台湾有事シナリオ |
さて、私がお世話になっている国際地政学研究所が、11月15日になんと“Coming War with China”という刺激的なタイトルのワークショップを開催するという企画を立てておりまして、その議題のためにいくつかの衝突シナリオを考えております。
もちろん中心になるのは尖閣をめぐる日中衝突シナリオなんですが、それよりも大規模になる可能性をもつ、台湾有事シナリオについても検討中です。
その参考のためと言ってはなんですが、私が知っているアメリカのある本(未訳)の中に、その叩き台となりそうな台湾有事シナリオがありましたので、その該当部分を以下に要約しておきます。
もちろん以下はあくまでも「シナリオ」でして、フィクションであることをお忘れなく。
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●危機の開始は二〇一七年の三月。
●この数年前から北京政府に対する民衆のデモは、経済状況の厳しさが増す度に、段々と激しくなってきていた。
●様々な要因(環境悪化、一人っ子政策、福祉政策の欠如、政府の腐敗など)から国内の情勢が不安定になるにつれて、李全国家主席はいくつかの演説で間接的に生活水準の悪化を認めつつ、その原因として、中国の「調和的な勃興」の阻止を企む「海外勢力」の要因を指摘するようになった。
●しかもこの「海外勢力」の中心にいるのは、日本とアメリカ。
●この「敵対勢力」は、原油をはじめとする石油価格を高止まりさせ、不平等な貿易システムを押しつけ、中国国内の不満分子を煽り、台湾に中国本土への投資をやめるように迫っている、というのだ。
●この声明発表が行われたのは四月一六日だが、その二日後にアメリカ初の女性大統領MCは,
記者会見でこれを懸命に否定。
●アメリカ側の経済学者などは、このような経済状態の不振は、むしろアメリカの経済状態の悪化に起因すると結論。
●ところがこのような指摘を意に介さない李主席は、五月一日のメーデーの演説で、中国の平和的な勃興のために必要となる三つの「新提案」を披露する。
●第一は台湾に独立に関する議論をすべてやめて、本土側にさらに投資をするように促すこと。
●第二はアメリカに対して周辺地帯における基地や同盟関係などから手を引き、中国の「包囲」を即刻中止すること。
●第三はアメリカにたいして、湾岸地域の産油国に圧力をかけて原油価格を下げるように求めることである。
●ところがこの年の二月の時点で、中国政府高官たちはすでに台湾問題を「実力で解決」する決心をしていたという報道が出てくる。このカギとなったのが中国民衆が求めている「ナショナリズム」の動機だという。
●五月から六月にかけて、北京政府の首脳部は台湾問題について、台湾側に圧力をかけはじめる。
●北京側は「台湾が急速に独立に向かっており、核兵器を獲得する可能性まで検討している」というインテリジェンス機関が得た秘密文書の存在を発表する。もちろん台湾側はこの文書の存在を否定。
●ところが中国(とロシアとイラン)はこの文書を非常に問題視するようになる。
●五月末になると中国側の軍の動員の兆候が確認され、米政府高官たちの間で緊張が走る。大統領も安全保障会議でこの件について集中的なブリーフィングを受けたことがワシントンポスト紙に報道される。
●まずその兆候として見られるのは、この二ヶ月間だけで、従来の中国からと思われるサイバー攻撃の量が2倍になり、軍事関連施設のコンピューターへの侵入の量は3倍になったこと。
●五月二〇日には、人民解放軍が対衛星(ASAT)撃墜実験を突然行い、これは中国自身の古くなった衛星に対して、地上からのレーザーシステムを使って行われたもの。
●アメリカの諜報機関によればこの実験は成功しており、しかもアメリカ側の衛星を一時的に「盲目」にする能力もアップしたことが確認されたという。もちろん中国側は以前からこのような能力を開発していることを頑に否定している。
●またインテリジェンス機関の情報によれば、人民解放軍の海軍が潜水艦の能力を増強しており、すでに本格的な連携した動きをするための演習を計画しているという。もちろんこれは東アジアのシーレーンの安全にとっては悪夢。
●さらには(戦略核ミサイルを担当する)第二砲兵隊も準備のために動いているとされ、台湾や日本に一番近いところにすでに部隊を移動させているという報告もある。
●また、北京政府の高官たちが戦時に司令部を移すと見込まれている、内陸部での活動も確認されているという。
●アメリカ側は、中国の内陸部まで爆撃機を使って攻撃できるわけではない。B-2が使えるのも夜だけ。アメリカの航空戦力はちょうど近代化を完成させるギャップのところにあり、爆撃機も潜水艦からのミサイルも足りない。
●しかも前方展開している基地にある核兵器などは、すでに中国側の長距離ミサイルの射程に入っているおかげで脆弱になっているために使用できない可能性が高い。
●ところが四月から五月にかけては人民解放軍の陸上部隊に大規模な動きは見られず、台湾に対する揚陸艦などの準備も見られない。
●このおかげでアメリカの何人かの政府高官や軍関係者は、「中国は前回の台湾危機の時と同じように、ただハッタリをしかけているだけだ」と安心してしまった。
●まだ一年半しか政権についていないMC大統領は、極東の同盟国たちに対して自国と味方の国益は守ると宣言しつつ、中国を刺激しないようにするというジレンマを抱えながら状況に対応していかなければならなくなったのだ。
●そして運命の演説は6月22日に行われた。李主席は、日本とアメリカが台湾を公式に独立宣言を出させる手助け(核武装を含む)をしており、中国を封じ込めて面子をつぶそうとしていると非難した。
●そして台湾の「反乱分子」を阻止するためにわれわれは準備を始めていると宣言をし、さらには中国の「領海内」を航行するいかなる船も、潜水艦で撃沈されるおそれがあると警告した。
●また、台北の港への航路に高機能の機雷を設置。これによって、台湾は事実上の海上封鎖状態に陥ることになった。
●また、第二砲兵隊もこの海上封鎖作戦を支援する行動に移り、台湾で大規模な原油タンカーが入港できるたった二つの港に照準を定めた。
●これによって、中国は一発も銃を発射せずに戦争状態に突入したことになる。
●他にも李主席は、中国の「領空」に入ってきた衛星は、どの国のものであっても人民解放軍の空軍によって撃ち落とすと宣言。
●最後に、李主席は台湾に関して干渉してきた場合、それがいかなる国であったとしても「中国と宣戦布告した」と見なすことを強調して演説を終えた。この場合に念頭におかれていたのは、もちろん韓国と日本、それに中央アジア諸国に点在する、米軍の基地である。
●ところが予想に反して台湾は北京側の強力な圧力に屈せずに、外国に協力を要請した。六月二四日の報道によれば、台湾首脳部はこの海上封鎖でも二ヶ月くらいは持つと判断しているという。
●海上封鎖は国際法的にみれば明らかに戦争行為であるため、国連安全保障理事会は同日に緊急召集されたが、拒否権を発動した中国によって物別れに終わる。
●しかもロシアは北京を支持しながら「台湾こそが侵略者だ」と非難する決議を逆に提案。米英はその意見に反対を表明。
●六月二八日にはアメリカと日本が台湾を間接的に支援するために、中国からの輸入品に検閲強化を準備していると発表。これに対して李主席は猛烈に反発し、日米は中国の平和的な勃興を崩そうとしていることを「確認した」という声明を出す。
●そしてその翌日には前日の声明を裏付けるような動きを大統領が確認。中国側はアメリカの(民間を含む)情報インフラに対して大規模な攻撃を開始したという証拠が出てきた。
●主な攻撃先は、ペンタゴン内のコンピューターネットワークと、ニューヨークの株式取引所に対するもの。これによって取引は二日間停止した。
●また、人民解放軍海軍の潜水艦は「演習」と称して世界中の海上石油・天然ガス施設などに攻撃を開始。中国はアメリカと日本に向かう石油の流れを止める覚悟があることがここで明確になる。
●さらに、「他の潜水艦部隊が台湾周辺に潜んで米艦隊の到着を待機している」という情報も出てきた。
●また、第二砲兵隊は通常弾頭のミサイルにより、東アジア周辺の石油・天然ガス施設に照準を定めたということがアメリカのインテリジェンス機関の情報によってもたらされた。
●ここでアメリカ側の緊急安全保障会議のメモがリークされた。前回の台湾危機のような状況の再現になれば、米海軍にとっては「自殺行為」になるというアドバイスがなされたという。
●しかもこの会議で説明されたのは、アメリカ側にはそれを阻止するのに十分な原潜の数が足りないということだった。
●またアメリカ側にとって不利なのは、沖縄とグアムにある米軍基地がすでにミサイルによって狙われているということであり、これによって陸上の航空基地を使っての空爆作戦は不可能になりつつあるという報告がなされたという。
●このような事情から、航空機を移動させるかどうかで会議内で激しいやりとりがあったのだが、国務省長官はそういうことをすれば日本側が「アメリカに見捨てられた!」と感じてしまうと力説。
●これについての大統領の判断は、とりあえず移動はしないが、状況が変化したら日本側に緊急で通達をする、というもの。
●国防省側はグアムに長距離爆撃機を緊急配備することを提案。しかし中央アジア諸国は自国へのアメリカの爆撃機の配備についてはかたくなに拒否。
●こうなると爆撃機は中国内のターゲットのほとんどをカバーできないために、ミサイルの使用を考慮に入れなければならなくなるが、大統領はこれも中国側を刺激するとして却下。
●さらに国防省長官は、中国がアメリカの指令系統(C4ISR)をダウンさせるだけの能力があると進言。とくに中国は衛星システム全体をダウンさせることが可能。
●もちろん日米は協力して台湾の海上封鎖状態を助けることができるかもしれない。たとえば中国から北米のほうに伸びている海底ケーブルをカットしたりできるのだ。これに対して中国側は紛争をエスカレートさせることができよう。
●結局のところ、米統合参謀本部は核兵器を使う覚悟がないかぎり、台湾を助けることができないと結論づけた。
●この紛争が世界戦争に急速に展開していくのをおそれた大統領と日本の金井首相は、北京にたいして「これ以上紛争の拡大を望まない」というメッセージを伝え、臨検を停止することを示唆している。
●ところが中国側の返答は「われわれの主権は取引できない」として提案を拒否。再びボールは日米側に戻されることになる。
●ここで彼らにとっての選択肢は二つに一つだ。戦争か、降伏かである。
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以上でシナリオは終了しておりますが、けっこう中国側の動きが激しいものとして描かれているような気が。実際の北京政府はここまで断固とした態度をとるのか微妙な感じがしますが・・・・
ということで参考まで。