中国海軍による侵略の歴史 |
さて、久々に話題の論文の要約シリーズを。ただし要約というよりも、ほぼ翻訳状態になってしまいました。
ネタは尖閣問題で注目されている中国海軍の「侵略の歴史」についてです。なかなか面白い。
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中国海軍による侵略の歴史
by ラウル・ペドローソ
● 9月7日に日本の海保が船を二回ぶつけてきた中国漁船の乗組員を拘束。その船長には最高三年の実刑の可能性のある罪の疑いがあった。
● この事件は米中両政府の交流は遮断されて、中国側は閣僚級の交流や東シナ海のガス田についての協議の中止、それにレアメタルの輸出禁止をちらつかせ、しかも軍事施設をビデオ撮影していたという四人の日本人を拘留。
● 日本側はこの圧力に負けて9月末に船長を解放した。
● 批評家たちは、この事件が「中国が周辺国に対して侵略的になってきた証拠だ」と指摘。
● しかしこれはなにもつい最近はじまったことではなく、むしろ南シナ海、東シナ海、黄海などでは数十年前から続いている流れの一環にすぎない。
● 海洋の境界を広げ、紛争中の島々や海底資源の主権を主張したり、太平洋の米海軍に対抗しようとする際に、中国は軍事力や脅しを使うことに全くためらいを感じていないのだ。
● この歴史からわかるのは、もしアメリカが太平洋西部の沿岸地方を北京政府の支配下に落ちることを防ぎたいというのならば、彼らはいずれ中国側の影響圏の拡大に毅然とした態度をとらざるをえないことになる、ということだ。
● 中国が最も侵略的なのは南シナ海であり、ここではいくつもの紛争を起こしている。
● たとえば1974年にはアメリカがベトナム戦争から撤退する隙をついて中国は(南ベトナムが支配していた)パラセル諸島に侵攻しており、今日まで非合法的な支配を続けている。
● 長年にわたって中国はこの諸島に軍事駐留を続けており、南シナ海での作戦に使われる航空基地や情報監視施設を建設している。
● ベトナムに対する中国の侵略はその後も続いており、たとえば2005年1月には中国側の軍艦がベトナム領内で操業していた漁船の乗組員9名を射殺している。2009年には17隻のベトナムの漁船を拿捕し、乗組員を合計210名も拘束している。
● 2010年4月には南シナ海全域にたいして漁業資源の保護を理由に、一方的に操業停止を宣言している。
● ベトナム側はこの海域で何百年間も操業してきた歴史をもっており、ハノイ政府はこの宣言を「中国の深刻な主権侵害だ」と受け止めている。
● 中国側も経済制裁に出ており、BPやエクソンモービルに対して「もし南シナ海でベトナムとの合弁事業を続ければ中国本土でのビジネスチャンスを失うことになるぞ」と警告している。
● 中国はベトナムだけでなく、たとえば1995年にはフィリピンの(パラワン海峡という戦略的に重要なシーレーン上にある)ミスチーフ岩礁を占拠している。
●フィリピン側の撤退要求にもかかわらず、中国はこの岩礁に軍事施設を不法に建設しており、ここにある中国海軍はマラッカ海峡やシンガポール海峡からフィリピンや北東アジアににらみを効かせることができるようになっている。
● 中国側の艦船や航空機は、南シナ海を通過しているアメリカの船や飛行機に対して何度も妨害行為を行っている。
● 最も知られた事件は2001年4月に起こった、中国側のF-8戦闘機とアメリカのEP-8監視機が衝突して中国側の空港に緊急着陸したことだ。乗組員は2週間以上拘束されている。
● 2009年3月には中国の政府の船3隻と商船2隻とが海南島75海里ほどの南シナ海にいた調査船インペッカブルを脅しており、緊急停船させている。またそれから数ヶ月後には中国側の2隻の漁船が似たような形でアメリカのヴィクトリアスを妨害している。
● 北京政府はどうやら民間の船を近づけさせて沿岸の海に近づけさせないようにする、いわゆる拒否戦略を使っているようだ。そして北京政府はアメリカ側の中国海洋政策についての発言内容について、かなり敏感になっている。
● 2010年7月に中国は南シナ海で史上最大スケールでの軍事演習を行っており、これには三つの管区のすべての船が参加している。
● この演習は、ヒラリー国務長官がASEANの地域フォーラムで「アメリカの国益は、航行の自由や、アジアの“海洋コモンズ”へのオープンなアクセス、そして南シナ海の国際法の遵守にある」という発言の後に行われたものである事実は重要だ。
● 北京政府は明らかに南シナ海を自国の地政学的碁盤の重要な一角を占める場所であると考えている。その証拠に、今年の三月に北京政府は南シナ海を中国にとっての「核心的利益」であると宣言しており、しかもこの名称は、いままでチベットや新僵、それに台湾などにしか使われたことがない。
● 北京政府の東シナ海に対する政策の底にあるのは台湾である。彼らは台湾を自国であると主張しているだけでなく、「台湾海峡を通過する外国の船と飛行機に関する法制度を決定する権限」についての法案を通過させている。ところがこれはこの海峡の船や飛行機の通過を許す、国際的な海洋法に違反している。
● 1990年代半ばに中国は台湾沖で何度も軍事演習を行っており、これは台湾の独立や1996年3月の大統領選の動きを牽制するものだった。
● また、中国はここ十年間で黄海におけるアメリカのプレゼンスに対して大きく反応している。2001年には江滬III級のフリゲート艦が、国際法にのっとって黄海で調査活動を行っていた米海軍のボウディッチと対峙しており、中国の経済排他海域から出るように要求している。2009年にもまた同じく黄海で航行していたアメリカの調査船を妨害している。
● 2010年7月には中国は黄海における米韓軍事演習(これは同年3月の北朝鮮の「天安」撃沈事件に対抗して行われたもの)に抗議している。この際に北京政府は空母ジョージワシントンがこの演習に参加したことを批判しており、空母を黄海に派遣することは中国の安全保障に対する脅威である言っている(ところがその前年に事件がなかったときにもジョージワシントンは参加しているのだ)。
● 結局のところ、米海軍は空母ジョージワシントンを演習に派遣しなかったのだが、これは中国側の沿岸地域に外部の勢力を近づけさせないよう拒否するという戦略にとっては外交的な勝利となった。
●しかも中国側はアメリカ側に関係なく、黄海内で実弾演習まで行っている。それから今日まで、ジョージワシントンは黄海に戻ってこれていない。
● このような「宥和政策」は、非生産的であるだけでなく、米海軍の能力の不必要な安売りである。
● 民主党ヴァージニア州選出のジム・ウェッブ上院議員が分析するように、南シナ海における「中国が持つパワーの増大」に対抗できるのはアメリカだけだ。
● ところが今日まで、アメリカ側のこの状態に対する取り組みは「ほんのわずか」としか言えない。ワシントン政府は「航行の自由」の重要性については何度も発言しているのだが、アメリカの意志を見せつけるようなことは何一つ行っていないのだ。
● もしアメリカが「太平洋における中国の拡大しつつある支配状態に対抗する」と再び宣言するのであれば、この地域での海軍のプレゼンスを増加させなければならないし、その地域の友好国にたいして、言葉ではなくその行動によって支持を示さなければならないのだ。中国のことわざにあるように、「しゃべっているだけでは米はつくれない」のだ。
● これはつまり、ワシントン政府は経済排他海域(EEZ)における調査船活動の中止を求める中国側の要求に屈してはならない、ということである。
● また、米海軍は黄海に空母をなるべく早い時期に復帰させなければならない。これをしなければ、アメリカが朝鮮半島で演習を行う際に、中国側の抗議の声はますます大きくなるからだ。
●他にも、米海軍は中国側とのいわゆる「海上事件協定」を結んではならない。このような協定は結果として中国海軍の威信を強化し、米海軍と同等の力を持つもののように見せてしまうからである。
● アメリカはインドネシアとベトナムと協力して、南シナ海における中国側のU字型に広がる主権の主張にたいして異議を唱えるべきだ。そして同時に、パラセル諸島やミスチーフ岩礁付近などのように、中国によって占領されている海域に軍艦を派遣し、海軍のプレゼンスを上げるべきであろう。
● また、ワシントン政府は日本の尖閣諸島の主権を認め、日米安保が適用されることを公式に宣言するべきだ。そしてフィリピンのスカーボロー砂州やカラヤーン諸島群にも、同様の措置をとるべきであろう。
● その他にも、アメリカは中国沿岸の沖合で目立つような諜報/調査活動を行わなければならないし、黄海で毎年行っている空母を含んだ演習も行うべきなのだ。
● もちろんこれらのいくつかの措置に対して、北京政府は当然のように激しい反応をするだろうし、レアアース禁輸などを含む経済制裁を行うと脅しにかかってくるはずだ。
● しかし今のような宥和政策をこれ以上続ければ事態はどんどん悪くなるばかりであり、北京政府の太平洋における経済・軍事面での支配状態を強化してしまうだけである。