今日の横浜北部は曇りがちの一日でした。だいぶ日が短くなってきていると実感します。
さて、先週の番組でも少し触れた、トランプを支えるマッチョ文化についてのNYタイムズ紙の面白いルポ記事を。
日本では朝日の金成さんによるラストベルトの白人労働者階級を丹念に追った調査記事を
本にしたものがありますが、こちらは日本ではあまり注目されることのない、ラテン系の男性たちが熱烈なトランプ支持者になっている様子を分析していて、実に興味深いものです。
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by ジェニファー・メディナ
20-10/14
彼らは自分たちのヒーローを応援するために、その部屋に詰めかけていた。
この部屋に集まっていた100人以上の群衆は、地元の英雄で、オリンピックの金メダリストでもある
ヘンリー・セフード氏に対して熱狂的な声援を送っていた。彼はメキシコからの不法移民の息子であり、総合格闘技のスーパースターになった人物だ。
ところが彼らがそこに集まっていた本当の理由は、トランプ大統領を祝福するためだった。
赤いMAGA(Make America Great Again)の帽子をかぶった数人の男性たちは、巨大なアメリカ国旗を持ち、いくつかの選挙キャンペーンのプラカードの前に立っていた。プラカードには「トランプ支持派のラティーノ」「トランプ支持派の警官たち」、そして「WOKE」というショートメールを送って選挙キャンペーンの最新情報を入手するように促すものなどがあった。
大統領の息子であり、このイベントの主役でもある
エリック・トランプ氏の言葉を借りれば、この戦いの構図はシンプルだ。彼が「それは正しい方と間違った方だ」だと言うと、大歓声に包まれた。
「彼らは私たちの声をキャンセルしようとしているんですよ、みなさん!」
男性は、トランプ大統領の支持基盤の中心的な存在だ。世論調査での男女の差は、ほぼすべての集団の中に存在している。つまりトランプ再選を支持する男性の確率は、白人有権者、高齢者、そして大学の学位を持たない有権者の間で、女性のそれよりもはるかに高いのだ。
そして、トランプ氏がコロナウイルスの陽性反応が出たと発表してから数日たったあとでも、その支持率はほとんど変化していない。 世論調査によると、今回の大統領選挙では100年前の修正第19条が加わって以来の、男女の支持についての最大の差が生じる可能性があるという。
ここでトランプに関して常につきまとっている疑問がある。それは、
「移民排斥のレトリックや政策にもかかわらず。30%近くにのぼるヒスパニック系の有権者はトランプを支持している。彼らは一体どのような人々なのだろうか?」 というものだ。
これについて単純な答えは一つもない。トランプは南フロリダのキューバ人やベネズエラ人の亡命者たちから強い支持を得ており、彼らはトランプの反共産主義にのスタンスを好んでいる。そしてトランプ氏の選挙キャンペーンは、全国の福音派ラテン系の人々に強く支持を求めている。
ただし、民主党を最も悩ませているのは、アメリカ生まれのヒスパニック系男性であり、特に45歳以下の男性のグループだ。意識調査では、彼らはジョー・バイデン候補に対して常に懐疑的であるからだ。
しかしトランプ支持の数十人のメキシコ系アメリカ人男性へのインタビューで明らかになったのが、高齢者や女性、郊外の有権者たちの多くから嫌われているという事実そのものがトランプの魅力の重要な部分である、ということだ。
彼らにとって、トランプのマッチョな魅力は、疑う余地のないものだ。なぜならトランプは力強く、裕福で、そして何よりも重要なのは、絶対に非を認めないからだ。
間違ったことを言って攻撃されるかもしれない現代の世界で、トランプはいつも間違ったことを言いつつも、自責の念に駆られることは決してない。
大統領は月曜日にフロリダ州で行われた集会で、大統領専用機の前に立って「力がみなぎってます」宣言している。 そしてこのメッセージがしっかりと伝わるように
ヴィレッジ・ピープルの「マッチョ・マン がスピーカーから流れて、集会は幕を閉じた。
41歳の海兵隊の退役軍人であるポール・オラーサバ・ジュニア氏は、2016年に初めて共和党に投票した。トランプ氏は軍をしっかりと応援してくれていると感じたからだ。
「私はメキシコ系です」とオラサバ氏は言い、何年もの間、彼はそれが彼が民主党に投票しなければならないことを意味すると考えていた、と付け加えた。 彼が2016年にトランプ氏を支持し始めたとき、家族は彼をのけ者にした。
「両親は私に、なんで人種差別主義者を支持するんだい?あなたはメキシコ系なんだから、民主党に投票しなさいよ、と言うわけです」 「しかし私はアメリカこそが自分の国だと言いました。恐怖なんですよ、人々は大統領を支持していると言うことを恐れているんです」
セフード氏には、そのような恐れは明らかになかった。先月、トランプ大統領がネバダ州で大規模な集会を主催した時、セフード氏はトランプ氏の選挙運動を支持する他の総合格闘技の選手たちと一緒に参加している。
セフード氏(33歳)は「私はトランプ氏の大のファンなんです」と語った。彼は高校の授業で「アプレンティス」を見たと言う。 「我々にはビジネスマンが必要です。国を運営する上ではこのような人が必要なんです」
エリック・トランプのイベントにセフード氏と一緒に参加した人々も、「アプレンティス」でトランプ氏を見ていたと語っており、彼の押し出しの強い姿勢や、自分の意見に自信を持っている様子が好きだったと語っている。
彼らに対するインタビューで判明したのは、彼らはトランプ氏の大統領としての行動も同じように見ているということだ。もちろん彼らもトランプ大統領の行動の全てに同意しているわけではないが、それでもその行動はトランプ氏の強さを示す、さらなる証拠だと思っているという。
彼らによれば、トランプ氏はコロナに感染してからも広く受け入れられている医学的な指針に反抗したが、これは彼のリーダーシップの欠如を示すものではなく、自分で調べて自分で結論を出す人の行動として映るという。
彼らによれば、トランプ氏がマスクを嫌うのは彼の強さの現れであり、バイデン氏との討論会の最中に何度も口を挟んだのは、トランプ氏が権力を効果的に使った例であるというのだ。
トランプの選対本部の外で大きなアメリカ国旗を掲げていたエドウィン・ゴンザレス氏(31歳)も、「彼は自分がボスであることを証明しましたよね。彼が出馬した時にタワーの黄金のエスカレーターを降りてきたのと基本的に同じことです。まさにエキサイティングなんですよ」 ゴンザレス氏は、彼や他の多くのトランプ支持者にとって大統領は資本主義の最高の実例であり、「彼はボスであり、みんな彼のようになりたがっており、彼を偶像化しています」と付け加えた。
このイベントに参加した有権者たちは、トランプ大統領を賞賛すると同時に、バイデン氏は弱者であると指摘しつつ、トランプ陣営が造った「地下室のバイデン」(Basement Biden)という軽蔑的なレッテルに値すると批判している。
実際のところ、参加者の男性の多くはマスクの必要性を否定している。 エリック・トランプ氏とセフード氏が参加したイベントでは、入り口では体温チェックがあったが、マスクを着用していた聴衆はほとんどおらず、登壇者の中にもマスクを着用していた人はいなかった。
バイデン氏は、マスクをめぐるトランプ大統領の消極的な態度をあざ笑っている。彼は10月のあるタウンホールのイベントで「マスクはつけないよ、という彼のこのマッチョな態度は一体どういうことなんだ?」と発言している。この発言に対して、フォックスのあるコメンテーターは「バイデン氏はマスクをかわいいポーチに入れて持ち歩いているんじゃないか?」と反論している。
「この国は、恐れるか前に進むかの転換点にあります。民主党はここ数ヶ月で自分たちの党にかなりダメージを与えたと思います。私たちを怖がらせようとしているからです」とリコ・ロッシ氏(40歳)は言う。
ヒスパニック系の女性は圧倒的にバイデン氏を支持しているが、ヒスパニック系の男性はバイデン氏に根強い不快感を持っているようで、世論調査ではバイデン氏が白人以外の有権者の平均をはるかに下回る60%以上の支持を維持するのに苦労していることが示されている。
ちなみに世論調査では、トランプ氏がヒスパニック系の有権者から約30%の支持しか得ていないのに対して、まだバイデン氏はまだかなりリードしている。
共和党と民主党の両方の戦略家たちは、バイデン氏はこれらの若いラテン系の男性たちに直接手を差し伸べてはいないと言う。
「米国生まれの40歳以下のヒスパニック系の男性はトランプ支持のようですが、問題はなぜなのかということです」と語るのは、トランプ氏をホワイトハウスから追い出すために活動している「
リンカーン・プロジェクト」に関わる共和党のコンサルタント、マイク・マドリッド氏だ。
両党とも白人の労働者階級の有権者をターゲットにしているが、実はヒスパニック系の男性の多くも、この白人労働者たちと同じような政策を好んでいる。 「彼らは主に英語をしゃべるし、経済状況も非常に似ており、同じメディアから情報をとっているんです」とマドリッド氏は語る。
ラテン系の有権者に対して十分に手を差し伸べていないという根強い批判に何ヶ月も直面してから、バイデンの選対本部はようやくここ数週間でいくつかのスペイン語の広告を発表しており、これにはプエルトリコ出身の
バッド・バニーという中性的なポップスターを採用したものも含まれる。
他の広告では、トランプ政権がラテン系住民をターゲットにしたやり方を強調したものがあるが、これは自分たちが同情されるのを見たくない男性の間ではまったく共感されないメッセージとなっている。
民主党員の中には、トランプ氏への支持は、伝統的なジェンダーの役割を崇拝し、一種の「過剰な男性らしさ」を強調する「マッチョ文化」の一例であると主張する者もいる。
ところがこの熱意は、米国生まれのラテン系アメリカ人の間で流行している、いくつかの根本的なトレンドを示している。 ヒスパニック系の間では、女性の方が男性よりも多く大学に通って卒業している一方で、ヒスパニック系の男性は、軍、国境警備隊、移民税関捜査局などの法執行機関に偏って働いている傾向がある。
しかし、トランプ氏への称賛には、さらに根深いものがあることを暴いている。 ヒスパニック系の男性を綿密に追跡してきた民主党の世論調査員によると、彼らは仕事や経済を優先する傾向が強く、移民や人種差別の問題を気にすることは少ないという。 ヒスパニック系の男性の多くは、生計を立てて経済的な優位性を得て、それを子供たちに引き継いでいくことだけを考えているという。
つまりそこには「自分たちの力で頑張ろう」というメンタリティへの深い信念があるのだが、トランプ氏がそのようなことをしてこなかったことは、全くの論点から外れているように思われる。
35歳のレジ係のジョシュア・タピアは、パンデミックが流行する前は、株式市場に投資を始めたので、自分は経済的にはるかに恵まれていると信じていたと語った。では今はどうなのだろうか?
「多くの仕事が失われようとしてますが、私はトランプ氏を非難しているのではなく、ただ状況を非難しているだけです。残念ですが、まあ誰もこのような状況になるとは予測できなかったですしね」とタピア氏は述べている。
熱心に活動してきた民主党員でさえも、バイデン氏が新型コロナの流行でラテン系の失業者が10%以上となり、それ以上の人々が賃金の減少に直面している中で、あいまいな経済政策のメッセージしか打ち出せていないことを批判している。
トマス・ロブレス・ジュニアは、バイデン候補やアリゾナ州の他の民主党員のためにキャンペーンを展開している「ルチャ」(Lucha)という進歩的なグループのエグゼクティブ・ディレクターだ。彼によれば、「ラテン系のコミュニティでは、稼げるかどうかで人の評価が決まる」という。
「経済的に不安定な状態が常態化している中で生活している人々は、周りを見て、少なくともこの経済状況の中でもなんとかやっていけると信じたいと思っています。バイデンン候補は、この人々に自分たちの重要性を認識させ、彼らがなんとかやっていけるだけの経済状況をつくりあげるというメッセージを伝える必要があるのです」
昨年、フロリダ、ニューメキシコ、ネバダ、そしてアリゾナなどで行われたイベントでのヒスパニック系のトランプ支持者たちとのインタビューでは、ほぼ全員が、自分たちの政治姿勢が一部の友人や家族を怒らせたと述べており、自分たちの考えは反移民的な考えに基づいたものだという指摘を拒否している。
そしてこれはアメリカ社会への完全な「同化」を示しているわけでもない。この男性たちは、ラテン系、とりわけメキシコ移民の子孫であることを誇りに思っており、その多くがスペイン語を話し続けようと努力している。
その多くは、政治的に特殊な立場をとることや、大多数のラテン系とは異なる投票をすることに魅力を感じていると言っている。
総合格闘技のスターであるセフード氏でさえ、サウスフェニックスの熱狂的な群衆に向かって、自分の政治見解が周囲に敬遠されてきたために、かえって率直な意見を表明しようという気になったと語っている。
「ラテン系の人間として反発を受けることがどういうことか、みなさんもご存知でしょう。アメリカの政治には実に多くの無知が溢れているのです」と彼は言った。
彼は、最初の選挙では不法移民に反対することで主に支持を集めた大統領を支持するこのグループに対して、自分の母親がメキシコから「政治的に不正な方法」でアメリカにやってきたと語り、父親も後に強制送還されたが、その合間に母親が自分のオリンピック選手になるという夢を実現するのを助けてくれたと述べた。
そして最後に、彼は派手な上腕二頭筋を見せて、写真のためにポーズをとった。
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いかがでしょうか。
単なる天の邪鬼的な感覚からトランプ支持、という部分もあるのかもしれませんが、ここで極めて重要なのが、トランプ自身がアメリカに住む男性たちの「マッチョ文化」の担い手になっているという指摘です。
そうなると、彼がいくらリベラルメディアからファクトチェックをされようとも、彼のコアな支持者たちの間では、
「間違ったことを言っても絶対に謝らないトランプは強い!」
ということになり、かえって男を上げるという構図になるわけですね。
そうなると、ここで問題なのは、日本のメディアや識者たちが「トランプ現象」についての分析としてよく提示する
「トランプ大統領の政治はハチャメチャだが、これは彼自身の問題ではなく、むしろその背景にある分断された米国社会に原因がある」
というもの。つまりトランプはハチャメチャな政治の「原因」ではなく、米国社会のひずみの「症状」でしかないという分析です。
もちろん私はこの意見にはある程度賛同するわけですが、このような記事を読むと、逆に
「トランプ個人のハチャメチャぶりも相当大きな影響を及ぼしているのではないか?」
と考えざるを得ません。
国際政治の理論に詳しい方々には耳タコでしょうが、トランプ政治がアメリカでこれだけ吹き荒れているのは、
ケネス・ウォルツの考え方を使わせてもらえば、
「トランプ政治の原因は、分断した米国社会のせい」=セカンド・イメージ(国家、党、グループ)
という考えよりも、やはり
「トランプ政治の原因は、トランプ個人の性格のせい」=ファースト・イメージ(個人、ヒューマン・ネイチャー)
という方が納得いくように思えるわけです。
いよいよアメリカの大統領選挙の投票が始まるわけですが、結果がどのようになるにせよ、トランプがアメリカのラテン系男子にある「マッチョ文化」に強烈にアピールしていることに思いを馳せながら、私は選挙結果を気長に待ちたいと思います。
(YouTubeより)
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