スポーツは人間を不幸にする? |
今日の横浜北部は蒸し暑い真夏日でして、外に出るとまるで暖房が入っているような錯覚を感じました。
さて、サッカーのワールド・カップが終わったタイミングで、知的好奇心をそそられるような記事がありましたのでその要約です。
おりしもZOZOの前澤社長が新球団をつくりたいと発表して話題になっておりますが、スポーツとはどういうものであり、チームとファンの関係、そしてそこで使われるマーケティングなどを考える上で、1つのヒントになるような記事です。
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By アンドリュー・ヴァン・ダム
2018-7/17
「スポーツは世界をより悲しい場所にする」というのは本当だ。われわれにはそれを証明するデータがある。
幸福感をモニターするアプリを使った300万の反応と、数年分のイギリスのサッカーの試合の場所と時間に関するデータを使って、サセックス大学の経済学者であるピーター・ドルトンとジョージ・マッケロンは、ファンたちがチームが勝った時に感じる幸福感の量は、チームが負けた時に感じる悲壮感の量のたった半分にしかならないと計算している。
これはつまり、両チームのファンの数がほぼ同数であると想定した場合、先日のフランスとクロアチアの間で戦われたワールドカップの決勝戦は、その前日の状態よりも、世界をやや不幸にしたということになる。
実質的な量という観点から見れば、サッカーは人間の幸福感を破壊するものなのだ。
これを証明するために、この二人の研究者たちは一日に32,000人(といっても正確な数は日によって変わるが)からアプリに送られてくるデーターを解析し、その人々たちに対して幸福感を100点満点で表現し、誰と一緒にいて、何をしていたのかを尋ねた。
この反応には情報の位置情報が含まれており、これによって試合が行われたスタジアムにいたか、スタジアムに行った経験があるかがわかってきたのだ。二人はこの結果を、日中の時間帯や週の中の日によって幸福感が違うことを踏まえた上で修正したのだ。
この二人はそれぞれ個人の幸福感の平均レベルが異なることを調べたために、常に気分が悪いか良いという人間がいることも説明できた。ところが彼らはアプリのユーザーが国全体よりも若年層に偏りがちであることに関しては修正できていない。
応援するチームが勝利した直後には、ファンたちは通常よりも幸福感が3・9ポイント上昇している。これは音楽を聞いた時と同じくらいの上昇だ。
ところがチームが負けた直後のファンたちは、通常より幸福感を7・8ポイント失うことになり、これは仕事や勉強、そして列に並んで待った後に失った幸福感の、ほぼ2倍以上となる。
この研究者たちはこの結果を「かなり劇的なもの」と表現しており、しかも時間に納得できるようになったと述べている。なぜならサッカーの試合後の悲しみは数時間残るものであり、その反対に勝利の幸福感はすぐに消えてなくなってしまうものだからだ。
負け試合は、勝利によって得られたはずのファンの幸福感を、結果的には4倍も奪うことになるという。しかもこのインパクトは、ファンが実際に試合会場に足を運んでいた場合にはるかに大きくなるという。
ドルトン氏はこのデータは自分自身の体験にも当てはまると言っている。応援しているニューキャッスル・ユナイテッドは、彼が知っている限りでは一度もよい結果を残していないのだ。
彼は「実際の体験として、私は自分の応援しているチームがウェンブリー・スタジアムで行われた重要な試合で7回も負けたのを目撃しているのです。つまり私は他のどのフットボールのファンよりも敗北感を経験しているはずなのです」と言っている。
ドルトン氏は自分と同じような仲間がいて、しかも彼らもサッカーによって感情的に打ち砕かれていることを知ることができてホッとしたという。「私がそれほど奇妙な存在ではないことを知ることができて本当に安心しました」とは彼の弁だ。
それではなぜ人々はスポーツのファンであることをやめないのだろうか?
この二人の研究者によれば、その理由の1つは、人間は自分たちの応援するチームの成功についての予測がうまくないからだという。
たとえば、もしあなたが「うちのチームは5試合のうち3試合は勝つはずだ」と考えるタイプの人間であれば、負け試合が勝った試合よりも2倍あなたを悲しくするとしても、試合を観戦しつづけることは極めて合理的であると言える。
同氏たちは「ファンというのは自分の応援するチームの勝率に関して、体系的に過大評価するものであり、実体験の後でもその予測を決して修正しないし、学ばないのです。多くのサッカー・ファンたちはあいかわらず試合を見にいって、この試合だけは自分たちの勝利の予測を裏付けてくれると期待しがちなのです」と記している。
また、彼らはその他にもスマホのアプリにはうまく反映されないが、それでも幸福感を上昇させる要素がある可能性を指摘している。それは、自分のチームが点をとった時の瞬間的な幸福感の上昇(試合には結果的に負けたとして)や、同じような好みを持つ人々との仲間に加わった嬉しさ、そして試合そのものの緊張感や美しさなどである。
これについてドルトン氏は、「決勝ラウンドで負けるまでのイングランドのワールドカップでの活躍は、スポーツが持つ素晴らしい効果を証明してくれた」と述べている。つまり「経済に対してかなり大きな効果を及ぼしました。自国のサッカーチームが快進撃をしている時の高揚感は何にも代えがたいもの」だったのだ。
ところがその効果にも二面性がある。ドルトンは、アメリカのプロフットボールの6つチームの結果を解析した、アメリカ在住の二人の研究者たちの分析を指摘している。それによれば、予期されていたよりも悪い負け方をした場合と、その地域での発生した家庭内暴力の件数の間には、相関関係があるという。
ドルトンは「このような結果は非常に重要です、それらはあらゆる効果の1つのマーカーとなるからです」と述べている。
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よく読んでみれば、サッカーファンたちの試合後の幸福感と喪失感を、アプリを使ってビッグデータ的に解析したものですが、これはここ二十年ほど流行しているプロスペクト理論などを輩出してきた、いわゆる行動経済学の1つの研究結果のようですね。
データ的にはかなり主観的な部分(100点満点で答える)もあって微妙ですが、研究の着眼点は面白い。
なぜ私がこの記事の内容に興味を惹かれたのかというと、なんといってもこの「スポーツ」の部分を「戦争」に置き換えても成り立つ話だと感じたからです。
ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、戦争学や戦略学の分野では戦争をスポーツの一種としてとらえる考え方がありまして、もし上記のスポーツ観戦における「負けた時の心理的インパクトの強さ」と「勝ちを期待してしまうファンの心理状態」というのが正してければ、これはそのまま、
「なぜ人類は戦争をやめられないのか」
という根本的な問いに対しても、実に大きな示唆を持つことになります。
そしてこれはどうやら、リアリズムの識者たちが繰り返し指摘している「人間本性」(human nature)からやはり発生したこと、と言えそうですね。
本質的に欠陥を抱えている人間たちによって、われわれの世界はなんとか回っております。だからこそスポーツも戦争もこの世に存在し、われわれはその結果に一喜一憂するわけです。
そう考えると、ある飲料メーカーの「このろくでもない、すばらしき世界」というのは、なかなか言い得て妙ですね
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