戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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トルコとEUの微妙な関係

今日のイギリス南部は朝から荒れ模様の天気でして、数日前に上の湖水地方で大洪水があった時のように激しい雨が降るかと思えば、午後から西風が激しく吹いております。

さて、今日は火曜日だったので毎週恒例のランチ・ミーティングでした。

今回の発表者はギリシャ人の若い男でして、彼はまだ論文のテーマを決めていないのですが、とりあえず「アメリカ/ギリシャ/トルコ」の三国関係をテーマにしようと考えている関係から、今日はトルコの戦略文化について話すことにしたみたいです。

ところが彼は「戦略文化」についてはほとんど語らずに、トルコのEU参加のことについて延々と語っており、ここから見えてくるトルコ(とギリシャ)の国家戦略の狙いを述べるという作戦に出ました。

実は面白いことに同じコースメートにトルコ人がおりまして、この彼もかなり興味津々に発表者の彼の話を聞いておりました。

彼ら二人は非常に仲がよいのですが、歴史に詳しいかたならお分かりの通り、なにせトルコとギリシャというのは過去に何度も戦争したほど仲がわるく、最近でもキプロス島の帰属をめぐって領土紛争を繰り広げております。

とりあえずギリシャ人の彼の発表はあたりさわりのないものだったのですが、面白かったのはトルコ人側の反応。

彼はギリシャ人の彼が言った「トルコは瀕死の病人だ」という指摘を「それはオスマン・トルコ時代のことですが・・・」と軽くクギを刺したあとに、トルコ側からの視点を披露。

まず最近EUの大統領に選ばれたベルギーの首相が「EUはキリスト教国の連合だ」と発言したことを指摘し、結局は宗教(トルコ側のイスラム教)が重要な要因になっていると主張します。

また、トルコのEU参加に関しては法律面でフランスがかなり嫌がらせ(?)的な行為をしていることや、歴史的な経緯(ハプスブルグ時代にウィーンを何度も攻められたことがある)もあってか、オーストリアがかなりがんばって反対していることなどを挙げておりました。

サイードの「オリエンタリズム」を読んだことのある人ならおわかりかと思いますが、この彼が指摘していた面白いことは、「歴史的にヨーロッパ人の間で“ヨーロッパ”というアイデンティティーが成立するプロセスで、一番身近だった“非ヨーロッパ”であったトルコが果たした役割が大きい」ということでした。

つまりEUの根本的なところでは、「オレはトルコ人じゃない→ヨーロッパ人だ」という確認でアイデンティティーをつくってきた部分があったと言いたいわけですね(まあアラブなんかも果たした役割は大きいのですが)。

ところがEU拡大というのはトルコを入れるということになった段階で、彼ら自身に「非ヨーロッパ人であるトルコを受け入れてもあなたはヨーロッパ人なのですか?」というアイデンティティーの矛盾を引き起こすような深い質問を突きつけることになるために、ヨーロッパ人にとっては感情的にけっこう厳しい、というわけです。

このトルコ人の彼もこのヨーロッパ側の感情/宗教面でのEU参加のむずかしさを実感しているようでありまして、

「このままプロセスが長引けば、トルコ側もヨーロッパ側に対する信頼を失って保守化し、じゃあ参加しなくていいよということになる。だから結局トルコはEUに入らない」

と断言しておりました。

おそらくフランス側もじらすことによって、トルコが自発的に「入らない」と言い出すことを狙っていると彼は見ているようですが。

ちなみにトルコはNATOに参加しておりますから、軍事面ではシーパワー、しかし経済的にはややランドパワー寄りという、なんとも両生類的な微妙な位置にあるリムランドパワーとして生きて行くことになるような感じですね。
b0015356_1092251.jpg

Commented by ハスミ at 2009-11-25 12:10 x
お疲れ様です。
先月パックツアーですがイギリスに行っておりました。ロンドンで先生にお会いできるかと思っておりましたが徒労に終わってしまいましたw

オックスフォード大学にも行きましたが、中国人の多いこと多いこと。正直、彼ら留学生の知見やコネがそのまま中華帝国にフィードバックされてかの国の発展に使われるのかと思うとなんだかげんなりしてしまいました。
日本人は観光客ばかり(というか僕もその一人ですがw)で、やっぱり中韓に比較するとバイタリティというかそのあたりが違うような気がします。なんとかしなきゃなりませんね。

今日のエントリーも興味深いですね。欧州というのはまずキリスト教国であること(つまりかつて十字軍に参加した者達の末裔に限られるということw)と勝手に理解してました。
欧州連合がどこまで拡大するのかというのは昔から議論されていましたが、そろそろ打ち止めなのかもしれませんね。ひょっとしてウラル以西くらいまでは入るかと思っていましたが。
Commented by nanashi at 2009-11-25 12:11 x
クルド人=韓国人
アルメニア大虐殺=南京大虐殺
ボスポラス海峡=東シナ海(沖縄)
オスマン帝国の解体=大日本帝国の解体
将来の天皇つぶし=マルクス主義者の手による間接作業
Commented by えんき at 2009-11-25 22:02 x
5~6年前位の報道では、一般国民にEU加盟への情熱が感じられましたが、今は大分冷めてしまっている様です。エルドアン首相は表向きにはEU加盟を諦めていないようなことを言っていますが、公正発展党自体イスラム寄りでオスマントルコ復活を目指している様な所が有るので、本音ではどうなのか?実はトルコ側でも、加盟賛成論と反対論で二分されているのではないでしょうか。
Commented by sdi at 2009-11-25 23:23 x
>、「歴史的にヨーロッパ人の間で“ヨーロッパ”というアイデンティティーが成立するプロセスで、一番身近だった“非ヨーロッパ”であったトルコが果たした役割が大きい」
この文章を読んだとき、トルコと似たような立場に立たせられてる国(もしくは文化圏)があるな、と思いました。ロシアです。
ロシアは今、欧州の一角のようなイメージをもたれていますがロシアという国の成立を考えるとむしろ、ボルガ川西岸よりもステップ地帯の遊牧民ぞ、すばり言えばモンゴル系の影響のほうが大きかったでしょう。ロシア帝国の高祖ともいえるイヴァン雷帝はキプチャク汗国系の遊牧民の軍事力を利用して建国しました。欧州から見れば、ロシアは一線引いて接する存在なのではないでしょうか。ロシア自身、EUやNATOと敵対する意思は示していませんが同化する意思も全くみせていません。
そのロシアとトルコがイラク戦争以降、なんだが友好関係にあるように見受けられるのもEUの自分たちなに対する冷たい感情を感じ取っているからかもしれません。


Commented by Oink at 2009-11-26 00:43 x
サラディンや13世紀のモンゴル帝国の影響力には
触れられていませんか?

どうでもいいですけど、今日行われた、政府の科学技術予算のしわけ反対の集会がとても面白かったそうです。

最近読んだ本からですが汗、ルソーが「戦争および戦争状態論」という論文でこう言っているそうです。
「戦争は国家と国家の関係において、主権や社会契約に対する攻撃、つまり、敵対する国家の憲法に対する攻撃、というかたちをとる。」

地政学的には、山縣有朋に影響を与えた?ローレンツ・フォン・シュタインとのやり取り、具体的にはシベリア鉄道と朝鮮半島とロシア海軍の話が印象深かったですね。
Commented by masa_the_man at 2009-11-26 06:27
ハスミさんへ

>パックツアーですがイギリスに

私もイギリスのパックツアーで旅行してみたいんです。というのも、ロンドンと大学のある町との間しかほとんど行き来していないので(苦笑

>中国人の多いこと多いこと。正直、彼ら留学生の知見やコネがそのまま中華帝国にフィードバック

私の大学でもメチャメチャ多いです。

>比較するとバイタリティというかそのあたりが違うような気がします

そうなんですよね。こういうところでも負けているようが気が・・・ここらへんのやる気が欲しいです。

>そろそろ打ち止めなのかもしれませんね。ひょっとしてウラル以西くらいまでは入るかと思っていましたが。

一時はそういう話もあったということをEU本部で聞いたことがあるんですが・・・ボスポラスまで到達しなかったようで。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-11-26 06:32
nanashiさんへ

>クルド人=韓国人

これは「朝鮮族」といったほうが良いのでは?

>オスマン帝国の解体=大日本帝国の解体

ということは日本は「アジアの病人」ですか(苦笑

>将来の天皇つぶし=マルクス主義者の手による間接作業

「マルクス主義者」という言葉は古い感じが。私は最近マルクス主義者たちのことを「批判好きな、感謝のできない人間」と定義しております(笑)コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-11-26 06:33
えんき さんへ

>実はトルコ側でも、加盟賛成論と反対論で二分されているのではないでしょうか。

これについて他のトルコ系(キプロスの女子)に聞いてみましたら、ブルガリアが入れたことで相当頭に来ているみたいです。曰く、不公平だ、ということですね。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-11-26 06:36
Oink さんへ

>サラディンや13世紀のモンゴル帝国の影響力には触れられていませんか?

触れてませんでした。

>反対の集会がとても面白かったそうです。

どのように?この辺もちょっと気になりますねぇ。

>敵対する国家の憲法に対する攻撃

憲法ですか。これはアイデンティティーであり世界観が成文化されたものと言えますから、当たっていないことはないですね。

>シベリア鉄道と朝鮮半島とロシア海軍の話が印象深かったですね。

彼はどちらかというとランドパワー派ですよね。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-11-26 06:39
sdi さんへ

>ロシアです。

これはとくにNATOの場合に当てはまりますね。

>すばり言えばモンゴル系の影響のほうが大きかった

つまり遊牧系アジアということで。

>欧州から見れば、ロシアは一線引いて接する存在

思想が合いませんからね。ただしとりあえずキリスト教はシェアできているので微妙な立場に(苦笑

>ロシアとトルコがイラク戦争以降、なんだが友好関係にある

最近のトルコは完全に東向きですよね。コメントありがとうございました
Commented by 御神楽 at 2009-11-26 18:57 x
 しかし、トルコって、独立時はもっと無茶苦茶に分割される予定だったのが、アナトリア半島の殆どを獲得できて良かったですね。
 特に、イスタンブール周辺を自国に組み入れる事が出来て。
 あの辺りが無いと、海が南北に分断されてしまいますし、ギリシャ辺りはトルコ艦の移動を決して認めなかったでしょうから…
Commented by sdi at 2009-11-26 22:56 x
御神楽殿
希土戦争でケマル・パシャ率いるトルコ国民軍が勝利しなければ今のトルコはなかったでしょうね。
Commented by Oink at 2009-11-26 23:38 x
>どのように?この辺もちょっと気になりますねぇ。
ノーベル賞受賞者らが仕分け批判で集結 「世界一目指さないと2位にもなれない」
ttp://www.itmedia.co.jp/news/articles/0911/25/news104.html
 6人は利根川氏と江崎玲於奈氏、小林誠氏、野依良治氏、フィールズ賞受賞者の森重文氏、発起人で東大名誉教授の石井紫郎氏(法制史)。益川敏英氏も賛同している。

 事業仕分けでは、次世代スーパーコンピュータ開発や大型放射光施設「SPring-8」、研究への補助金、国立大学法人の運営費など、科学技術・学術関連予算の多くが削減・凍結と判定された。

>彼はどちらかというとランドパワー派ですよね。
シベリア鉄道は、ロシアが朝鮮を占領するときに決定的に重要な役割を果たす。日本海は、日本にとっては寒い海というイメージだが
ロシアや朝鮮にとっては暖かい海だ。朝鮮東部の元山あたりに海軍の根拠地を作られると、対岸の新潟辺りは本当に近く感じられる。うんぬん。

1935年の中華民国内部で行われた胡適の「日本切腹 中国介錯論」と
汪兆銘のそんな戦争を3年、4年と続けたら中国はソビエト化してしまうという危機感の対立とかの話も。
Commented by Oink at 2009-11-27 00:11 x
中国沿海部を日本に占領されるのを容認するのは
英国に対する間接的な敵対行為では?
これは、1930年代後半から40年代の地図によく似ていますよね。
国名さえ除けば。
ttp://blog-imgs-38.fc2.com/a/n/s/ansan01/0064380_8293089.jpg

オバマ大統領が訪中した際、傘をさして飛行機から降りてきたのが
中国人民にとっては強烈だったらしいのですが、
あっちの要人は自分で傘なんか差さないんですかね?

ttp://ansan01.blog121.fc2.com/blog-entry-342.html

日本国内は、文化大革命だとか紅衛兵だとかヒトラーユーゲントみたいだとか、いろいろ言われていますが、自分としては「動物農場」に見えます。
Commented by 待兼右大臣 at 2009-11-27 02:14 x
このエントリの関係でForeign Policyの「How the West Lost Turkey」
ttp://www.foreignpolicy.com/articles/2009/11/25/how_the_west_lost_turkey

も参考になるかと思います。
サッカーの世界では、欧州入りは実現しましたが、政治の世界では、ローマ帝国とイスラム帝国との和解は難しそうです
Commented by masa_the_man at 2009-11-27 10:15
御神楽 さんへ

>イスタンブール周辺を自国に組み入れる事が出来て。

たしかにチョークポイントですよね。

>あの辺りが無いと、海が南北に分断されてしまいますし、ギリシャ辺りはトルコ艦の移動を決して認めなかったでしょうから…

考えてみれが、トルコの周辺は問題ある国ばっかりですよね。地図をあらためて見ますと、本当に彼らの苦労が実感できるような。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-11-27 10:16
sdi さんへ

>希土戦争でケマル・パシャ率いるトルコ国民軍が勝利しなければ今のトルコはなかった

国家の成立には「英雄」と「敵」が必要ですね。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-11-27 10:19
Oink さんへ

>研究への補助金、国立大学法人の運営費など、科学技術・学術関連予算の多くが削減・凍結と判定された。

結局はお金の問題なんですよね(笑

>ロシアや朝鮮にとっては暖かい海だ。朝鮮東部の元山あたりに海軍の根拠地を作られると、対岸の新潟辺りは本当に近く感じられる。うんぬん。

わかりますねぇ。彼らにとっては南の海ですからね。

>中国はソビエト化してしまうという危機感の対立とかの話も。

「危機感」って、重要な役割を果たしますよね。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-11-27 10:21
待兼さんへ

>サッカーの世界では、欧州入りは実現しましたが、政治の世界では、ローマ帝国とイスラム帝国との和解は難しそうです

政治がからんでくるとどうしても感情論=宗教論みたいなところが入ってきますからねぇ。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-11-27 10:26
Oinkさんへ

>英国に対する間接的な敵対行為では?

あるでしょうなぁ

>これは、1930年代後半から40年代の地図によく似ていますよね。国名さえ除けば。

コロニーですか(苦笑)リムランドがシーパワーを得たという感じですね。オランダがイギリスを占領したような雰囲気が。

>オバマ大統領が訪中した際、傘をさして飛行機から降りてきたのが中国人民にとっては強烈だった

私もあのシーンは「オヤッ」と思いました。誰も傘さしてやらなかったんですかねぇ?

>あっちの要人は自分で傘なんか差さないんですかね?

そういえばあまりみたことありませんなぁ。

>自分としては「動物農場」に見えます。

傑作ですね。豚の名前が「ナポレオン」でしたっけ。コメントありがとうございました
日本国内は、文化大革命だとか紅衛兵だとかヒトラーユーゲントみたいだとか、いろいろ言われていますが、自分としては「動物農場」に見えます。
Commented by MUTI at 2009-12-01 14:22 x
> 敵対する国家の憲法に対する攻撃
ルソーの原文どころかフランス語もわからないので予想ですが、
これは「憲法」ではなく、
「国体」と訳した方が適切な箇所のではないでしょうか?
Commented by masa_the_man at 2009-12-02 07:45
MUTIさんへ

>「国体」と訳した方が適切な箇所のではないでしょうか?

この文脈だと憲法=国体ということも言えそうな雰囲気なのでたしかに微妙ですな。コメントありがとうございました
by masa_the_man | 2009-11-25 10:09 | 日記 | Comments(22)