戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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C教授の講義

今日のイギリス南部は朝から曇っておりまして、しかも強烈に寒くなりました。夕方に青空は見えたのですが、太陽は見えない日曜日でした。

さて、2日前の金曜日にロンドン大学のC教授の講義をモグリで受けてきたことはすでにお話した通りですが、今日はその時の講義の内容を。

相変わらず教授の講義は刺激的な内容だったのですが、ここでは講義の内容をすべて記しておくスペースはないので、印象に残ったことだけをいつものようにポイントフォームで。

=====

●非対称戦(asymmetric warfare)というのは国家レベルでは失敗するが、非国家レベルでは大成功を収めている。

●イスラムの暴動側は、戦争をあえて理論化しない。なぜなら神(アラー)は理論化を必要としていないからだ。

●トラボラの洞窟では読みかけのクラウゼヴィッツの『戦争論』の英語版が見つかった。

●イブン・ハルドゥーンの思想が、イスラムの暴動側の考えを教えてくれる。

●歴史的に一番勇敢な「戦士」は、町に住んでいる兵士たちの中ではなく、遊牧民の中にいる。

●町というのは人間を腐敗させてしまう。

●近代というのは、人間を「法」のために死なせるものだ。

●ペリクレスは「文明社会」というものは法律であると説いた。

●ところが軍閥や遊牧民たちには「法」は適用されない。彼らのことをホッブスは「腸の中の回虫のようなものだ」と呼んでいる。

●「テロ行為」というのは勝利のために絶対的に必要である。

●遊牧民が最後に戦闘で活躍したのは、(アラビアの)ローレンスがアラブのベドウィンたちを使ってゲリラ戦を行った第一次世界大戦。

●遊牧民というのは「法」のために戦うわけではないからやっかいな存在だ。国もなく、「重心」もないのでなかなか倒せない。

●中国もこれに手を焼いたために「万里の長城」を築いているが、彼らをコントロールできなかった。

●現在のアフガニスタンでは、地元の親たちが二人の息子をそれぞれアフガニスタンの国軍とタリバンの両方に就職させて「ヘッジング」しているのだ。

●「民族」(ethnicity)という概念は西洋の大学で70年代に「発明」されたものだ。

●アフガニスタンの地元の人間に聞くと、「民族」や「宗教」で自己認識をしているのではなく、ただ単に「おれはここに長年住んでいる地元(local)の人間だ」という者ばかりだ。

●アフガニスタンの人間たちは、親族のために戦っている。

●しかも「戦い」そのものや「血を流すこと」が、彼らの中では「儀式」(ritual)になっている。

●トルストイが最後に書いた小説はチェチェンの反逆者たちについてのものだった。

●ミシェル・フーコーは近代社会において「血」(blood)というものが忌み嫌われるようになったと指摘している。その代わりに50〜60年代に出てきた概念は「ボディー」(body)である。

●たとえばベトナム戦争では何人の敵兵を殺したかということよりも、「ボディーカウント」(body count)ということが言われ始めた。

●第二次世界大戦以降はアメリカの軍隊のマニュアルで段々と「殺す」(killing)という言葉が消滅した。

●また、敵兵を大量に殺した英雄というのもいなくなっており、湾岸戦争の頃になるとイラク兵を大量に殺した「戦士」の存在は逆に隠されるようになってしまった。

●クラウゼヴィッツのいう「戦争の文法」(グラマー)という解釈はきわめて重要だ。現在われわれが直面している戦争について考える時に大切なのは、「戦争の文化面での文法」(culture grammer of war)である。

●つまり現代の戦争では何が起こっているのかというと、「近代」vs「前近代」という文化的なミスマッチである。

●戦争を「道具」として戦う近代社会の兵士と、戦争を自分たちの存在の証明のために戦う兵士とでは大きな差が出てくる。

●たとえば戦争が「自分と相手との対話」であったギリシャの人間が、第一次世界大戦の無人地帯の惨状を見たら驚いたはずだ。

●戦争の仕方は、それを戦っている軍隊の背後にある「社会」というものを豊富に教えてくれる。


====

ポイントだけを書いたのでなんだかまとまりがなくなってしまいましたが、とりあえず現在の戦略的な状況についてC教授がどういう解釈をしているのかだけおわかりいただければよろしいかと。

彼の講義や本の内容の特徴を一言でいえば、「戦争を哲学的に解釈して考える」ということでしょうか。

戦略を正面から考えて「いかに勝つか」ということだけを考えているバリバリの「戦略家」である私の先生とはまた違って、C教授には別な意味での知的刺激を受けることがとても多いです。
Commented by ks at 2009-11-09 13:28 x
●イブン・ハルドゥーンの思想が、イスラムの暴動側の考えを教えてくれる。
●近代というのは、人間を「法」のために死なせるものだ。
●ペリクレスは「文明社会」というものは法律であると説いた。
●ところが軍閥や遊牧民たちには「法」は適用されない。
●遊牧民というのは「法」のために戦うわけではないからやっかいな存在だ。
●アフガニスタンの人間たちは、親族のために戦っている。

C教授はアサビーヤのことを言ってるんですね?
Commented by 中山 at 2009-11-09 16:22 x
ここでの遊牧民というのは前近代・国民国家以前の社会の象徴なんですよね?というか、そう読まないとトンデモとしか思えない部分が多すぎて・・・。何というか、あまりにも脳天気な偏見ぶりに頭がクラクラしてしまいます。
Commented by Rogue Monk at 2009-11-09 21:03 x
>アフガニスタンの人間たちは、親族のために戦っている。
以前にForeign Affairsに掲載されたコラムでも同様のことを言って
ましたが、日本人としては

「今のアフガニスタンは、日本の『戦国時代』と同じようなもんだ」

みたいな気がしますね。

となると事態解決の教科書は、
半村良の「戦国自衛隊」
だw
Commented by 大阪人K at 2009-11-09 22:19 x
読んで、思ったことを

>●歴史的に一番勇敢な「戦士」は、・・・
>●町というのは人間を腐敗させてしまう。
もし、これが正しいとすれば、勇敢なゲリラを都会で金銭やテクノロジーの力で堕落させれば戦士でなくなり、戦闘力がなくなる可能性があることを示唆しているとも言えます。
であれば、彼らを堕落させる累積戦略を模索した方が直接的な軍事戦略よりも効果あるのかもしれません。


C教授のお考えが正しければ、ですけど・・・
Commented by masa_the_man at 2009-11-10 03:13
ks さんへ

>アサビーヤのことを言ってるんですね?

おそらくそうだと思われます。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-11-10 03:17
中山さんへ

>ここでの遊牧民というのは前近代・国民国家以前の社会の象徴なんですよね?

そうです。具体的にはnomadという言葉を使用してました。

>何というか、あまりにも脳天気な偏見ぶりに頭がクラクラしてしまいます。

よろしければ具体的に「能天気な偏見ぶり」がわかる点をご指摘いただけると私やブログをご覧のみなさんの勉強にもなりますのでありがたいです。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-11-10 03:19
Rogue Monkさんへ

>Foreign Affairsに掲載されたコラムでも同様のこと

おおっ、これは知りませんでした。そういえば最近FA誌はあまり読んでませんな・・・。

>「今のアフガニスタンは、日本の『戦国時代』と同じようなもんだ」

なるほど。

>半村良の「戦国自衛隊」

わははは(笑)これはけっこう本気で笑いました。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-11-10 03:21
大阪人K さんへ

>勇敢なゲリラを都会で金銭やテクノロジーの力で堕落させれば戦士でなくなり、戦闘力がなくなる可能性があることを示唆

バーネットなんかは基本的にこの考え方ですよね。

>彼らを堕落させる累積戦略を模索した方が直接的な軍事戦略よりも効果あるのかもしれません。

しかし西側の人間というのは意識して累積戦略を使うことが下手な部分がありますし(苦笑

>C教授のお考えが正しければ、ですけど・・・

うーん、これが西側の戦略思想の限界という気もしますね。コメントありがとうございました
Commented by nanashi at 2009-11-10 12:25 x
最終的には、世界がアメリカを駆除するのか、アメリカが世界を排除するのか、の戦いになるんでしょうね。
普遍性と個別性の戦いというか。
豊かな辺境の米国が、時間を抹殺し、人間を数字にして管理する。
ソ連も米国も同じですよ。
Commented by sdi at 2009-11-11 02:33 x
●アフガニスタンの人間たちは、親族のために戦っている。
●しかも「戦い」そのものや「血を流すこと」が、彼らの中では「儀式」(ritual)になっている。

C教授の理解が正しいかと゛うかは置くとして、このあたりの評価は「自力救済」「血縁主義」の中世社会が思い浮かびました。ただ、欧州や日本、中国大陸の中世社会と違う点を上げるとすると求心力の弱さでしょうか。
その社会集団にまがりなりにも心棒みたいなものが存在すれば、方向性や程度の差こそあれ、それを軸にした一定の法による秩序というものが生まれます。そして、その秩序のもとで一度それなりに社会集団が組織化されれば、以後その秩序が崩壊しても秩序の再建を目指す方向に進みます。中央権力だったり地域権力だったりしますが。今、アフガンは地域権力としてまとまろうとしている過程なのかもしれません。私は「ポスト近代」VS「プレ近世」という対決かな、と思います。
Commented by masa_the_man at 2009-11-11 09:50
nanashiさんへ

>最終的には、世界がアメリカを駆除するのか、アメリカが世界を排除するのか、の戦いになるんでしょうね。

私はそうは思いませんが・・・。世界からアメリカは排除できないでしょう。

>普遍性と個別性の戦いというか。

どちらかに偏っても世界にとっては不幸だと思いますよ。

>豊かな辺境の米国が、時間を抹殺し、人間を数字にして管理する。
ソ連も米国も同じですよ。

これはnanashiさん節ですなぁ。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-11-11 09:53
sdiさんへ

>欧州や日本、中国大陸の中世社会と違う点を上げるとすると求心力の弱さ

かもしれませんねえ。

>今、アフガンは地域権力としてまとまろうとしている過程なのかもしれません。

どうなんですかねぇ。私としてはなんだかまとまる気が全然しないのですが(苦笑)ちょっと悲観的でしょうか。

>私は「ポスト近代」VS「プレ近世」という対決かな、と思います。

なるほど、ここで「ポスト」をもってきましたか。たしかにこっちのほうがいいかも知れませんね。コメントありがとうございました
Commented by 中山 at 2009-11-11 15:01 x
●遊牧民というのは「法」のために戦うわけではないからやっかいな存在だ。国もなく、「重心」もないのでなかなか倒せない。

この時点でトンデモではありませんか。遊牧国家・遊牧民が支配者層を構成する国家が歴史上どれほどたくさん存在したことか。もちろん、アテネもローマもフランク王国も国家ではないとC教授が仰るのなら話は別ですが、その場合でも近代国民国家という特殊な形態をさらっと国家一般に言い替えられる発想は、サイード以前どころか、19世紀人かと思ってしまいます。中国のケースも、遊牧民が中国(=定住農耕社会)をコントロールする事態をまったく想定していない。

近代が人間を「法」のために“死なせる”としても、近代人一般は「法」のために“死ぬ”んですか?遊牧民は“死なない”みたいですけど。この主語というか主体の入れ替わりも非常に気になるのです。

翻訳の要約というものに対して揚げ足取りと取られるかも知れませんが、わかりやすいところでは以上のようなものです。
Commented by nanashi at 2009-11-11 15:37 x
左翼さんが頑張っているみたいですが、近代がうんぬんというよりも、沢山の人間を養うために効率を上げる・予測可能性を上げるということで、ルールが人を縛るようになったわけだと思いますよ。
左翼さんは、脱近代ができると思っているようですね。頑張ってください。
まあ、左翼さんは大量殺人が虐殺が好きだから、思いがけず、破滅的に人口を減らすということで、ルールに縛られない社会を生み出すかもしれませんね。資源に比べて人口が多いということは大きな理由ですから。
Commented by masa_the_man at 2009-11-12 07:01
中山さんへ

>遊牧国家・遊牧民が支配者層を構成する国家が歴史上どれほどたくさん存在した

すいません、これは私のいいかげんな訳のせいです。これは現在のアフガニスタンの暴動者たちという意味での「遊牧民」なんです。

>近代国民国家という特殊な形態をさらっと国家一般に言い替えられる発想は、サイード以前どころか、19世紀人かと思ってしまいます

でもC教授には19世紀人的なところはあるかも知れませんなぁ。鋭いご指摘だとおもいます(笑

>近代人一般は「法」のために“死ぬ”んですか?

というか、法が国家の中で一番高い概念になる、ということを言いたいのかもしれません。

>翻訳の要約というものに対して揚げ足取りと取られるかも知れませんが、わかりやすいところでは以上のようなものです。

取られました(苦笑)でもわかりやすいご指摘だと思います。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-11-12 07:07
nanashiさんへ

>ルールが人を縛るようになったわけだと思いますよ。

左翼かどうかはわかりませんが、とりあえずこの指摘は正しいかと。

>左翼さんは大量殺人が虐殺が好きだから

これはどうかわかりませんが、とりあえず「権威」とか「秩序」に対する嫌悪感はスゴいですね。個人的に私は左翼というのは「感謝できない人たち」と考えておりますが。コメントありがとうございました
Commented by x at 2009-11-17 00:00 x
この場合の「法」は秩序Orderの意味というか法秩序のことでは。
例外状態じゃない状態。
Commented by masa_the_man at 2009-11-17 07:22
x さんへ

>この場合の「法」は秩序Orderの意味というか法秩序のことでは。例外状態じゃない状態。

ああなるほど。鋭い指摘だと思われます。C教授はそれをlawという概念にまとめていたのかも知れません。アメリカではAmerican Way of Lifeという言葉にも集約できそうな。コメントありがとうございました
by masa_the_man | 2009-11-09 09:13 | 日記 | Comments(18)