ブキャナンの「民主制度拡大反対論」 |
さて、久々にアメリカの言論人の意見を。
パット・ブキャナンといえば、知る人ぞ知るアメリカの保守派の言論人ですが、この人がアメリカの「民主制度を世界に拡大する」という政策の矛盾をついた興味深いコラムを書いております。これって、ネオコンに対する強烈な当てつけともいえますな(笑)
彼の論点は、あくまでも「国益を守ること」にあることを念頭に置きながら読むと、色々な気づきがあります。
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The God That's Falling
by Pat Buchanan
●先日のことだが、FT紙のコラムニストであるギデオン・ラックマンが「アメリカは自由世界を失いつつある」というショッキングなタイトルのコラムを書いていた。
●その中身は、「南米、アフリカ、中東、アジアのそれぞれの地域にある最大の民主制国家、つまりブラジル、南アフリカ、トルコ、インドが、アメリカから離れつつある」というものだった。
●たとえばブラジル大統領のルーラは中国と石油取引を取り交わし、ウゴ・チャベスと談笑し、アハマディネジャドの選挙での当選を「勝利」であると発言し、国賓としてイランを訪れた。
●国連安保理では南アフリカがロシアと中国の側について人権決議を否定してジンバブエとイランに味方した。
●トルコはヘズボラ、ハマス、イランに味方してイスラエルと対決姿勢を見せ始めており、トルコ国内の世論では反米主義が盛り上がっている。
●インドはイランやビルマの件で反米勢力に加わり、中国側についている。
●ここで問題なのは、これらの四大国の現在の政権が「民主的」な手続きを経て選ばれたということであり、彼らが「白人の豊かな西洋」に反発しはじめたことだ。
●ジェフリー・ウィートクロフトは「世界政治」誌の論文で、アーロン・ディヴィッド・ミラーの言葉を引用しつつ、アメリカは中東で「好かれず、尊敬されず、恐れられていない」と言っている。
●「恐ろしいのは、アメリカの政治家やコメンテーターたちがこの現実に気づいていないということだ」とウィートクロフトは言う。
●ところがこのような傾向はブッシュ政権の遥か前から存在していた。なぜなら「アメリカは世界に民主制度を広めなければならない」という不思議なアイディアが支持されていたからだ。
●しかしこれが本当にアメリカの国益になるのかどうかは疑わしい。
●ウィートクロフトは、「もしアメリカが好かれていないのなら、そもそもなぜ民主制を広げようとするの?」と尋ねている。たしかにこれは重要な疑問だ。
●ネオコンたちは、ブッシュ政権の人々だけでなく、結果的にレバノン、西岸地域、ガザ地区、エジプトまで民主化を説得することに成功した。
●しかしそれで勝利をおさめたのは、ヘズボラやハマス、ムスリム同胞同盟の人々だったのだ。
●ウィートクロフトはアラブの民族史を研究しているユージン・ローガンの言葉を引用しつつ、「アラブ世界で選挙が行われると、イスラム主義者が勝利を収める」と指摘しており、これは「自由選挙が行われると反米勢力が勝つ」という不都合な真実を明らかにしてしまっているのだ。
●サウジ、ヨルダン、エジプトで選挙が行われると、アメリカを中東から追い出し、イスラエルを地中海に追い落とそうという勢力が表れる確率が高まるのだ。
●アメリカの「全米民主主義基金」(NED)がそんな結果を及ぼす自由選挙を推進する論理的根拠はそもそもどこにあるのだろう?
●エイミー・チュアは「火だるまの世界」(world on fire)という著作の中で、「第三世界には常にマーケットを支配しているマイノリティーがいた」と指摘している。
●これは東アフリカのインド人であり、南アフリカの白人であり、世界中にいる華僑であるが、彼らは自由市場主義者で収入が高く、富を多く持っている。
●ところが民主制度がやってくると、多数派がこれらのマイノリティーを追い出すことになる。
●植民地主義が終了した時、アフリカ東部ではインド人が虐殺され、1965年にスカルノが政権を追い出された時にはインドネシアの華僑が虐殺され、そしてスハルトが政権を離れた時にも同じことが起こった。
●ムガベが選挙で選ばれた時も、ローデシアに住む25万人の白人たちの実に三分の二は国を離れたのであり、南アフリカではズマ政権になった時にボーア人とイギリス人の半分がいなくなったのだ。
●ボリビアではモラレスが大統領についてからヨーロッパ人を追い出し、チャベスもベネズエラで同じことをしている。
●ここで質問がある:アメリカはなぜわれわれを追い出すような仕組みを輸出しているのだろうか?
●もちろんアメリカの先輩たちはこのようなことをはじめから狙っていたわけではない。
●レーガン大統領に影響を与えたジョン・ウィンスロップは「民主制度は統治の制度としては最悪」と言っている。
●ジェファーソンも「民主制は烏合の衆による支配であり、51%が49%の権利をうばう仕組みだ」と言っているし、マディソンも「民主制はもっとも悪辣な統治方法だ」と言っている。
●もし民族主義や宗教的な衝動のほうが西洋の民主制よりも力を持ってくるのであれば、いまさらアメリカが第三世界で広める根拠は一体何なのだろうか?市場主義を追い出すことになるのなら、なぜアメリカは民主制を広めるのだろうか?
●敵を強めるシステムを輸出して、友人を危機にさらす意味がそもそも不可解だ。
●デモクラシーというのはわれわれを救ってくれるものなのだろうか?それとも西洋を自殺に追い込むものなのだろうか?
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ある意味でレイシスト(人種差別主義者)ともとられかねない危険な発言とも言えますが、こういうスレスレのところをハッキリというところが彼の良さでもありますね(笑