フィクションをヒントにして未来を考える |
今日の横浜北部は昨日の梅雨入り宣言後でもなんとか晴れております。
さて、本当に久々の更新となってしまいましたが、面白い記事があったので要約しました。将来戦の備えとしてSFの役割は重要であるとする意見記事です。
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By MLカヴァナウ
2018-5/28
小説家のマーガレット・アトウッドは、ヴァラエティ誌が行った最近のインタビューで「911連続テロ事件のハイジャッカーたちは映画スター・ウォーズを観て飛行機をビルに突っ込ませるアイディアを思いついた」と答えて炎上している。
「侍女の物語」をはじめとするディストピア的な作品で有名なアトウッドだが、この指摘は間違っていた。19人のハイジャッカーたちは、映画スター・ウォーズにインスピレーションを受けたわけではないからだ。アルカイダはデス・スターの破壊を再現しようとしていたわけではない。
ところがアトウッド女史のコメントは、それほど間違っているというわけでもない。なぜなら文学や映画は長年にわたって戦争の現実をうまくとらえているものであると考えられてきたし、その逆に、それらが戦争についての考えに影響を与えてきたからだ。「現実の戦争」(real war)と「映画の中の戦争」(reel war)の間には、直接的な関係性が存在するのだ。
もちろんこれは特別に目新しいことではない。芸術というのは、人類の歴史が始まって以来、戦争に影響を与えてきたし、その逆も同じなのだ。『イーリアス』は古代の戦争についてのほぼ創作であるが、アレクサンダー大王は枕元においていたと言われている。
ジョン・スタインベックは戦争を目の当たりにしたことはないのだが、1942年に発表した『月は沈みぬ』という小説では軍事的に占領された小さな町が題材となっており、第二次大戦の欧州戦線ではナチスに占領された地域のレジスタンス側にとって良き手引書となって大きな影響を与えている。
とりわけノルウェーにおける抵抗運動で役に立ったため、スタインベックは1945年にノルウェー王ホーコン七世から戦時の功績を讃えられて自由十字勲章が与えられている。
現代の戦士たちもまだフィクションから学んでいる。スタンレー・マクリスタルとデイヴィッド・ペトレイアスという二人の元将軍たちは、1960年に発表されたThe Centurionsというインドシナ半島やアルジェリアにおけるフランスの空挺部隊の活躍を描いた小説に大きな影響を受けたと述べている。
元NATOの最高司令官で米海軍の提督だったジェームス・スタヴリディスは、自分の軍歴においてヘミングウェイの多くの小説が大きな示唆を与えてくれたと指摘している。
「911事件調査委員会」の報告書では、諜報機関のメンバーたちが民間の航空機が武器となることを認識していたことが記されている。彼らはこの認識を国家のインテリジェンス関連の情報から得たわけではなく、トム・クランシーが1994年に発表した小説「日米開戦」(Debt of Honor)から得たとしている。これは民間航空機が首都ワシントンDCに突っ込んで米国の政治中枢をほぼ破壊するような内容のものだった。
米国政府はこの種の情報――つまり本や映画、そしてその他の創造的な産物によるインテリジェンス的な価値のある情報――を公開情報、つまり「オシント」(OSINT)として分類して扱っている。
さらに、同政府はインテリジェンスの目的のために、場当たり的ながら、あえてフィクションからヒントを得ようとさえしている。
実例として、911後にペンタゴンは二十数人のハリウッドの脚本家や監督たちから将来起こりうるような不測の攻撃を想像してくれるようにたのんでいる。
さらに最近の話では、米陸軍の参謀長であるマーク・ミレー将軍は、2016年にシカゴのプリツカー軍事博物館における講話で、米軍は将来戦に必要となるものを学ぶためにSFを研究していると述べている。
たしかに現代において、戦いの本質が速い勢いで変わっていることは間違いない。現在実質的にCIAの長官を代行しているマイケル・モレルは、最近アトランティック誌で、今日ほど米国が様々な脅威にさらされている時代はないと述べている。それらを予期して対処するためには、ハリウッド級の創造性が必要になってくるはずだ。
このような理由から、フィクションと戦争の間の長年にわたる非公式な関係性から学ぶべきであろう。米国の安全保障機構は、このような推測的な研究を、一時的なものではなく、より正式なプログラムとして拡大させるべきである。
米陸軍は、将来戦を予期して対処するために、ビジネス界のリーダーや先端の技術者、さらには学者たちの知見を集めるための機関として、最近になって「未来コマンド」(Futures Command)の立ち上げを宣言している。
この司令部が設置されるのはすべてカリフォルニア州内の都市であると見られており、ロスアンジェルス、サンディエゴ、そしてサンフランシスコの名前が上がっている。
米陸軍はこの計画の中に、小説家や脚本家のような「戦略的想像者」たちを加えるべきであろう。「未来コマンド」やその他の機関では、「フィクション・インテリジェンス」を生み出す創造的な専門家たちが役立つはずだ。
ちなみに「フィクション・インテリジェンス」は国家安全保障の専門家であるオーグスト・コールによって「フィシント」(FICINT)と呼ばれているものだ。これによって次のアメリカに対する攻撃を予期し、その予防戦略を形成し、いざという時に実行できるようにするのだ。
マーガレット・アトウッドは映画「スター・ウォーズ」が911事件のハイジャッカーたちのインスピレーションとなったことを指摘して馬鹿にされたのかもしれないが、彼女の提案は全く信じがたいものというわけではない。
さらに彼女のその後の「SFの著者たちは将来に何が起こるのかを考える点では優れた才能を持っている」というコメントはまったく正しい。
米軍はこのような才能を公式に採用すべきであろう。911事件調査委員会の結論でも印象的なように、911連続テロ事件の失敗の重要な要素のうちの一つが、対処する側の「想像力」の欠如だったのだ。
映画「スター・ウォーズ」のように、われわれは「続編」を許してはならないのだ。
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著者は現役の米陸軍士官で、現在は陸軍士官学校のあるウェストポイントの研究員をつとめているそうですが、この種の話は戦略系の人間たちの間でも以前から非公式には論じられてきたことですね。
もちろん未来予測そのものはあまり当たるわけではないのですが、いざ紛争が起こった際に柔軟に対応するという意味では、このような「考えられないことを考える」という想定を普段から考えておくことは重要ですね。
それにしても米陸軍が「未来コマンド」を作るとはなんとも大胆なことを。
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