アメリカは軍事力の効用を忘れるな |
さて、久々に本の紹介を。
原題をそのままいえば「太い棍棒:ソフトパワーの限界と軍事力の必要性」ということになるでしょうか。
原著者は日本でも主張である「戦争と政治とリーダーシップ」が出ているために、ごく一部では有名な人物ですが、ジョンズ・ホプキンズ大学の教授であり、ブッシュ政権などで実務経験のある共和党系のネオコン派の学者であります。
実は今回の共和党政権にもトランプ候補でなければ政権入りが確実視されておりましたが、すでにかなり以前から反トランプの急先鋒であったために今回はあえなく「落選」してしまったという事情があります。
その内容ですが、簡単にいえば「軍事力というハードパワーの効力を忘れちゃだめだぞ」というもの。
だからこそタイトルはセオドア・ルーズヴェルトの「ソフトに語り、太い棍棒をもって」という有名な言葉から取られているわけですが、著者のコーエンが主張したいのは、アメリカが世界をリードする上で最も重要となる軍事力の「賢明な使い方」。
まずコーエンは、アメリカが直面している問題が複雑性を増していると指摘します。これが彼らの議論の大前提。
その論拠として、彼はアメリカが戦争を中東で実際に戦闘を行なっているにもかかわらず、同時に欧州やアジアではロシアや中国に対して「抑止」を行わなければならず、しかも国民には過去の戦時の大統領が享受できた「戦争を戦っている」という国民間の緊張感や高揚感はありません。
そのような複雑な状況をより明確にするために、コーエンは現在のアメリカが軍事的解決を必要とするような問題として直面しているものとして4つの要因を挙げます。それを列挙しますと、
1、中国
2、イスラム系の動き
3、少数のヤバい国(イラン、北朝鮮、パキスタン)
4、宇宙&サイバー空間
となります。
そしてこれに対してアメリカがどのように対処していくべきなのか、最後にコーエンはアメリカが対外政策において守るべき6つのルールを披露して終えます。
全体的に言って、戦略論を知っている人間にすればとりわけ珍しいことを言っているわけでもなく、むしろ「軍事力を忘れるな」というごく当たり前の主張をしているだけとも言えるわけですが、クラウゼヴィッツや孫子などを使って議論をしているあたり、意外に新鮮な議論に感じる人も多いかもしれません。
個人的には中国を明確に「ナンバーワンの脅威」と明言している点や、戦略の相互作用的な部分を強調している点、さらにはかなり政策文書的な意味合いも濃いという部分が気になりました。
ただしそれ以上に面白いと思ったのは、彼がわざわざ本で主張しなければならないほどオバマ政権では軍事力の有用性が軽視されてきたと(彼のような共和党系の識者が)感じていたことを教えてくれるという点でしょうか。
残念ながら面白さという点では彼自身の主著にはかないませんが、新大統領就任というタイミングという意味では、アメリカの国防関係者たちの間ではそれなりに話題になるかと。
根本的な面としては、アメリカの戦略系の人々の考え方や、そのロジックの立て方を知る上では参考になりそうな良書です。
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