もしも「リアリズム」を使ってたら:その3 |
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●ここで疑問が出てくる。リアリストたちが過去25年間にわたって提言してきたアドバイスは、実際のところ、他のライバルたちのものよりも良いパフォーマンスをしてきたはずなのに、なぜ主要メディアではほとんど見かけないのであろうか?
●たとえばニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、ウォール・ストリート・ジャーナル紙のような媒体に、定期的に意見を書いているコラムニストたちのことを思い浮かべてみてほしい。
●この3つの新聞は、アメリカにおける最も重要な紙媒体であることは間違いないし、彼らがカバーするニュースや意見が、その他の多くの紙媒体の雰囲気に影響を与えている。各コラムニストたちは、講演や他のメディアにも登場するし、実務の世界の影響力のある人間たちと定期的につきあっている。
●そしてこの3紙とも、ほぼ実質的にリアリズムは登場できない状態になっており、とくにワシントン・ポスト紙とウォール・ストリート・ジャーナル紙は、国際政治やアメリカの対外政策におけるリアリスト的な視点に対して、公然と敵対的な視点を持っているとも言えるのだ。
●たとえばニューヨーク・タイムズ紙で、国際的なことについて定期的に意見を書いているコラムニストたちのメンバーのリストを見てみると「ネオコン」のディビッド・ブルックスが一人いて、その他に何人かの「リベラル国際主義者」たち(トーマス・フリードマン、ニコラス・クリストフ、そしてロジャー・コーエン)がいることがわかる。
●ロス・ドウサットは伝統的な保守派といえるが、彼は国際政治についてはほとんど書かないし、確実にリアリストではない。
●彼らの中にはもちろんいくつかの点で意見の違いはあるのだが、世界中におけるアメリカの介入主義については、あらゆる理由を使って雄弁に擁護する人々であることは共通しているのだ。
●ワシントン・ポスト紙に至っては、なんと4人の強烈なネオコン(論説編集者のフレッド・ハイアット、チャールズ・クラウトハマー、ロバート・ケーガン、そしてジャクソン・ディール)を雇っており、以前はウィリアム・クリストルまで採用していた。
●定期的に意見を書いているコラムニストには、ブッシュ政権の元スピーチライターのマーク・シエッセンやマイケル・ガーソン、それにかなり右よりのブロガーであるジェニファー・ルービンも含まれている。もちろん中道寄りのディヴィッド・イグナティエフもいるが、最近タカ派寄りになりつつあるリチャード・コーエンもいる。
●言うまでもないことだが、これらのコラムニストたちは「リアリスト」ではないし、全員がアメリカの海外での積極的な活動を強烈に支持している。
●ジェームス・カーデンとジェイコブ・ヘイルブルンが去年ナショナル・インタレスト誌で分析していたように、ハイアット編集長はワシントン・ポスト紙を実質的に「全く後悔をしていないタカ派知識人のための拡声器」にしてしまったのであり、現在では同紙の論説欄を「アメリカにおける、最も向こう見ずなページ」にしてしまったのだ。
●ここではっきりさせておきたいのは、私がこれらのコラムニストに発言の場を与えるのを悪いことであるとは思っていないということだ。私が上で挙げた多くのコラムニストたちの意見は、実際読むのに値するものばかりだ。
●ところが不思議なのは、現代の世界政治についてもっと明快なリアリスト的視点を示す人が一人もいない、という事実だ。この3紙にはごくたまにリアリスト的な見解が反映されたゲストのコラムニストの意見がたまに出るが、リアリスト的なアプローチを主張するようなレギュラーのコラムニストは、一人もいないのである。
●私がいま書いているフォーリン・ポリシー誌(もしくはナショナル・インタレスト誌)のような専門誌には、わずかな数のリアリストがいるが、アメリカのジャーナリズムのトップ層にはおらず、フォックスやCNN、さらにはMSNBCのような主要放送局にはさらに無理だ。
●なぜこれらの3つメディアは、リアリスト的な視点をそこまで恐れているのであろうか?しかもリアリストたちのほうがいくつかのとても重要な問題では(ほぼ)正しかったわけであり、しかも彼らが掲載していたコラムニストたちのほうが間違っていたことが多かったのだ。
●私はその答えを本当に知らないが、おそらくそれは現代の対外政策の分野の識者たちが、アメリカを本気で繁栄させてより安全にする可能性の高い政策を教える冷静な考え方を提案するよりも、「希望」や「理想」を追求したり推進したりすることばかり狙っているからかもしれない。
●また、アメリカはすでに強力かつ安全であるため、非現実的な目標を何度も追求でき、われわれの善意から発生した不運な犠牲者を生み出してもやっていけるだけの余裕があるのかもしれない。
●ここで私は、ルパート・マードックやジェフ・ベゾス、それにザルツバーガー家などの大手メディアを動かす人々に、あえて挑戦してみたい。リアリストを雇うのはいかがだろうか?
●もし何人か提案して欲しいというのであれば、たとえばポール・ピラー(Paul Pillar)、チャス・フリーマン(Chas Freeman Jr.)、ロバート・ブラックウィル(Robert Blackwill)、スティーヴ・クレモンズ(Steve Clemons)、マイケル・デッシュ(Michael Desch)、スティーヴ・チャップマン(Steve Chapman)、ジョン・ミアシャイマー(John Mearsheimer)、バリー・ポーゼン(Barry Posen)、アンドリュー・ベイセヴィッチ(Andrew Bacevich)、もしくはダニエル・ラリソン(Daniel Larison)などが挙げられる。
●彼らに週一回のコラムを頼めば、購読者たちに対して「国際政治において包括的かつバランスのとれた意見を提供しております」と本気で主張できるはずだ。実際のところ、あなたがたは何をそれほど恐れているのであろうか?
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考えさせられる記事です。
ただしいくつかのポイントを。まずリアリストがアメリカの不要な介入を反対していのは確かですが、だからといってその反対のことを実際に行えるかどうかというのは、まさにその政策の提案と実行は別物であるという点で微妙かと。
さらに付け加えると、リアリストの意見はどうしても表面上は「冷酷」なものに聞こえますし、人権を無視しているようにも見えるので、公的なアピールがしにくい面があるんですよね。
つまり「国民を焚き付けて世論を味方にする」ということがしにくいために、本当は重要であったとしても、非常時以外はどうしてもリーダーとしては採用しずらいことになる傾向が。
やっぱりメディアは庶民の耳に聞こえのいいことを書いてくれる人を求めるものなので、しょうがない部分はあるのかなぁと私は悲観的です。
ということで、明日にはこのコラムに対する反論記事の要約を掲載してみたいと考えております。
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