ハンソンの大統領への進言 |
さて、アフガニスタンの戦略についての議論がつづいておりますが、今日はヴィクター・ディヴィス・ハンソンの「イケイケ賛成論」のほうを。
この人はギリシャの古典にけっこう詳しい人でして、戦略文化の分野でもとりあえず必読文献として挙げられている本を何冊か書いておりますが、ちょっと分析と議論が単純なんですよね。
そういう意味で私はあまり評価はしていないのですが、アメリカの保守派の間(とくにNRO誌周辺)では一定の人気がありますので、彼の意見はとりあえず注目せざるを得ないかと。
それではいつものようにポイントフォームでいきます。
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Martial mythologies
by Victor Davis Hanson
●オバマ大統領はアフガニスタンに増派するかどうかをそろそろ決定する頃だが、ここで忘れてはならないのは、世間で言われている悲観論は半分しか正しくない、ということだ。
●悲観論によくあるのは「アフガニスタンは帝国の墓場である」というものであり、アレクサンダー大王から19世紀の大英帝国、そして30年前のソ連の例が引き合いに出される。
●ところがアレクサンダー大王は今日のアフガニスタンの地域のほとんどを征服したのであり、彼が死んだあとにセレウコス朝シリアの一部になったのだ。
●この何百年後かに少数のイギリス軍とそれに率いられた民間人たちがアフガニスタンに入ったときに奇襲を受けて犠牲者を出した(第一次アフガン戦争)が、その後の一八七八年から一九一九年にかけて二回行われたアフガン戦争では、イギリスは負けていないのだ。
●ソ連は1989年に負けているが、この理由はアラブやアメリカ、パキスタンや中国などがアフガニスタンのムジャヒディーンたちに対して莫大な援助を行ったからであり、優秀な対空ミサイルや対戦車砲も供給されたことを忘れてはならない。
●アフガニスタンの暴徒たちはたしかに勇敢な戦士であり、占領を困難にさせる要素だが、それでも外部からの援助なしで外国からの侵入者を打ち負かしたのはかなり昔の話なのだ。
●その他にもアフガニスタンについての根拠のない「神話」は多い。
●たとえば「アフガニスタンは統治できない」というものがあるが、これも嘘だ。なぜなら1919年にアフガニスタンは近代国家として成立しており、1973年まで比較的安定した、外国人にも寛容な立憲君主国として存在している。
●また、2001年から2007年まではカルザイ政権は比較的安定していて、2001年以降の6年間で毎年死んだ米兵の数は100人以下だった。
●実際のところ、アフガニスタンでの米兵の犠牲者が増えたのはイラクが安定してからであり、これはイラクのアルアンバーにいたイスラム過激派がアフガニスタンに活動の場を移したからだ。
●それにアフガニスタンが新しいベトナムかというとそれも怪しい。たとえば2007年から2009年までアフガニスタンにおける米兵の犠牲者は553人だが、これはベトナムで戦死した全米兵の数(58、159人)のたった1パーセント以下だからだ。
●ここで驚くのは、米軍が敵に対して与えるダメージの規模であり、犠牲者を最小限におさえつつアフガン政府を守れているという事実だ。
●われわれの軍隊はCOINとCTを遂行することにかけては世界で最も経験豊富で有能であり、ペトレイアス将軍とその部下のマクリスタル将軍という存在がある。
●過去の武力介入と違い、国連の許可を得たわれわれの狙いは、米軍への攻撃をかわしつつ「操り人形国家」をつくることではなく、タリバンやアルカイダから身を守ることができる自律的な国家を守ることにある。
●イラクが比較的安定してきたいま、イスラム過激派たちは二回目の敗北を防ぐことに必死であり、パキスタンもテロリストの掃討に本格的に乗り出している。
●それにブッシュの不人気だったイラクの「サージ」の決断とは対照的に、オバマ大統領は国内的にも猛烈な反対にあっているわけではない。
●アメリカ国民の多くは戦争継続に反対なのではなく、判断を決めかねているだけなのだ。
●共和党もオバマ政権の国家の安全保障についての取り組みには反対しない。保守派側にも(映画監督でリベラルの)マイケル・ムーアや、(イラクで戦死した息子のために戦争反対運動をはじめた)シンディ・シーハンのような存在はないのだ。
●もっとも反戦的だったリベラルも、オバマが大統領に選出されてからおとなしくなっている。ヨーロッパ側のNATOの司令官たちもアメリカに勝利へと導いてもらいたいと思っているのだ。
●ではオバマはなぜ国を守るために増派することを躊躇しているのだろうか?
●彼は優柔不断で迷っているのだ。
●彼が大統領候補のときはアフガニスタンは「必要な戦争」でイラクは「選択的な戦争」だったのだが、彼はアフガニスタンは激化しないと思っていた。
●しかし反対のことが起こった。つまり「サージ」が効いて、アフガニスタンは激化したのだが、これは選挙の公約と矛盾することになってきたのだ。
●オバマ大統領はタリバンを打倒し「必要な戦争」を勝利することを公言していたのだが、ノーベル平和賞をもらってしまい、自分の目の前でイスラム過激派との泥沼的な戦争は繰り広げたくないところだ。
●われわれには経験豊富な兵士と将軍たちがおり、正義もあり、西洋諸国もまとまっている。これをいいかえれば、われわれにはタリバンを打ち負かすだけのすべてのものがそろっているのだ。
●ただ一つ足りないのは、大統領候補だった時のように勝利に向けて戦う、自信に満ちあふれた最高司令官である。
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オバマ大統領に対して決断をせまるような内容です。
たしかにこの著者のディヴィス・ハンソンは(アメリカの保守派に対して)説得力のある議論を行っておりますが、たとえば問題なのは、アメリカの社会がベトナムの頃のように多数の犠牲者が出ることを容認できないほど「リベラル化」してしまった、ということを認識していないところでしょうか。
その一つの解決策として出てきたのが無人機(UAVs)などの大活用ということになるのかも知れませんが、「倫理戦」に比重がのってきている現代としては、これを使うことによる倫理的な問題も出てきます。
ピーター・シンガーが紹介していた数年前の「アメリカは俺たちをリモコンで虫けらのように殺している!」というパキスタンの反米ソングの流行なんかは、この問題のむずかしさを如実に表しております。
(ピーター・シンガーのプレゼン)
(キモいビッグ・ドッグ)