グワダル港の地政学:インド海軍からの視点 |
さて、今日も「地政学」な話題を。
インド洋や「真珠の首飾り」戦略についてです。インドの新聞の意見記事ですが、彼らの危機感がよくあらわれております。
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The games at Gwadar
January 29th, 2010
By Arun Kumar Singh
●去年のことだが、中国のある退役した提督が、アデン湾における中国海軍の対海賊作戦が行われて一年がたったことから、そろそろこの海域に中国海軍が使える港が必要であるということを発言した。
●現在中国海軍の船は母港から4万5千海里離れたアデン湾で四ヶ月から半年間、どこの港にも立ち寄らずに操業している。
●中国がインド洋域(IOR)で基地を求めていることは国際的にも注目されているので、北京政府はこの提督とは距離を置いているが、実は北京政府はこの海域ですでに使える基地をもっている。
●彼らが建設したパキスタンのグワダル港がそれで、もうすぐ完成するものとしてはスリランカの南端にあるハンバントタ港がある。また、メディアはビルマにも中国が港を建設していることを報じてる。
●北京政府は「真珠の首飾り」政策の一部としてIORで港を求めているのだが、パキスタンのグワダル港に関しては建設しているだけでなく、その資金まですべて提供している。
●バロチスタン州にあるこの港は戦略的に重要な位置にあり、イランとの国境近くにあって、ホルムズ海峡の出口から180海里しか離れていないため、中国のタンカーはここで原油を積み降ろし、鉄道や道路、それにパイプラインなどを使って輸送し、戦時には閉鎖されたり貴重な物資を海賊に狙われたりする可能性のあるマラッカ海峡やシンガポールなどを通らずにすむのだ。
●また、この港はパキスタンにとっても戦時にカラチの港が封鎖されて石油の輸入ができなくなったときの別の選択肢を与えてくれることにもなる。
●グワダル港はまず最初の建設(フェーズ1)が2002年3月に始まり、公式には2005年3月には完成しているのだが、2003年には一部で操業が開始されており、このフェーズの建設費の28400万ドルのうち、中国は19800万ドル払っている。
●グワダル港4・5キロの幅と11・5メートルの水深があり、三つの多目的用の停泊地がある。
●パキスタンのムシャラフ前大統領は、「インドとの戦争が起こったら、パキスタンは中国海軍をグワダル港に招き入れなければならない」と言ったとされている。
●フェーズ2はフェーズ1と時期的に重なっており、これは2006年1月に終了している。
●この時には九つの停泊地が加えられ、港への航路の水深も14・5メートルまで掘り下げられ、5万トン級の船も発着できるようになった。この港は2007年3月に正式に開港し、パキスタン海軍の母港となったとされている。
●ここで重要なのは、ペルシャ湾からインドのクッチ湾のヴァディナール石油ターミナルに向う石油タンカーは、すべてグワダル港の南40海里の海域を通過するのであり、この港にいる中国やパキスタンの艦船に阻止されてしまうこともありうるのだ。
●未確認情報によれば、中国はグワダル港に電波通信傍受施設も設置しているという。
●インドにとっての戦略的重要性を理解するためには以下のようなデータを示す必要がある。
●インドで輸入されている70%の石油は、タンカーによってホルムズ湾を通って海から来ている。
●この70パーセントの石油は、クッチ湾やキャンベイ湾の港、そしてムンバイ港で陸揚げされる。
●2007年にクッチ湾では、実に1100隻のタンカーがグワダル港の南40海里を通って入港している。
●そしてこの船の数は、2012年には2100隻、2025年には4000隻以上になり、この時の総石油輸入量は今の4倍の2億トンになると見込まれている。
●ちなみに中国の輸入量は6億トンになると見込まれており、そうなると当然のようにここで紛争が起こりやすくなる。
●同様に、ペルシャ湾からムンバイ港やキャンベイ湾の港まで石油を運ぶ船は激増し、他のインドの港にも振り分けられることになるはずだ。
●これは世界にとっても深刻な問題となる。なぜならペルシャ湾には埋蔵が確認されている世界の石油の実に75%が存在し、50%のガスもここにあるからだ。
●毎日1600万バレルの石油がタンカーに載せられてホルムズ海峡を通過しており、これは年額に直すと2千億ドルの価値が通過していることになる。
●これはペルシャ湾の石油の輸出の90%に当たり、世界全体の石油貿易の40%以上にあたるのだ。
●ところがこの重要な石油航路のそばにあるグワダル港が、もうすぐ中国海軍によって使用されることになるのだ。
●周辺国の中国に対する恐怖感に配慮してか、パキスタン政府は2007年3月にこの港の操業をシンガポールのPSAという会社に40年間任せる契約をした。
●PSAの子会社は11カ国で22の港を操業しているのだが、ここは次の5年間でグワダル港に5億5千万ドルの投資を行うという。
●去年と今年のインドの独立記念日がテロの危険も無く無事終了したのはインドのセキュリティーやインテリジェンス機関のおかげだが、それでも完全に安心できるというわけでない。
●なぜなら、パキスタンは中国から「友情価格」で武器を買っており、アメリカからも「贈り物」として最近はF-16(Block 52)戦闘機や無人飛行機を何十機も贈られているのであり、したがって現在の平和な状態は「嵐の前の静けさ」かもしれないのだ。
●IORにおける中国海軍の活動は、パキスタンのテロリストの動きと共に注視していかなければならない。
●現在の中国は、西アジアよりもアフリカ西部(ナイジェリアとアンゴラ)から石油を多く輸入しているのだが、それでもこの石油はマラッカ海峡や東南アジアの海峡(スンダとロンボク)を通らなければならないのだ。
●ところが異常事態が発生した時には、中国はアフリカ西部の石油をグワダル港にあげて、計画中のパイプラインを使って本土に送ることもできるようになるのだ。
●したがって、インド海軍がIORにおける状況に対応するためには、200隻の船と500機の航空機が必要になる。
●そして海軍力というのは建造したり購入したりするにしても時間がかかるものであるから、われわれは今すぐにでも海軍力の不足、とりわけよく話題になっている、縮小しつつある潜水艦部隊を充実させなければならないのだ。
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うーん、地政学的ナレーティブの典型ですな(笑