【本の紹介】覇権支配システム -力の均衡と世界の民主化 |
さて、久々に本の紹介を。
『覇権支配システム -力の均衡と世界の民主化』by 吉田亮太
一言でいいますと、いまどきの日本では非常に珍しい、強固な「リアリズム」によって書かれた本です。
どうやら著者の修士論文を本にしたもののようで、本文は162ページのハードカバー。新書でもやや薄い感じの印象をうけます。
具体的な内容は、強固なリアリズムの理論から、主権国家がいまだに主要アクターである国際システムにおいて、主権国家同士は平等というのは幻想にすぎず、力(パワー)によって優越がついた世界であり、その究極の形が(アメリカの)覇権である、というもの。
著者の論じるスタイルはあくまで攻撃的で、古今東西の豊富な例を引用しながら、いかにリアリズムが優れた見方なのか、そして国際社会はいかにパワーを争うことで成り立っているのかということを、かなり刺激的な断定調で議論しております。
もちろんミアシャイマーやウォルト、それにモーゲンソーやウォルツの名前がバンバン出てきます。
紙面的な制約からか、一つの理論を考察したり、またはそこから政策提言をするというタイプの本ではないのですが、それでもリベラル的なものの見方はいかに効力のないものなのか、そして国際政治を本当に動かす力には成り得ていないことなどを、これでもかといういうくらい完膚無きまで論じ切っておりまして、よくこんな本が日本で出せたなあと、その著者と出版社の勇気に拍手を送りたくなってしまうほど。
個人的に気になったことは、覇権についての本なのに、なぜかこの覇権についての基本文献であるグラムシや一極論系のギルピンやウォールフォースなどのの議論への言及がないことや、学術書としては参考文献の数がやや少ないこと、そしてリアリズムに対する批判文献などについての反論などが足りないところでしょうか。
それでも国際政治の厳しい現実を思い出す訓練として、この本はかなり貴重な存在であり、しかも日本語でこういう本が出てくるとは今まで思いもしなかったので、とても新鮮。
学術的な体裁の本ですが、国際政治をネタにして知的挑戦や刺激を求める方には超オススメです。