フローノイの「地政学」論 |
週末に開催される講演会の準備のために資料集めをしておりましたら、なかなかすごい「地政学論」(=大戦略論)を発見しましたのでまたポイントフォームで紹介します。
著者は次のQDRを書くことが決定していて次期米国防省長官と噂されているミシェル・フローノイとその同僚です。米海軍の研究機関が出しているプロシーディングス誌に書いておりました。
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The Contested Commons
By Michele Flournoy and Shawn Brimley
Two officials from the Office of the Secretary of Defense look at a changing and challenging world and what it means for the future of American power.
●世界は変化している。
●このような環境の中で、アメリカには新たな大戦略が必要になる。
●国防省は最近の戦争の教えた様々な教訓を取り入れなければダメ。
●この教訓は三つある。
1、グローバルな共有圏(海、空、宇宙、サイバースペース)に対する挑戦の高まり
2、伝統的および非正規なものによる複合的な脅威
3、弱小国の崩壊問題
●三番目の問題は目立つのわかりやすい脅威だが、やはり気をつけなければならないのはグローバルな共有圏に対する脅威だろう。
●グローバルな共有圏についてはマハンも『海上権力史論』で説いている。
●第二次大戦後にアメリカが行って来たのはまさにこのグローバル共有圏の拡大であり、このインフラによって西側の価値観を拡大してきたのだ。
●たとえば冷戦時代のNSC-68はその典型であり、主に二つの柱によるアプローチだった。
1、ソ連の存在に関係なく追求してきた、健全な国際コミュニティーの建設という目標
2、ソ連の封じ込め
●ところが国際システムに対して、最近では勃興する国家や非国家アクター、そしてグローバル化によって問題が投げかけられている。
●この変化がこの共有圏にどれだけの影響を及ぼすのかについてはまだあまり検証されてない。
●宇宙でいえば2007年の中国の衛星撃ち落とし事件
●サイバースペースではロシアや中国やヒズボラらの積極的な攻撃など。
●南シナ海での中国の動きや北極海におけるロシアの動き。海賊やヒズボラの対艦ミサイルなど。
●これらの例が示しているのは、大きく見れば二つの戦略面での流れである。
1、アメリカとその同盟国が持つ「行動の自由」に対する国家/非国家の挑戦を防ぐための障壁が時間の経過と共に(テクノロジーの拡散により)低くなる。
2、中露印などは、アメリカが維持している国際システムに満足せず、自分たちの都合のよい良い方向にシステムを変化させようとしてくる。これはインド洋(印)や北極海(露)、そして宇宙空間(中)ですでに発生。
●もちろんアメリカの実力は当分の間はライバル無しであろう。
●しかし「システムの調停者」としての役割は次第に複雑かつ困難になってくる。
●たとえば海の領域での実行レベルでは、軍事力を機動させるための海外基地への無条件のアクセスはできなくなるかも知れない
●「アクセスをめぐる争い」が勃発するかもしれない。
●アメリカの「アクセス」に対する抑止、拒否、そして邪魔というのは別に新しいわけではないが、問題はそれを可能にするテクノロジーが及ぼす影響のスケールの大きさだ。
●また、そのようなテクノロジーをつかう(対艦ミサイルを入手したヘズボラのような)非国家アクターたちの潜在力も心配。
●このような脅威に対応するためにはQDRなどで新しい戦略コンセプトを考える必要あり。
●まず全軍はパワープロジェクションに対する脅威に備えるべき。
●宇宙とサイバースペースの安全が国家的関心になってきた。これには同盟国たちの協力も必要。
●これから軍事面だけの対応ではダメ。政府の全機能を使うべし。
●健全な国際システムの維持をめざすべきである(これはそもそも冷戦初期から行われていた)。
●グローバルな共有圏の保護と維持はアメリカ一国だけでは実現不可能。
●国際的な規範(norms)と基準(standards)によって法の概念を広げるべし。そして各国共同で問題解決にあたらなければならない。
●国際システムの劇的な変化に対応せよ。アメリカの安全保障は大きな国際システムの安全に直接関係してくるものだからだ。
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キーワードとして繰り返しでてきているのは、グローバルな共有圏(global commons)や「国際システム」、そして「パワープロジェクション」などでしょうか。
このような共有圏(commons)という考えは、拙訳の『進化する地政学』の中のジョン・スミダによるマハンについての論文の中でも説明されております。どういうことかというと、マハンは「シーパワー」というものを、国際貿易を推進するための「国際システムの基礎」という風に考えていた、ということですね。
一般的にマハンというのは単なる帝国主義的なシーパワー論者のように考えられているわけですが、本人はシーパワーというものを、実は「自由貿易のための基礎である」と考えていたということなのです。
フローノイのこの論文もマハン(そして最近ではポーゼン)の路線に乗っかったものであり、これからのアメリカはシーパワー(そして空、宇宙、サイバースペース)という共有圏への国際的なアクセスを維持することに集中しなければダメだということですね。
そしてこれらの言っていることが本当に正しいとすれば、アメリカの最終的な目標はこのシステムの支配ではなく、ある意味では国際法の維持と遵守ということになるんでしょうか。
そうなると、狙いはやはりシステム維持のための「ソフト」(法など)とそれを維持するための「インフラ」(軍事力)が中心ということになります。
つい最近もヒラリーが「ヒラリードクトリン」とも呼べる対外政策ドクトリンをCFRで発表しましたが、この路線がシンクロしていて興味深い。合わせて読んでみると、一定の方向性が見えてきます。