ベンチャー企業の地政学 |
さて、IT系企業の立ち上げに必要なベンチャーキャピタルについての興味深い記事がありましたのでその要約を。
内容はヨーロッパではなぜフェイスブックのような企業が育たないのか、その考察です。けっこう「地政学的」な話だったのでビックリ。
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ヨーロッパのテクノロジー会社の立ち上げの苦労
●パリ郊外のヌイイ=シュル=セーヌのオフィスビルの上階には、ネットビジネスで一旗揚げようとする若者が集まっている。
●彼らは次のグーグルやフェイスブック、それにジンガなどを狙っているのだが、シリコンバレーと違って、何かが足りない。
●それは、マネーである。
●アメリカのシリコンバレーでは、ネットビジネスを開始しようとすると、ベンチャーキャピタリストたちがかなり初期の段階から資金を用意してくれることが多い。
●ところがヨーロッパではビジネス立ち上げの資金を得るまでかなり長いこと待たなければならないことが多く、しかもその資金源が、なんとフランスの福祉手当だったりするから驚きだ。
●ある人物によると、最もビジネスの立ち上げに「やさしい場所」とは、フランスでは失業手続き事務所だという。
●ヨーロッパでは経済状態が悪くなっており、ほとんどの大企業は人員削減をしているなか、これから成長が見込まれるのは、新しいテクノロジーを使った小さなベンチャー企業だ。
●ヨーロッパの経済界は、全体的な経済状況が悪いながらも、アメリカでフェイスブックのような会社が生まれていることをうらやましく思っている。なぜならヨーロッパの将来の経済成長をささえるのはそのような小さな企業だと知っているからだ。
●ヨーロッパ自身もハイテクによるイノベーションが重要であることを十分わかっており、さまざまな方針を打ち出しているのだが、現在までの結果はそれほど芳しいものではない。
●たとえばボストンコンサルティングによると、ネットビジネスは2010年の時点でアメリカのGDPの4.7%を占めるが、ヨーロッパでは3.8%である。
●そして興味深いのは、北欧諸国のほうが一般的に上手くやっており、相対的に南のヨーロッパの国々はダメである。
●しかもヨーロッパ内では、フェイスブックやアマゾンやアップルなどのほうが、本国よりもヨーロッパのマーケットでの占有率が高かったりする。
●もちろんヨーロッパにもネット企業で有名なものがある。アングリーバーズというゲームを大ヒットさせたRovioや、音楽のストリームサイトであるSpotify、それにSoundcloudという音楽の共有サイトなどだ。
●ヨーロッパでここ数年最もネット企業の設立が盛んなのはベルリンで、ここはロンドンと肩をならべる位になっている。
●ところがヨーロッパのネット企業のほとんどに共通する問題は、国の壁を越えるのがむずかしいという点だ。
●世界的な企業に発展するには、アメリカや日本にある巨大なネット企業に身売りするというのが一般的な形になっている。その典型がTweetDeck やLastFM, それにPriceMinisterである。
●ではなぜヨーロッパはグーグルやフェイスブックをつくれないのだろうか?その理由はかなり複雑だ。
●ある人は、ヨーロッパのベンチャーがシリコンバレーのものをマネしすぎだと分析している。またある人は、ヨーロッパの企業には野心的な野望がないと言っている。またまたある人は、ヨーロッパのマーケットが細かく言語や法体制の違いなどで分裂していることを挙げている。
●ところがブリュッセルのある研究所によれば、ヨーロッパのベンチャーに全て共通している点が一つある。それはリスクのある事業に融資しようという資金、とくにプライベートキャピタルの少なさである。
●とくにヨーロッパの大陸系の投資家たちは、ドットコムバブルがはじけた時に痛手を被ったからだ。ベンチャーキャピタルにつぎ込む投資額は二〇〇七年からはじまった金融危機で下がってきている。二〇〇七年には82億ユーロだったものが、二〇一〇年には32億ユーロまで下がっているのだ。
●ちなみに去年は48億ユーロに戻している。
●驚くのは、緊縮財政が唱えられているにもかかわらず、ヨーロッパでは税金がベンチャーキャピタルの最大の資源となっていることだ。しかもこれらの資金は直接ビジネスの設立資金としても使われいる。
●たとえばフランスの国富ファンドはパリにあるViadeoというソーシャルネットワークの会社や、動画のシェアサイトであるDailymotionに直接出資しているのだ。
●政治家たちもシリコンバレーのような国内環境づくりに努力しはじめている。たとえばイギリスはキャメロン首相が二〇一二年のオリンピックの跡地にIT企業を誘致して特区化する構想を出している。
●ロシアはスコルコヴォという町をシリコンバレー化する計画だ。フランスはサクレーと呼ばれる地区にIT特区を作っている。
●ところがこのフランスの計画はすぐに実を結ぶわけではない。ここにできる予定のパリ・サクレー大学は二〇一四年までオープンしないし、そこに住む住居環境も二〇三〇年まで完成しないという。
●面白い動きとしては、シリコンバレーの投資家たちがヨーロッパに投資しようとしはじめている点であろう。しかしアメリカの投資家たちの特徴は、すでに動き出しているプロジェクトに資金を提供するというものだ。
●よって、ヨーロッパ側の矛盾は、プロジェクトを始めるには金がいるのだが、金を調達するにはまずプロジェクトがすでになければダメ、という悪循環の存在なのだ。
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非常に興味深い。新規IT事業の立ち上げに必要なのも、やはり「パワー」という意味でのマネーなんですな。ヨーロッパ内の南北差なども地政学的。
そして地理的に言語やルール、それに文化が統一されているアメリカ(と日本?)のほうがベンチャー企業には都合が良い、というのも何かを示しているような気が。