今日のイギリス南部はまるで台風一過のような素晴らしい秋晴れの空だったのですが、気温が一気に下がりましてけっこう寒かったです。
さて、実は今日は学校で開催されたセミナーにスペシャルゲストが来ましたのでその内容の報告を。
今回のゲストは、なんとあの
ルパート・スミスと
ヒュー・ストローン。
と言っても「知る人ぞ知る」という感じなので簡単に紹介すると、スミス氏はNATO軍のNo2も務めたイギリス陸軍の元将軍でして、戦略学の学徒たちには
The Utility of Force: The Art of War in the Modern World

という本で有名です。これは『名著で読む戦争論50冊』の中の一冊にも選ばれてますね。
本ブログでもたしか二年くらい前のエントリーに彼の講演についての内容を書いたと思います。
そしてもう一人のヒュー・ストローン氏は、第一次世界大戦史の世界的権威でありまして、現在はオックスフォード大学の歴史学の教授。この人はなんといっても完成度の高い
The First World War: To Arms

という本を出してこの分野で金字塔をうち立てた人なのですが、これは実は第一次世界大戦史の三巻ものの第一巻として出版されたので、あと二巻が出版される予定なのですが、どうなることやら。
ちなみに私の先生はこの本を「出典も含めて一字一句最後まで読んだ」と言っているほど、内容も濃いし素晴らしい本です。
これのダイジェスト版というか、ドキュメンタリー(DVD)を制作した時の副読本として出されたのが以下の本なのですが、こちらも読みやすく内容も濃い優れもの。
The First World War: A New History


この人は歴史だけでなく戦略学にもけっこう詳しい人でして、クラウゼヴィッツの『戦争論』の解説本や戦略の理論そのものについてもかなり積極的に論文などを書いております。その一例が、
Carl Von Clausewitz's "On War": A Biography

です。これがまた傑作。
セミナーのほうはまずこのストローン氏からはじまり、戦略の理論についてけっこう細かい話をしまして、これがなかなか密度の濃い素晴らしいものだったのですが、今日は時間もないので簡単にスミス氏が話してくれたことをひとつ。
スミス氏は1964年からイギリス陸軍の軍人としてのキャリアをはじめたわけですが、まだ新米の兵隊として訓練していた頃に「戦略の大成功例」を見たという逸話を披露してくれました。これがなかなか面白かった。
彼はある日の駐屯地で受けていた訓練を終えて、自分の部隊の十人の仲間と共に夕方になって宿舎に帰ってきたらしいのですが、訓練につかっていたライフル銃のひとつをどこかに置いて来てしまったみたいで、どうしても9丁しか見当たらなかったとか。
もちろんこのままでは部隊の連帯責任になるので、みんなも手分けして必死に探したのですが、何度探してもないものはない。
で、これを隠しておくと部隊全員の責任になってしまいますし、上官が先にこのような不都合な真実を発見してしまうと部下の責任になりますが、上官に報告すれば上官の責任になるので、すぐ上官に報告(苦笑
で、この上官も曹長あたりに報告してバックパシング(責任転嫁)を狙ったらしいのですが、この上官の上官だったネルソン曹長とかいう人物がけっこう有名な人だったみたいで、教育はそれほど受けていなかったらしいのですが、時として異様な戦略センスを発揮した伝説を持っていたそうです。
で、この人が報告を受けてスミス氏たちのいる新米兵たちのところまで来たらしいのですが、さすがに彼の管理下にある部隊の銃の紛失はちょっと問題になるわけです。
ここで彼は何をしたかというと、まず紅茶をたのみ、それをすすりながら宿舎の中を行ったり来たりしてうんうん考えていて、しばらくしてから
「よし、これで行こう!」
と決断。で、何を言ったかというと、
「正直に言ったら明日の朝まで銃探しだ。しかし嘘をついたら嘘に生きるまでだ!」
と言ってから、
「残りの9丁の銃も、全部外の野原に隠してこい!」
という命令を下したのです。
あっけにとられている新米兵たちはとにかく自分たちの銃を近くの野原に隠してきたわけですが、隠し終わったところを確認すると、
「まずお前たちは夜十二時まで寝ていろ、そして班長は夜中に小便におきてから銃が無くなっていることを発見したと言って大騒ぎをするんだ」
というのです。
そして厳重に口裏合わせをして、「寝ていたら銃が盗まれていた」ということにすることを徹底。
で、言われた通りにスミス氏たち新米兵はとりあえずベットに行ってぐっすりと眠ったわけですが、予定通り夜中頃になって班長が銃が全部盗まれたことを「発見」してそれを報告すると、駐屯地中がてんやわんやの大騒ぎ。
で、どういうことになったのかというと、駐屯地の全員が銃の捜査に狩り出されることになったのです。
もちろん夜になってますので見えないわけですが、この駐屯地のトップにとっては自分のところで銃が盗まれたとなっては大問題なわけですから、野外用のライトをつけて真夜中過ぎだというのに銃を探しまわらせたのです。
しばらくして銃発見の報告が曹長のところに次々に舞い込み、一時間後には10丁全部が見つかって一件落着。
ところが銃を無くして「盗みに入られた」彼ら以外の全員は、罰として夜明けまで訓練させられたとか(苦笑
ここでスミス氏は戦略家としてネルソン氏からいくつか貴重な教訓を得たとして、
1、実行する人以外には戦略を教えてはいけない
2、自分がコンテクストを作ってしまう
3、自分たちではなくて、他人を動かす
4、最後まで口裏をあわせなければだめ
と言っておりました。
そしてこのエッセンスは孫子の「第五:勢篇」に書かれていると言っておりました。
ちなみにこの銃を無くした人物というのは、実はスミス氏本人だったそうです(笑