ブートのアフガニスタン増派論 |
昨日の夜からサマータイム終了でして、今日から時計を一時間戻しての「冬時間」での生活が始まりました。こうなると日が短く感じられていよいよ冬の到来を感じるわけですが。
さて、日本のメディアではあまり報道されていないアフガニスタン関連のものを少し。
マックス・ブートと言えばネオコン派の中でも特に安全保障関連につよいコラムニストでありまして、著書には(あまり評判はよくないですが)RMAに関する本も出しているCFRの上級研究員であります。
この人が最近ペトレイアス将軍の招きでアフガニスタンに10日間ほど取材旅行に行ってきたらしいのですが、この時の体験を元にしてNYタイムズに「マクリスタル案万歳論」を書いておりました。
もしかしたらすでに日本のメディアでも紹介されているかも知れませんが、とりあえずまたポイントフォームで以下に書き出しておきます。
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There is no substitute for ground troops
By MAX BOOT
Published: October 21, 2009
●「この戦争が勝てないという人にこの話を聞いてもらいたいですね。対暴動(COIN)で勝つとはこういうことなんです」
●海兵隊のウィリアム・マコーロフ中佐はアフガニスタン南部で戦略的に重要なヘルマンド川盆地にある貧しい地域にあるナワという町を歩きながらこう語ってくれた。
●彼が指揮する海兵隊の部隊はこの町に1000人以上駐留しており、今年の六月に来たときはタリバンと戦闘を行い、二週間戦って2人の犠牲者と70人の負傷者を出しているが、結局はタリバンを追い出した。
●それ以降は400人のアフガン兵士と100人のアフガン警察を使ってナワの町の周辺に「安全バブル」を確立することに成功した。
●マコーロフ中佐がこの町に来たときは町の状態はヒドいものだったが、現在のナワは栄えており、70軒の店がオープンして、町はトラックや歩行者がひっきりなしに往来するようになり、ヘルマンド州では考えられないことだが、町を防弾チョッキ無しで歩けるくらいなのだ。
●この町で海兵隊は運河を清掃したり橋をかけたり学校を作ったりしている。
●いまではタリバンが道に地雷をしかけると、逆に地元の人が米軍に忠告してくれるほどだ。
●このナワのような町で成功している秘訣は、米軍の兵士の数を増やしたことにある。
●アフガニスタンに駐留する米軍兵士の数は、2008年で3万2千人から6万8千人に増えている。
●これによって僻地の駐屯地の防御が強化されることになり、たとえばナワには海兵隊の部隊が来る前にはたった40人の英軍の兵士がいただけだ。
●いままでのような少ない数の兵士では、イラクやマレー半島で成功した、地元住民を中心においたCOINを行うことは不可能だったのだ。
●たとえばいままでのNATO軍はこれを行うことができず、彼らが去るとすぐにタリバンがやってきて「芝刈り」をしてしまうという状態が続いていた。
●ところが現在は(場所は少ないが)clear, hold, and build 戦略という戦略が行える。
●アフガニスタンに駐留している兵士の総数(連合軍10万2千/アフガン人17万5千)はイラクのそれ(連合軍17万4千/イラク軍43万)に比べて遥かに少ない。
●マクリスタル将軍が4万人の増派を求めたのはまさにこの理由からであり、しかもこれは最低限必要な数、ということを忘れてはならない。
●米国政府や議会の人間の中には今の数でも十分やっていけると考えている人もいるかも知れないが、彼らはひとつ重大なことを忘れている。それは自分たちが仕掛けるか、それとも敵に仕掛けられるか、という戦争の掟だ。
●ここ数年はタリバンが盛り返している。もし大統領がマクリスタル将軍の要望を拒否してしまうと、タリバン側を勇気づけるメッセージを送ることになり、逆に米軍側に協力していたアフガニスタンを裏切ることになる。
●しかしそれを受け入れることになれば、こちら側に勢いをもたらすことになる。
●私は今回の現地取材の間にアフガニスタンの選挙で混乱している現場を見たが、みんなが忘れているのは、アフガニスタンの腐敗政治という問題も米軍が兵士を増派すれば解決できるという点だ。
●私が実際に見聞きしたことでわかったのは、彼らのそばでしっかりと見守っていればアフガニスタンの人々もうまくやれる、ということだ。
●カブールの南のバラキ・バラクという町に駐留しているトム・グケイセン中佐の部隊は、このアフガニスタンとアメリカの共同作戦の最前線のすぐそばにある町の周辺に緩衝地帯をつくった。
●その町の内部で彼らは「極端な立て直し」を行っており、国務省による支援金の助けを借りて地元政府の権威を強化している。
●「アフガニスタン人のそばにしっかりついてないと、彼らはすぐに地獄行きだ」とある米軍兵士が教えてくれた。ところが逆にアメリカ側がそばでしっかりついていればアフガニスタン人は劇的に状況を改善できる可能性を見せているのだ。ナワやバラキ・バラクがこの典型だ。
●アフガニスタンの統治が上手くいっていないという事実は、むしろ撤退論よりも増派論に使われるべき証拠なのだ。
●オバマ大統領がアフガニスタンの状況を改善してタリバンを押し返し、アルカイダが9/11事件をもう一度起こすことを防ぐことができるのは、(兵士と民間人の両方を)増派するということだけなのだ。
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典型的な増派論ですね。
そういえば数日前の火曜日のミーティングで話題になっておりましたが、戦略家として有名なエドワード・ルトワックは、先週のイギリスの文芸誌(TLS)にキルカレンの新刊について書評を書いておりまして、「アフガニスタンみたいな国益にに全く影響を与えない地域からは完全に手を引け」という完全撤退論を主張しておりました。
ちなみにルトワックはここでキルカレンの本の書評を書いていたはずなんですが、この書評の中ではこの本の題名と内容に一言も触れていなかったみたいです(笑