おススメの「格言」:その2 |
ネットのほうでもどうやら発売がはじまった『戦略の格言』ですが、大型書店の店頭にはならんでいるのでしょうか?
実際に手にとられた方はおわかりかと思いますが、この本には水色の帯がついておりまして、けっこう目立つ本だと思います。
あらためて完成した本を手にとった時に感じたんですが、ゲラのときよりもかなりの本の厚みを感じます。まあ原著では160ページちょっとだったものが翻訳版では320ページになってしまったわけですから、こればかりは無理もないかも知れませんが。
さて、この本の中から私が訳していて面白いと感じたおススメの格言をまた紹介します。
やはり甲乙つけがたいのですが、やはり面白いと感じたのは格言34の
「防衛費は確実なものであるが、そこから得られる安全保障上の利益は不確実で議論の余地が残るものだ」
というものです。
これはブロディの「戦略は予算(資金)だ」という主張から影響を受けた、ある意味でとても原著者らしい格言なんですが、これは恋愛などにも通じる戦略の普遍的な性質を表しております。
まず、ある戦略を考えたとして、その場合にはそれを実行するために具体的な予算という額がつきます。
ところが戦略にどれだけの予算額が必要で、しかもどれだけの効果を挙げられるものなのかは誰にもわかりません。
これはそもそも「戦略」というものが矛盾するものであり、安全保障というのがある意味で非常に主観的なものであることを表している良い例です。
ようする国家にとっての戦略や、そこから生まれてくる安全というのは、「愛」のように「感覚」の世界なわけです。「愛」というのは、存在するのはわかるんですが、それを数値化できないんですよね。
現著者は、われわれが「防衛計画というのは当て推量の実践である」ということをよく知らないことを指摘しているんですが、たしかにいくら金額をかければ我々の安全が保障されるのかは誰にもわからんわけです。
しかし防衛予算(もしくはデートの予算)というのは具体的な金額を必要とするのであり、客観的な数字として表さないといけないわけです。
「1兆円のミサイル防衛システムで北朝鮮のミサイルを防げます」とか、「次のデートで五万円使ったら彼女は落ちる」とかは言えないんですな(笑
このように、「具体的なもの(金額)によって感覚的な状態(安全)を得る」という矛盾そのものが、戦略の奥深さと難しさを同時にあらわしているわけですね。
原著者は「防衛費は保険的な政策として機能することが多い」と指摘しておりますが、これはなかなか慧眼だと思いました。