戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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「パワー」の研究:その1

今日の甲州は朝からよく晴れました。それにしても屋内の冷房と外の暑さとのギャップに驚く毎日です。

さて、国際政治や地政学で重要となる、「パワー」という概念についてまた少し。

私はロバート・ダールが1970年に発表した文献の中にある「パワーとは影響力である」という主張をよく使うわけですが、先日の講演会でもこれに関する鋭い質問をいくつかいただきました。

そこで私自身も考えたのですが、たしかにパワーというものには様々な面があります。

そういえばかなり以前に読んだ文献では、パワーという概念には三つの面があるという指摘があったように思います。これらは以下のように、

1、「属性」(attribute)としてのパワー
2、「関係」(relationship)としてのパワー
3、「構造」(structure)としてのパワー

となりました。

これだけ見ると「なんのこっちゃ?」ですが、少し説明すれば簡単にお分かりいただけるかと。

一つ目の「属性」ですが、これは「パワーというものは、ある国(や人物)が持っているもので決まる」というものです。

簡単なのが、「経済力」とか「軍事力」ですな。

つまりある「アクター」(←私はこの言葉は好きじゃないですが)が、何か数値化できるような具体的なものをある一定量持っている時に「パワーがある」ということになるわけです。

この典型がミアシャイマーであり、彼は国家のパワーを「陸軍力の量である」とかなり強引に言い切っております。

二つ目の「関係」ですが、これはいわば「パワーは相対量で決まる」ということを意味しております。

たとえば、いくらある程度のパワー(たとえば陸軍10万人)を持っていても、となりの国がそれ以上のパワー(たとえば陸軍100万人)を持っていたとしたら「相対的に弱い」ということになります。

ところがその弱い国でも、もう一つとなりの国のパワーが少なかったら(たとえば1万人)相対的に「強い」ということになります。

つまり「絶対量」よりも、他者との「関係」の中で生まれてくる「相対量」のほうが重要だということですな。

また、いくらパワーの属性となるもの(たとえば陸軍)を多く持っていたとしても、それが本当に意味をなすのは、それが実際の(政治的な)行動の中で影響力を持った時であることになります。

これをいいかえると、「属性」のほうは単なる「能力」(capability)ということになるのかも知れませんが、それに対して「関係」のほうは「影響力」(influence)と言えそうな。

長くなりそうなので、この続きはまた。
b0015356_1381269.jpg

Commented by Rogue Monk at 2009-08-14 04:39 x
>何か数値化できるような具体的なもの
ここら辺は納得できると共に、微妙な疑問も感じさせてくれる
ところですね。
サブカルチャーの影響力など「数値化しにくいけれども存在する」
パワーというのもあるわけですし。
確かに数値化できないと、分析が進みませんが。
Commented by elmoiy at 2009-08-14 11:40 x
>2、「関係」(relationship)としてのパワー

「地理的条件」もこれに分類されるのでしょうか?
A国はB国より有利な地理的条件にある、というケースです。
以前、エジプトのアレクサンドリアで海底ケーブルが切断され、湾岸諸国のみならず、インドまでインターネット接続に多大な支障をきたす事件がありました。特にインドの場合、欧米からのアウトソーシングで経済発展しているために、あの国の意外な脆さが注目されました。

海底ケーブル切断の原因は船の碇とも地震とも言われていてはっきりしませんが、こういうときイギリスのような国は有利だなと思います。
Commented by elmoiy at 2009-08-14 11:52 x
参考までにこちらの地図を。

ttp://image.guardian.co.uk/sys-images/Technology/Pix/pictures/2008/02/01/SeaCableHi.jpg

英ガーディアンによる、世界の海中に張られた海底ケーブルの地図だそうです。上が物理的なケーブルの敷設ルート、右下のが帯域にあわせて太さを変えたもののよう。
Commented by forrestal at 2009-08-15 02:27 x
政治思想系になると分類が少し違って、

1、関係性パワー
2、環境管理型パワー
3.時空間的パワー

でも、これってほとんど同じじゃないのって感じですけどね。若干の差異を言えば、1→2→3 てな簡単な図式になりますよね。でも、いろいろバリエーションがあるみたいですよ。こういう差異化も言説空間にパワーが働いてますから。

結局、何かをさせたり、させなかったりっていう心理的な側面まで含んだ程度の問題で名前が変わったりするんですけど。

Commented by masa_the_man at 2009-08-16 00:50
Rogue Monk さんへ

>サブカルチャーの影響力など「数値化しにくいけれども存在する」パワーというのもある

これが「ソフトパワー」ですよね。

>確かに数値化できないと、分析が進みませんが。

そうなんです。そこでリアリストは悩むわけです。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-08-16 00:52
elmoiy さんへ

>「地理的条件」もこれに分類されるのでしょうか?

いや、「属性」でもありえますね。

>インドまでインターネット接続に多大な支障をきたす事件

そういえば日本近海の地震で海底ケーブルが切れた事件もありましたね。この時は中国へのネットが。

>こういうときイギリスのような国は有利だなと思います。

これは「沖合」にあるから、という意味でしょうか?できればここの理由をもう少し教えて下さい。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-08-16 00:55
forrestal さんへ

>でも、これってほとんど同じじゃないのって感じですけどね。

たしかに。

>こういう差異化も言説空間にパワーが働いてますから。

そうなんですよね。パワーはいろんなところに作用しているわけで・・・。

>心理的な側面まで含んだ程度の問題で名前が変わったりする

それをどう見るか、という点にもパワーが出てきますよね。うーん、この辺は相当難しい問題です。コメントありがとうございました
Commented by elmoiy at 2009-08-17 11:01 x
>これは「沖合」にあるから、という意味でしょうか?できればここの理由をもう少し教えて下さい。

そうです。第一次世界大戦が始まってまもなく、アメリカとドイツを結ぶ海底ケーブルをイギリスが切断してしまい、そのためヨーロッパに関する情報はイギリスに有利なように流され、ドイツについては歪んだものになってしまいました。
Commented by 柴崎力栄 at 2009-08-17 13:29 x
海底ケーブルについても浅海部が切断されやすく、海峡やその周辺がチョークポイントになるのは、航路と同様なのですね。
Commented by sdi at 2009-08-17 16:11 x
WWIのときの海底テーブル切断の話は初耳です。興味深い話ありがとうこざいます。
私はこの話の「開戦後まもなく」がいつだったのか、というのが気になります。その海底ケーブル切断という行為の背後に「対独戦は長期戦になる」という判断があったのではないでしょうか。ただ単に独の情報収集・発信能力を制限したかっただけで長期戦云々は関係ない判断だったのかも
しれませんが。
日露開戦前に日本が自力で長崎-上海間の海底ケーブルを敷設してイギリスの海底電信ネットワークに直付けできていたのは素晴しい。明治日本の指導者層の判断力に頭が下がります。
Commented by 柴崎力栄 at 2009-08-17 19:07 x
今年の戦略研究学会で大井知範さんのドイツ東洋巡洋艦隊についての発表で、1次大戦時、「南洋植民地に点在する5つの無線通信基地が開戦2ヶ月以内に占領」されて、本国との海底電信線経由の通信が不可能になったとの内容がありました。ドイツの太平洋地区の海底電信線は、グアムで中立国のアメリカの線に接続していました。その他は、ロシアや英国など敵国のラインに接続するのみ。前後関係が判らないのですが、もしかしたら、ドイツ~アメリカ東部の大西洋ケーブルを切断することは、ドイツ太平洋艦隊が、アメリカ経由で本国と交信することを妨害することにもなっていたのかも知れません。
Commented by elmoiy at 2009-08-17 19:52 x
>私はこの話の「開戦後まもなく」がいつだったのか、というのが気になります。

対独宣戦布告と同時だそうです。英国はドイツの対外通信上の生命線だったドイツ・北米線、ドイツ・南米線、それにドイツ本国とアフリカ植民地とを結ぶ海底ケーブルの全部を切断してしまいました。この結果、ドイツが対外通信上完全な孤立状態に陥ったのは、決定的な大打撃でした。

>日露開戦前に日本が自力で長崎-上海間の海底ケーブルを敷設してイギリスの海底電信ネットワークに直付けできていたのは素晴しい。

海底ケーブルを持たないために悲惨な目に遭ったの例として、他に米西戦争当時のスペインがありますね。宣戦布告後は、キューバあてのスペイン政府の電報は、そのことごとくをアメリカ軍の手によって押えられ、スペインは、キューバ植民地との連絡を完全に遮断されてしまった。
Commented by elmoiy at 2009-08-17 21:11 x
>明治日本の指導者層の判断力に頭が下がります。

幕府は長崎のオランダ商館長から、「和蘭風説書」という世界情勢に関する報告書を受け取っていまして、1852年(嘉永5年)、最初のドーバー海峡横断海底ケーブルを敷設した翌年、すでにその成功が報告されています。その後の風説書にも海底線に関する記事があり、幕府上層部は世界海底線網の状況、その効果をつとに認識し、日本のような島国にとって、これがきわめて重要な役割を果たすものとして研究を奨励しました。新政府誕生とともに、これら重要事項も引き継がれたので、我々は明治だけでなく、江戸時代の先人の遺産も受け継いでいるわけですね。
Commented by masa_the_man at 2009-08-18 08:14
elmoiy さんへ

>第一次世界大戦が始まってまもなく、アメリカとドイツを結ぶ海底ケーブルをイギリスが切断してしまい、そのためヨーロッパに関する情報はイギリスに有利なように流され

ああ、なるほど。たしかにイギリスはうまいですなぁ。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-08-18 08:16
柴崎さんへ

>海底ケーブルについても浅海部が切断されやすく、海峡やその周辺がチョークポイントになるのは、航路と同様なのですね。

「コミュニケーション・ルート」という意味ではまったく同じ機能がありますからね。これは興味深い共通性です。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-08-18 08:17
sdiさんへ

>海底ケーブル切断という行為の背後に「対独戦は長期戦になる」という判断があったのではないでしょうか

なるほど。

>日露開戦前に日本が自力で長崎-上海間の海底ケーブルを敷設してイギリスの海底電信ネットワークに直付けできていたのは素晴しい。明治日本の指導者層の判断力に頭が下がります。

これも「地政学的判断」ということになりますね。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-08-18 08:21
柴崎さんへ

>もしかしたら、ドイツ~アメリカ東部の大西洋ケーブルを切断することは、ドイツ太平洋艦隊が、アメリカ経由で本国と交信することを妨害することにもなっていたのかも知れません。

なるほど。結局は「情報」というところでチョークポイントを握る行為につながるわけですな。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2009-08-18 08:26
elmoiy さんへ

>対独宣戦布告と同時だそうです。

はやいですなぁ。

>海底ケーブルを持たないために悲惨な目に遭ったの例として、他に米西戦争当時のスペインが

アメリカはこれで情報をコントロール、と。

>幕府上層部は世界海底線網の状況、その効果をつとに認識し、日本のような島国にとって、これがきわめて重要な役割を果たすものとして研究を奨励

これは知りませんでした。

>江戸時代の先人の遺産も受け継いでいるわけですね。

江戸幕府無能説はけっこう多いかも知れませんが、わかっている人はわかっていた、ということですね。コメントありがとうございました
by masa_the_man | 2009-08-14 01:30 | 日記 | Comments(18)