「ネトウヨ」の対処に苦悩する北京政府 |
さて、フィナンシャル・タイム紙の北京発のコラムで、中国国内の政治状況に関する興味深い記事がありましたのでその要約を。
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北京政府はネット上のナショナリズムのコントロールに苦慮
by ルーシー・ホーンビー
昨年、台湾が本土への依存を減らす方向に積極的な政策を持つ総統を選んだ時、中国本土の数十万の「ネトウヨ」たちが台湾のウェブサイトを連携攻撃したが、これは北京政府自体も驚かせた。
中国のネトウヨたちはこの攻撃を「聖戦」(sacred war)と呼んだが、この中で台湾人のフェイスブックのページに親中的なプロパガンダを貼り付けまくったのだ。
そして現在、アメリカ次期大統領のドナルド・トランプが国際的な外交慣習を破ったおかげで、中国のネトウヨの炎上的な反応と、それを習近平主席が抑えきれるかどうかが、アジアが直面している多くの不確実性の一つとなっている。
過去においては数少ない本土の極右的民族主義者たちが敵視していたのは、日本だけだった。ところが若く積極的な発言をする世代の人々は、新たに戦いの場を広げ、台湾関係やアメリカ、それにイスラム圏とも戦いはじめている。
ある中国のネトウヨ・ブロガーは「歴史問題の多くは未解決のままだが、われわれは日本だけを標的にしてもダメです。米中関係も変える必要があります。なぜなら本当の原因はアメリカにあるからです」と述べている。
多くの中国のネトウヨは、中国のアジアにおける支配的な立場を獲得するのを影でさまたげているのはアメリカであると見ているが、それでも最近のトランプ氏への注目度の高さから、米国への潜在的な怒りは抑えられてきている。
このブロガーによれば、中国人はトランプ氏のことを「愛すべきキャラ」で「巨大な赤ん坊」だと見ており、「多くの中国人が持つアメリカ人のイメージを変えた」というのだ。
北京政府といえば、トランプ氏が先月に、それまで米政府のとってきた「台湾を認めずにその事実上の独立状態は支持する」という注意深い立場をいきなり崩したことに対して、厳格だが慎重な態度をとっている。
中国のネトウヨたちは、トランプ氏の動きに対して子ネコの動画で対抗している。その内容は、アメリカの旗のついた灰色のペルシャネコが、別の中国の旗のついたネコを叩いてエサの入った皿に手出ししないようにすると、叩かれたネコが隣のおとなしい台湾の旗のついた小さなネコを激しく叩く、というものだ。
ところがこのような皮肉的なビデオやトランプへの好意的な反応は、その底にある本土の中国人の大多数が(実質的に67年間独立状態にある)、台湾に対して「割譲できない」と感じている熱い情熱を、覆い隠す役割を果たしている。
もし北京政府の慎重な姿勢が一般国民の感情とずれていると感じられてしまうと、中国のネトウヨたちに力を持たせてその亀裂の幅を広げる可能性も出てくる。すでに中国のネトウヨたちは、中国軍による台湾への力の誇示をネット上で賞賛している。
習近平は前任者である胡錦濤が日本に対して強硬な姿勢をとっていなかったために国内から批判されていたことを目撃していたため、中国のネトウヨたちの情熱を抑えようとしている。習近平の「国家復興」(national rejuvenation)というレトリックが意味しているのは、中国が国際的に強く、国内では共産党が強いというものであり、これは中国のネトウヨたちの欲求を抑えることができている。
25年に及ぶ反日活動のおかげでプロの扇動家と呼んでも良いくらいの人物によれば、「習近平は国民の支持を得ているために、以前のような腐敗した政府よりも北京の立場は強くなっており、実質的に大衆的なナショナリズムは影響力を失っている」という。
彼のような古い世代の活動家は、新世代の中国のネトウヨたちを懸念している。ツィッターなどでつぶやくのは一瞬でできるが、本当の結果を生み出すような規律と戦略には長い時間がかかるからだ。彼らが慰安婦問題や島の領有権の問題を共産党の議題として認めさせるには、実際に長年かかっている。
中国のネトウヨたちに批判的な人々は「やつらの生活は貧しいが、それでも(紫禁城の西側にあって政府高官の集まる)中南海を恐れさせている」と指摘している。
彼らの見下したような態度は、低収入で職を得ることのできない、コンピューター・リテラシーのある何百万もの若者の厳しい生活が反映されたものだという。貧しい彼らも、ネット上では中南海の決定について意見を言えるからだ。
台湾への「仮想的侵攻」を企てている中国のネトウヨの一人は、中国のあるメディアに対して、自分たちの仲間は「壁の外の世界を覗こうとする好奇心の強い人間たちである」と述べている。北京政府は最終的に、ネット上の運動に負けてナショナリスト的な感情に押し流されてしまうはずだと言う人もいる。
新毛沢東派についての著作をもうすぐ出版する予定のジュード・ブランシェットは、「習近平、もしくは共産党抜きのナショナリズム論は実質的に消滅しました。混合的な立場に立つナショナリスト的な言説は、それがリベラル・保守に関係なく、はるか端の方に追いやられてます」と述べている。
ところが中国のベテランのナショナリスト的左派の識者は、ネット上で左派ナショナリストの議論が成熟してきた兆候を見てとることができると述べている。
「ナショナリズムだと単純な見方をする人々も多いが、実際その中のいくつかは中国が独自の思想を発展させたものです」と王文(Wang Wen)は語る。彼は以前は過激な編著者であったが、 現在は北京の人民大学内の重陽金融研究所の理事である。
続けて彼は、「われわれは過去20年間は西側に対する迷信的な信仰を持っていたが、現在はそれがはるかに少なくなってきてバランスがとれてきています。われわれは独自の道を見つけるべきでしょう」と述べている。
この道は、予期せぬ方向に行く可能性もある。昨年台湾のウェブサイトを仮想的に「侵攻」したネトウヨたちは、当然ながら「一つの中国」に疑問を持っていなかったが、北京政府の指示の下で動いていたわけでもないのだ。
彼らはただ単に、2017年に中国が直面するであろうリスクとチャンスに集団的に興奮していただけなのだ。
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ナショナリズム(右派)による突き上げというのは、北京政府にとってはかなりやっかいな問題ですね。
ウラジオストックの例でもありましたが「中華人民の国益をしっかり主張しない北京政府はいらない」という言説も出てきますと制御不能になるということでしょうか。
いずれにせよルトワックが『中国4.0』で指摘したように、トランプはその存在だけで世界に「ノイズ」を発生させていることがここでもよくわかります。
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