ISの無人機は恐ろしい? |
By W.J. ヘニガン2017-9/27
米軍関係者によれば、米軍の空爆と現地の武装勢力は、シリア東部における「イスラム国」(IS)のドローン計画を阻止したが、対テロ専門家たちはISによる安価なテクノロジーの画期的な使用のおかげで、似たような空からの攻撃が世界中で行われるようになると警告している。
ISの中でも特殊な訓練を受けた隊員たちは、四つのプロペラのついた小型ヘリ(クアドコプター)や飛行機型の無人機を何機か(ときには十何機も同時に)飛ばし、米軍の支援を受けた地上の武装勢力を偵察するためのリアルタイムの動画を撮影したり、イラクやシリアで簡易な爆弾を落としたりしている。
地上での作戦をネットで購入したリモコン式のこのような機器を使いながら回避することにより、ISのドローン部隊は、戦場における非対称的な戦術をはじめて成功させることになった。これは、アメリカのプレデターやリーパーのようなドローンが近代戦を劇的に変えたのと同時に起こったのである。
イラク政府軍が今年の七月に奪還したイラクの都市モスルをめぐる戦いの最中のことだが、十数人にのぼるイラク兵が、上空を飛行していた何機ものドローンから落とされた40ミリ手榴弾や軽爆発物によって死傷している。米軍の指揮官たちはこれを「殺人バチ」と呼ぶようになった。
後に米政府関係者が認めたように、これは米軍がベトナム戦争以来はじめて直面した、敵の航空機によって何もできないような状態の実現(敵に航空優勢をとられた状態)であった。しかもこの場合、航空機はアメリカのそれと比べて非常に小さなサイズだったのである。
小さな無人機は、これまでアメリカではホワイトハウス周辺や空港などの飛行制限地域でしか安全上の警告を引き起こすものでしかなかったわけだが、ドローンがますます入手可能になって性能も向上したことにより、専門家の中には「アメリカにとっての脅威となった」と論じる人もでてきた。
最近の上院の公聴会では新しく任命されたクリストファー・レイFBI長官が「われわれはテロ組織がドローンの使用に利益を見出していると考えています。海外ではすでに何度も実例が見られておりますし、これが国内で見られるようになるのも避けられないでしょう」と述べている。
「アメリカ対テロセンター」のニコラス・ラスムッセン所長も同じ公聴会の席で、他の法執行機関や航空監視官たちと連携して小さなドローンがテロ攻撃に使われるのをどのように防ぐのかを研究していると述べている。
同所長は「2年前だったら問題ではなかったのですが、一年前に問題化し、現在では深刻な問題となっております」と証言している。
ISはフィリピンやリビア、そしてイエメンにある傘下組織で、すでに警戒監視のためにドローンを使用している。アルカイダ傘下の組織はシリアで、へズボラはレバノンで、そしてタリバンもアフガニスタンで同じような使い方をしている。
米軍統合参謀本部議長のジョセフ・ダンフォード将軍は、同時期に開催された公聴会において、ペンタゴンはISのドローン対策で遅れをとっていることを認めつつ、「たしかにそれは大きな変化を生じさせましたし、その変化に対応しようとわれわれは今日、そして明日に必要となる能力の開発に向けて最大限の努力をしています」と述べている。
彼によれば、ドローンは「われわれが最も注視している脅威の中でトップに位置するもの」なのだ。
この脅威のおかげで、米陸軍は今年4月に現場の指揮官たちに対して小さなドローンの動きを警戒する監視官を設置するよう呼びかけるハンドブックを発表し、兵士たちに「対無人航空システムテクニック」(Counter-Unmanned Aircraft System Techniques)と呼ぶ訓練を行うよう命じている。
アメリカ特殊作戦軍の司令官であるレイモンド・トーマス将軍は、彼の部下たちが昨年イラクやシリア直面した「一番たじろいだ」脅威が、小さなドローンであったと述べている。
彼はモスルの戦いの一場面において、空がIS側の無人機に占められていて、イラク軍の作戦が「突然停止せざるを得ない状況に追い込まれた」こともあり、5月にフロリダ州のタンパで開催されたカンファレンスでは「ある瞬間には上空に12機もの殺人バチが飛んでいたこともありました」と答えている。
ペンタゴンはイラク軍がIS側のドローンを撃ち落としたり無力化するのを手伝う目的で、電波妨害機器をはじめとする特殊な機器を使おうとしており、他にも空中のドローンを無効化するレーザーや、小さな網を飛ばしてとらえるためのエアガンなどの開発に数百万ドルの予算の開発計画を立ち上げている。
これらの機器の開発は戦場において戦術レベルではあまり成功しておらず、イラク軍や米軍の支援を受けたシリアの部隊は自動兵器によって撃墜しようとしているが、これもうまく行っているとは言い難い。
その中でアメリカが頼っているのは、やはり空爆である。いくつかのケースでは、米軍側は(匿名情報であるが)撃ち落とした無人機のGPSデータを使って最初に飛ばされた場所を割り出しているという。
米軍の政府高官によれば、この2ヶ月間にわたってアメリカ側はIS側の無人機の基地や倉庫、それにパイロット訓練場などを複数破壊しているという。また、空爆によってイラクやシリアの間で無人機を調達・配備・武装している8人の指揮官を殺害したという。
バグダッドで対IS作戦を担当している部署の報道官であるライアン・ディロン大佐は、IS側の無人飛行機を飛ばすシステムの戦術面での能力を排除することを目指していると証言しており、「われわれは彼らのプログラムを破壊するのに、その武装担当者たちを殺害することによって行っています」と述べている。
これは明らかに成功しているようだ。アメリカ側から支援を受けた武装勢力はイラクとシリアで小さなドローンを7機見かけたと報告しているが、これは今年前半にモスル戦で60機見かけたという報告からすれば、かなりの減少である。
ISには中国、インド、そしてトルコなどから、ドローンを一般のホームページから購入する部門を個別に持っていたという。これをエンジニアたちがモーターなどの動力をパワーアップすることによって、滞空時間を伸ばしたり爆弾を落としたりできるように改造するらしい。
ウェストポイントの対テロセンターの分析官であるドン・ラッスラーによれば、ISは数年にわたる詳細な軍事戦略の一貫として、相手の防御態勢を圧倒させるようなドローンの戦術を使っていたという。彼は二人の同僚と共にモスルで回収したISのドローン戦略に関する内部文書を研究して後に発表している。
IS側は基準化された「ドローン使用報告書」を作成し、各フライト後に詳細を報告するように義務付けていたという。ドローンのパイロットは「バラー・ビン・マレク隊」に属しており、これはISの研究開発部門の下にあったらしい。
ラッサ―は「ISは戦場でドローンを使うにあたって正真正銘の官僚組織を設置していました。これによって他のグループにもこのテクノロジーを使ってどのような事ができるのかを示したと言えるでしょう」と述べている。
ワシントンの非営利シンクタンクである「新アメリカ財団」の研究員で著書『ロボット兵士の戦争』でも有名なピーター・シンガーは、ペンタゴンは不意打ちを受けており、まだその解決法を編み出しておらず、テロリスト側もこれに気づいているという。
シンガーは「この脅威は年ごとに高まるだけでしょう。もう後戻りはできません」と述べている。
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これはまさにテクノロジーにおけるパラドキシカル・ロジックのような現象でありまして、いままでこの分野で圧倒的な力を誇ってきたアメリカも、安価な似たようなテクノロジーの普及のおかげで優位を保てなくなってきたという興味深いケースです。
戦略には相手がおりまして、しかもこの相手はデクノボウではなく創造力を発揮して対抗してくるわけです。なので、一時的に有利な状態をアメリカ側が築けたとしても、これだけテクノロジーが発展した世の中であれば、敵側もそれに対抗する手段を容易に手にいれることができる、ということですね。
かくして彼我の非対称的かもしれないがダイナミックな関係が続くわけですが、日本の場合も東京五輪を控えていることから、このような話は他人事ではありません。ジャミングなどをはじめとする対抗手段も、米軍同様に今後ますます必要となってきそうです。
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