ミアシャイマーの「台湾さようなら」論文:その2 |
さて、昨日のエントリーのつづきを。ミアシャイマーの台湾論文の第2弾です。
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台湾に「さようなら」を言おう
by ジョン・ミアシャイマー
安全保障に関係したロジックのほうは話が別である。そしてこれは「中国の台頭」という話と切り離すことができない。
とくにこれは、以下のような直球そのものの深刻な質問に関係しするものであると言える。それは、「時間を経て強力になるにつれ、中国はアジアでどのような態度を見せるようになるのだろうか?」というものだ。そしてそれに対する答えは台湾にとっても明らかに大きな結果を伴うものだ。
台頭する中国が周辺国やアメリカに対してどのような態度をとるのかを予測するための唯一の方法は、大国政治の理論を使うことだ。
われわれが理論に頼らなければならない主な理由は、われわれにはまだ起こっていない「未来」についての事実を持っていないからだ。
トマス・ホッブスはこの点について、「現在というのは本質的に形成されつつあるものであり、過去の出来事は記憶の中だけに生きているものである。ところが未来の出来事というものはそもそも存在してもいない」とうまく指摘している。
したがって、われわれは世界政治においてこれから何が起こるのかを見極めるためには、理論に頼る以外の方法は残されていないのだ。
私の提唱する国際関係の現実主義の理論によれば、国際システム(the international system)の構造によって、安全保障に懸念を持つ国々は互いにパワーをめぐって競争に駆り立てられる、ということになる。
そしてその中の主要国の究極のゴールは、世界権力の分配を最大化することにあり、最終的には国際システム全体を支配することにあるというものだ。
これが現実の世界に現れてくると、最も強力な国家が自分のいる地域で覇権を確立しようとする動きになり、ライバルとなる他の大国がその地域で圧倒的にならないように動く、ということになる。
さらに具体的にいえば、国際システムには大きくわけて3つの特徴があることになる。1つは、このアナーキー(無政府状態)のシステムの中で活動している主役は国家であり、これは単純に「国家よりも上の権威を持つアクターが存在しない」ということを意味する。
2つ目は、「すべての大国が軍事的にある程度の攻撃力を持っている」ということであり、互いに傷つけあう能力を持っているという事実だ。
3つ目は、「どの国家も他国の意図を完全に知ることはできない」ということであり、これはとくに未来の意図の場合は不可能になるということだ。たとえば2025年の時点でドイツや日本の意図が周辺国に対してどのようなものになっているのかを知るのは単純には不可能だということだ。
他国が悪意を持つ可能性があり、しかもそれなりの攻撃力を持つ世界では、国家は互いを恐れる傾向を持つことになる。そしてこの恐怖は、アナーキーな国際システムの中に何かトラブルがあっても大丈夫なように国家を一晩中見張ってくれる、夜の警備員のような存在がいないという事実によっても増幅する。
したがって国家というものは「国際システムの中で生き残るための最良の方法は、潜在的なライバルたちと比べてより強力になることにある」と認識しているものだ。ある国家の力が強ければ強いほど、他国は攻撃をしかけようとは思わなくなるからだ。
たとえば「カナダやメキシコがアメリカを攻めてくるかもしれない!」と恐れているアメリカ人はいないのだが、これはこの2国がアメリカと戦おうと考えられるほど力が強くないからだ。
ところが大国というのは、単に大国の中で最強になろうとするだけ(もちろんこれは歓迎すべき結果かもしれないが)ではない。
彼らの究極の狙いは「唯一の覇権国」(the hegemon)になることであり、これは国際システムにおける唯一の大国になるということを意味する。
現代の世界において「覇権国」になるということは、一体何を意味するのだろうか?
いかなる国にとっても、世界覇権国になることはほぼ不可能である。なぜなら、世界中でパワーを維持しつつ、遠くに位置している大国の領土にたいして戦力投射することはあまりにも困難だからだ。
そうなると、せいぜいできるのは、自分のいる地域で圧倒的な存在になり、地域覇権国(a regional hegemon)になることくらいなのだ。
たとえばアメリカは1900年あたりから西半球における地域覇権国となっている。もちろん今日の世界においてアメリカは最強の国家だが、それでも「世界覇権国」(a global hegemon)ではない。
地域覇権を達成した国というのは、それ以上の狙いを持つものだ。彼らは他の地域にある他の大国が自分と同じようなことを達成するのを阻止しようとするのだ。いいかえれば、地域覇権国というのはライバルを持ちたくないものだ。
彼らは他の地域をいくつかの大国が林立する状態にしておきたいと思うものであり、これによってこの地域にある国同士は互いに競争し、自分の方に向けられるエネルギーの集中を不可能にしてしまえるのだ。
まとめて言えば、すべての大国にとって理想的な状態は「世界の中で唯一の地域覇権国になること」であり、現在のアメリカはこの高いポジションを享受できていることになる。
この理論に従えば、将来台頭してくる中国は、一体どのような行動を行ってくるのだろうか?
この答えをシンプルに言えば、「中国はアメリカが西半球を支配したような形で、アジアを支配しようとする」ということになる。
中国は地域覇権を目指すようになる。とくに中国は自国と周辺国(とくにインド、日本、そしてロシア)とのパワーの差を最大化しようとするはずだ。とにかく最も強力になって、アジアの他の国々が自分のことを脅せるような手段を持てないようにすることを目指すはずなのだ。
ところが、これは中国が他のアジアの国々で暴れまわって征服することができるほどの軍事的優位を追及しているということでは(もちろん常にその可能性は存在するが)ない。
むしろより実情に近いのは、中国が自分に許される行動の範囲を拡大して、それを周辺国に認めさせたいということだ。そしてこれはアメリカが南北アメリカで自分がこの地域の「ボス」であることを認めさせていることと近い。
また、中国がさらに強力になれば、アメリカをアジアから追い出すことになるのは確実であり、これはアメリカが19世紀にヨーロッパの列強を西半球から追い出したのと同じなのだ。われわれは中国が1930年代の日本がやったように、独自の「モンロー・ドクトリン」を持ちだしてくることを予測すべきなのだ。
そしてこのような目標は、中国にとっても戦略的な合理性を持つものだ。北京政府は日本とロシアを軍事的に弱めたいと思うものであり、これはアメリカが隣国であるカナダとメキシコを軍事的に弱いままにしておきたいと思っているのと同じである。
まともな考えを持つ人物であれば、自分のいる地域に強力な国家が位置している状態は避けたいと思うはずだ。その証拠に、すべての中国人は、日本が強力で中国が弱かった過去の2世紀に起こったことを、確実に覚えているのだ。
さらにいえば、強力になった中国は、自国の裏庭で米軍が活動している事実を受け入れようとは思わないはずだ。
これと逆にことを考えてみればわかりやすい。アメリカの政策家たちは、西半球に他の大国が軍隊を送り込んできた場合には激怒するはずだ。この外国の部隊は、アメリカの国家安全保障に対する潜在的な脅威と見なされることは確実なのだ。
そしてこれと同じロジックが、中国にも当てはまる。米軍が自国の玄関口に派兵されていることについて、中国は全く安心できないのだ。モンロードクトリンのロジックに従えば、中国の安全保障は、米軍をアジアから追い出すことによって改善することになる。
これらの疑問に対する答えは、当然のように、すべて「ノー」だ。だからこそ、中国はアメリカを真似して、地域覇権を目指す公算が高いことになる。
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今回は自身のオフェンシヴ・リアリズムの理論の説明がメインでした。次回はいよいよアメリカの対アジア政策などの本論に入ってきます。
つづきはまた後ほど。
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