる。そうなると、人民解放軍が戦時にどの管区をどれだけの時間内に指示しなければならないのかも設定されてくるようになるのだ。
●これに関することでいえば、交通システムのような特定の民間資源、または科学/テクノロジー関連の施設や機材などへのアクセスが重要になってくる。
●とくに交通システムに関しては、民間の運搬手段や飛行機、その乗組員たち、それに関するインフラ(道、鉄道、港湾設備)などは、台湾有事の際に明らかに重要となってくる。
●しかしそれよりも注目すべきは科学/テクノロジー面のほうだ。
●人民解放軍の刊行物に書かれている科学/テクノロジーに関連する人材や施設についての記述からすると、軍事と民間のインフラはとても密接な関係があることがわかる。
●たとえばエンジニアなどはセンサーや通信機器などの維持や修理のために直接支援することが可能なように手配されることになり、この点においてはアメリカの民間のコントラクターたちの使用と似ている。
●さらに、これを通じて軍事作戦についての研究開発のためにさまざまな施設や資源を使うことも検討されている。これはつまり国家の研究所だけでなく、大学や企業の施設も使うということだ。
●同様に、物的な施設だけではなく、外国の兵器や戦術に人民解放軍が対抗するための、科学インテリジェンスも含まれるのだ。
アメリカにとっての重要な点
●国防動員法に書かれていることは、アメリカの国防企画者たちや中国に投資しようとしている人々にとって警鐘となるはずだ。
●国防企画者たちにとっては、この新法は人民解放軍が紛争の際にどのような能力を維持しようとしているのかを再分析する必要があることを教えている。中国経済全体から資源を引き出すための能力というのは、すでに蓄えられた物資を中心にしたものとは大きく違う、長期戦を戦う能力という意味を持つものだ。
●これは軍事企画だけにかぎらず、中国が将来の戦争を戦う期間とそれに必要とされるものについてアメリカ側と同じ視点を持ち続けるかどうかという点を再考する必要があることを教えているのだ。
●中国への投資家たちにとって、これは中国内への投資がどれほど安全かを考える必要性を思い起こさせるものだ。平時には投資した資産や施設がそれほど脆弱であるとは考えにくいが、この新しい法律によって中国政府が動員に必要となる「特別な手段」を使用できる状況をつくりやすくしているのだ。危機が発生すれば、いくつかの非中国企業の資産や施設が北京政府に徴収される可能性は出てくるのだ。
●その他にも、この新法の制定は中国政府の統治の仕方について新たな疑問をなげかけるものだ。これはたしかに「法による支配」の進化であるのだが「法の支配」ではない。もちろん毛沢東のような第一世代の人格によるリーダーシップの頃とは違って、今のほうが予測がつきやすいが、それでも世界最大級の経済と政治に求められる透明性からはほど遠いのだ。
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北京政府の必死さがよくわかります。
さて、日本ではあまり分析されていない中国の「国家防衛動員法」のネタを。
アメリカにいる中国系の人の分析なんですが、官民一体となったその取り組みが与える影響、みたいなところを考察しております。
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Is There Still a Need for War Time Mobilization? China Thinks So
Published on March 29, 2010 by Dean Cheng
●中国共産党の全国人民代表大会(全人代)であまり注目されなかった事実としてあるのは、「国防動員法」の制定である。
●通常型の紛争が数日から数週間で終結するように計画される現代において、中国がこのような長期戦に対する準備を整えていることは驚きである。
●実際のところ、人民解放軍は国家総動員などがまったく論じられなくなった西側諸国の軍とは対照的な戦争の将来像を描いている。
●西側とは違って、人民解放軍は短期戦と長期戦の両方で激しい戦いが起こることを想定しているようなのだ。
●今回の全人代での決議はアメリカの国防企画者たちにとってかなり重要な意味をもっている。なぜならそれが自分たちの潜在的な敵が長期戦(しかもIEDを使うようなものではなく、対艦ミサイルを使って)を戦おうとしているからだ。
●しかもこれは海外からの投資家にとっても重要な問題を含んでいる。つまりこのような危機が起こった時、彼らの中国内の資産はどうなるのか、ということだ。
まだまだ必要とされる「動員」
●中国側の「情報化された状況における地域戦争」という文書では、突発的に起こるような限定的な戦争を戦うことが集中的に論じられている。
●しかし中国の動員計画が示しているのは、人民解放軍はもっと広範囲にものごとを考えているということだ。
●具体的には、動員するために必要な科学的/テクノロジー面が強調されており、これはまさに長期戦を想定したものとして位置づけることができるのだ。
●このような首尾一貫性のなさをどのように理解すればいいのだろうか?一つの可能性としてあるのは、人民解放軍の分析官がみるように、この論文で論じられているような戦争は、兵器に費やす国防費をが高まることや、敵味方の双方に過大な被害がでること、そしてその戦争が突然はじまる可能性が高いということなのだ。
●人民解放軍のような現代の軍隊は、すでに持っている兵器や兵士だけでなく、国家経済から多くを必要とすることになるのだ。そういう意味で、中国の「現代の戦いのための動員」というのは重要なコンセプトであり続けるのだ。
●同時に、北京政府自身は自分たちがまだ発展途上国であると認識しており、そのために軍事面だけを発展させるわけには行かないのだ。
●その証拠に、中国の専門家はソ連の崩壊を教訓としており、国防費に予算をかけすぎたモスクワの過ちを繰り返さないよう決心している。
●今年の人民解放軍の国防費の伸び率は縮小しており、過去十年間で10%の伸びを下回った最初の年となったのだが、これは中国共産党が国防費に回す予算を制限したことを意味している。
中国の動員インフラの発展
●中国がこのディレンマを解消するためにつかうアプローチとして考えられるのは、軍事面での発展を国家経済の発展に従属させることだ。
●民間と軍事の政策の統合は鄧小平、江沢民、そして現在のリーダーである胡キントウによって追求されてきているものだが、とくに胡キントウは民間と軍事を統合することによって平時と戦時の生産力を混合させる政策を推進している。
●さらに中国経済の発展という面から考えると、中国政府は「政府の強制的な手段」、つまり徴発だけでは、平時やとくに戦時の要求(演習や訓練)に答えることができない。中国政府自身が理解しているように、そのような手段では限定的な効果しかあげられないのであり、むしろ法的な手段に頼るほうがいいのだ。
●また、法的な面からアプローチするやりかたのほうが、平時の経済発展に決定的に重要となる見通しの良さや首尾一貫性というものを提供してくれるのだ。これは海外からの投資家たちにとっても心強いものだ。なぜなら、彼らにとっては自分たちの投資が消滅しまう恐怖は大きいからだ。
●国家防衛動員法の制定により、これで中国国内の戦時の動員の基礎が整ったことになる。そうなると、人民解放軍が戦時にどの管区をどれだけの時間内に指示しなければならないのかも設定されてくるようになるのだ。
●これに関することでいえば、交通システムのような特定の民間資源、または科学/テクノロジー関連の施設や機材などへのアクセスが重要になってくる。
●とくに交通システムに関しては、民間の運搬手段や飛行機、その乗組員たち、それに関するインフラ(道、鉄道、港湾設備)などは、台湾有事の際に明らかに重要となってくる。
●しかしそれよりも注目すべきは科学/テクノロジー面のほうだ。
●人民解放軍の刊行物に書かれている科学/テクノロジーに関連する人材や施設についての記述からすると、軍事と民間のインフラはとても密接な関係があることがわかる。
●たとえばエンジニアなどはセンサーや通信機器などの維持や修理のために直接支援することが可能なように手配されることになり、この点においてはアメリカの民間のコントラクターたちの使用と似ている。
●さらに、これを通じて軍事作戦についての研究開発のためにさまざまな施設や資源を使うことも検討されている。これはつまり国家の研究所だけでなく、大学や企業の施設も使うということだ。
●同様に、物的な施設だけではなく、外国の兵器や戦術に人民解放軍が対抗するための、科学インテリジェンスも含まれるのだ。
アメリカにとっての重要な点
●国防動員法に書かれていることは、アメリカの国防企画者たちや中国に投資しようとしている人々にとって警鐘となるはずだ。
●国防企画者たちにとっては、この新法は人民解放軍が紛争の際にどのような能力を維持しようとしているのかを再分析する必要があることを教えている。中国経済全体から資源を引き出すための能力というのは、すでに蓄えられた物資を中心にしたものとは大きく違う、長期戦を戦う能力という意味を持つものだ。
●これは軍事企画だけにかぎらず、中国が将来の戦争を戦う期間とそれに必要とされるものについてアメリカ側と同じ視点を持ち続けるかどうかという点を再考する必要があることを教えているのだ。
●中国への投資家たちにとって、これは中国内への投資がどれほど安全かを考える必要性を思い起こさせるものだ。平時には投資した資産や施設がそれほど脆弱であるとは考えにくいが、この新しい法律によって中国政府が動員に必要となる「特別な手段」を使用できる状況をつくりやすくしているのだ。危機が発生すれば、いくつかの非中国企業の資産や施設が北京政府に徴収される可能性は出てくるのだ。
●その他にも、この新法の制定は中国政府の統治の仕方について新たな疑問をなげかけるものだ。これはたしかに「法による支配」の進化であるのだが「法の支配」ではない。もちろん毛沢東のような第一世代の人格によるリーダーシップの頃とは違って、今のほうが予測がつきやすいが、それでも世界最大級の経済と政治に求められる透明性からはほど遠いのだ。
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北京政府の必死さがよくわかります。
by masa_the_man
| 2010-04-02 00:56
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