大佐の体験:その2
2009年 10月 31日
ここ数日で私の住んでいるところの周辺の街路樹が一斉に落葉をはじめまして、歩道は足の踏み場もないくらい黄色い落ち葉で埋め尽くされております。
さて、大佐の話のつづきを。
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●「火星からきた男」と「金星からきた女」のように、とにかく完全に相手の意図はわからない。
●とにかくこのようにして達成するのが不可能なものが存在するのだが、これをなるべく可能にしようとして我々はさらに階層を作ったり人を投入しようとするのだ。
●たとえばアライド・フォース作戦が終了した78日後には、1400人の飛行機乗りが空軍が行う「エア・タスキング・オーダー」にたずさわっていた。
●ところが私がターゲットを選ぶ作業にあたっていた「ストラテジー・セル」(strategy cell)にはたった十二人しかおらず、ここで上の二つの階層レベル(将軍/大統領)にアドバイスなどを与えていた。
●しかし問題なのは、その上のレベルの人間はわれわれエアマンが受けてきたような訓練を全く受けていないわけで(クラーク将軍は陸軍出身)、作戦に対する理解のレベルも低い。
●それでも彼らが政治を動かすわけなので、彼らに従うしかない。
●アライド・フォース作戦でひとつテクノロジー面で新しいことが導入された。ビデオ会議というやつだ。
●作戦の間、われわれは毎日朝九時に政権のトップレベルと会議を行ったわけだが、それを行った部屋は長方形の長いテーブルがあって、その向こう側にモニターがあり、アメリカ側にも長い長方形のテーブルがあって、そこに大統領や国防長官、それに安全保障アドバイザーなどが映っていた。
●ここでいつも問題が発生した。ウェスリー・クラーク将軍のそばにはすべての部隊情報などを表示したモニターがところ狭しと並べられており、会議の際にこれを見ながら下の細かい動きにまで一々注文をつけてくるのだ。
●しかし彼が「このヘリをここに移動しろ」と指示しても、それを行うには我々が計画を無理矢理変えて、それから約1週間くらいの時間がかかるのだ。
●「いや、それはちょっと・・・」と言っても、彼は「やれ、いますぐやれ」と言ってゆずらない。
●つまりこれは新しいテクノロジーによって、将軍が下の細かい部隊の動きまでマイクロ・マネージできるようになった、ということなのだ。
●一番困ったのは、彼が空爆のターゲットを選定している我々のところまできて、明らかに航空作戦については知らないのに、我々に色々と口出しをしてくることだった。
●この作戦当時、NATOには19カ国の空軍が参加していたのだが、参加国の中でも「攻撃目標」について統一した定義はなかった。これは現在でも問題として残っている。
●そして攻撃目標を選ぶ時には「副次的破壊」などが発生する可能性があるために、国際法に詳しい法律家が絡んでくることがある。
●ところがここでまた問題なのは、当たり前だが、法律家が空軍のターゲット策定などについて無知であることだ。
●こうなるとまた「摩擦」が発生してくるのだ。
●これを克服するためにどうすればいいのかというと、このシステムを逆に利用してしまえばいいのだ。
●たとえば私がユニットレベル(戦術レベル)の作戦を練っていて、絶対に攻撃したい目標があったとした場合は、攻撃できるようなアドバイスを自分が作って戦術アドバイスとして上に申請するのだ。
●つまり、自分が受けたい命令を受けられるように、意図的にアドバイスを作るのだ。具体的には「こうしたほうが作戦がスムーズに行きます」と進言するということだ。
●現在のイラクでもアフガニスタンでも実はまったくこれと同じことが起こっていて、部下は上司に受けたい命令が下されるように、色々と工作をしているのだ。
●ここで興味深いことが起こる。どの階層でも、部下が上司に受けたい命令をつくるために必死に働いている、という姿だ。
●これはまさに「官僚的な問題」なのだ。
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ここまで書いて時間切れです。続きはまた明日。


これは、もしかして、某国首相夫妻をネタにしたジョークですか?

>官僚的
これには力いっぱい頷きました(笑)。官僚組織の中にいると、こういった手合いはいくらでもいます。仕事をよく知らないくせにやたらと口を出す。まるで以前仕えた上司です。無能ではないのですが、頭の使い方をよく理解していない方で、彼のおかげでやらずに済む仕事をする羽目になりました。大佐殿には心よりご同情申し上げます。


>これは、もしかして、某国首相夫妻をネタにしたジョークですか?
雌雄のマーク(♂♀)は、それぞれ占星術での火星と金星のシンボルを流用しているからでしょう。火星・金星は神話のマルスとビーナスにそれぞれ関連づけられています。マルスは軍神なので、そこにも掛けているかもしれないですね。

自分の職場の状況とあまりにも酷似していたので、思わず書き込んでしまいました。
世界最強の米軍といえども我が職場と同じなのですね~。。。。

陸海(20世紀中葉以降は空も)諜報は独立させた方がいいけれど、統合した運用も必要というジレンマには、歴史上有数のマトモっぽいバランスでいるように見える米軍でもこういうことはあるんですね。この手の分業と統合の問題へのうまい解答は、人類がまだ発見出来ていないのかそもそも存在しないのか興味が尽きませんね。

銃口を突きつけられれば嫌でも分かるんですけどね。
義務や無意識にやらかしたことが、相手にどのような影響を与えたかは
所詮、後付でしか分からないと思うんですけど。
>これはまさに「官僚的な問題」なのだ。
最終的な責任はどこが負うんですかね?
鳩山総理の日米同盟は包括的なレビュー(再検討)が必要だ発言とか、蘭外相への「鯨肉は嫌いだ」発言とか、何を考えているんでしょうか?
あんまり、影響力とか考えていないんじゃ。
>某国首相夫妻をネタにしたジョークですか?
いや、違います(笑)ジョン・グレイの有名な本の題名ですね。ロバート・ケーガンもこれをネタにしてました。コメントありがとうございました
>結局相手がある以上、いくらテクノロジーが発達したところで、戦場の霧を薄くすることは出来ても、完全に除去することは不可能
その通りです。
>こういった手合いはいくらでもいます。
いらっしゃいますか(笑
>仕事をよく知らないくせにやたらと口を出す。まるで以前仕えた上司です。無能ではないのですが、頭の使い方をよく理解していない方
ああ、いそうな感じですねぇ。
>やらずに済む仕事をする羽目に
小さな親切、大きなお世話、という感じで(苦笑)
>テクノロジーが発達することで、指揮統制面での摩擦が増えるというのはすごい皮肉
そうなんですよ。テクノロジーもある意味でツールなわけで、これも使い方次第だと彼は言いたいみたいでしたが。
>最前線の陣形にまで最高司令部が口を挟んでくるようでは、訓令統制はもはや死語になりつつあるのでしょうか。
どうなんでしょう。少なくとも第二次大戦の時のチャーチルなんかはかなり下のレベルまで口をはさんでますよね。コメントありがとうございました
>ある規模以上の組織には必然的に内包する問題ですね。軍の話でも企業活動に参考になりそうです。
そうかも知れません。あらゆる組織というのは官僚的な面を含んでおりますし。
>占星術での火星と金星のシンボルを流用しているからでしょう。火星・金星は神話のマルスとビーナス
これがジョン・グレイの本そのものですね。コメントありがとうございました
>自分の職場の状況とあまりにも酷似していたので、思わず書き込んでしまいました。
そうでしたか(笑
>世界最強の米軍といえども我が職場と同じなのですね~。。。。
基本的に「人間がやること」ですから、この問題は普遍的なのかも知れませんね。コメントありがとうございました
>TV会議で同席しても、官僚組織向け対策の基本は何も変わっていない
かわらないですねぇ。人間がやることはどの時代も同じということで(苦笑
>この教訓は真なのか、それともいつだってあることだけれど上手く行かなかった時にだけ脚光を浴びているのか。
エリオット・コーエンの本だと上手く行った例が四つ挙げられてますね。まあ彼も成功例しか出してないわけですから公平とはいえないかもしれませんが。
>この手の分業と統合の問題へのうまい解答は、人類がまだ発見出来ていないのかそもそも存在しないのか
そこで出てくる答えが「戦略はアートである」ということになるのかも知れません。これも答えになってはいないのかも知れませんが(苦笑)コメントありがとうございました
>銃口を突きつけられれば嫌でも分かるんですけどね。
うーん、あえて言えばこれをやられてもわからない人もいるわけで(苦笑)その典型的な例が北朝鮮のミサイルの脅威の下でも全然平気な日本、という議論もできそうですし。
>義務や無意識にやらかしたことが、相手にどのような影響を与えたかは所詮、後付でしか分からないと思うんですけど。
これを先に理解しようという試みが「戦略文化」なんですよね。
>最終的な責任はどこが負うんですかね?
鋭い質問ですねぇ。とりあえずは大統領のようなトップになります
>何を考えているんでしょうか?あんまり、影響力とか考えていないんじゃ。
かも知れません(苦笑)私もあの人の考えはよくわかりません。というか、もしかしたら彼自身も知らないかも知れませんし(笑)コメントありがとうございました