中国は百年前のアメリカだ論 |
さて、久々にニュースの解説的なものを。
トマス・バーネットと言えば、アメリカの大戦略や地政学に多少の関心のある人々の間ではけっこう有名な人物であり、2000年代に入ってから『ペンタゴンの新しい地図』(邦題は『戦争はなぜ必要か』)という本でアメリカの国防コミュニティーにセンセーションを巻き起こしております。
この本(と論文)の中で彼が論じていたことをものすごく単純に言えば、
「冷戦後のアメリカは、世界をグローバル化させるために色々なところで紛争に介入していた」
ということです。
ところがここで彼が面白いのは、このようなこれまでの現状を踏まえて、
「だから我々はグローバル化を大戦略の中心として、むしろ積極的に進めなければならない!」
と論じているのです。
ところがこのようなアイディアはかなり昔からアメリカに存在しており、その代表的なものが「門戸開放政策」(Open-door Policy)ですね。
彼はこのような(アメリカによる)「グローバル化推進派=門戸開放派」なわけですが、こうなるともちろん中国に対してG2(チャイメリカ?)のような提案をしたがるわけです。
その彼が中国に関する面白い記事を書いておりましたので、いつものようにポイントフォームで要点を紹介。
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The New Rules: Seeing China’s Present Through America’s Past
Thomas P.M. Barnett
●アメリカの中には現在の中国の勃興を恐れている人がいるが、たしかにこれは理解できる。
●中国こそが我々に金を貸してくれているのだし、アメリカ中にあふれるあらゆる商品の底には「メード・インチャイナ」と書かれている。
●二十年前の日本のように、今われわれは中国を恐れているのだ。
●つまりわれわれには世界経済のトップに立っているという感覚がなく、「アメリカの時代」ではなく他の誰かの「時代」であると感じているのだ。
●ところがおよそ百年前に、イギリスの人々がアメリカに対して同じようなことを感じていた。アメリカはイギリスにとって「勃興する中国」だったのだ。
●アメリカ人が自国に中国製品があふれていると感じているように、百年前のイギリス人も自国にアメリカ製品があふれていると感じていた。
●ある有名なセオドア・ルーズヴェルトの伝記の中には以下のようなことが書かれている。
●「現在のイギリスの雑誌の広告を見ると、普通のイギリス人はインガーソルの目覚まし時計で起きて、ジレットの剃刀でヒゲをそり、ヴァセリンのトニックで髪を整え・・・・」
●つまり現在の中国のように、この当時のアメリカはあらゆるものを海外に輸出していたのだ。
●この当時のアメリカは生産力は高かったが自国での消費量が少なかったため、残りを積極的に海外に輸出するしかなかったのだ。
●結果として貿易黒字が拡大し、海外からの直接投資がウォール街に資本を呼び込むことになったのだが、これは現在上海の株式市場で起こっていることと同じだ。
●現在のアメリカは「中国に買われてしまう」ということを心配しているが、当時のアメリカの資産家であるアンドリュー・カーネギーも「イギリスを買って、ついでに彼らの借金を帳消しにすることもできる」と計算していたのだ。
●現在は「チャイナ・プライス」があるが、百年前はイギリスで「アメリカン・プライス」があったのだ。
●これをわれわれがどのように達成したのかというと、環境におかまいなく経済効率最優先で労働基準などほとんど考慮せずに生産性を上げたからだ。
●実際にこの頃のアメリカの労働/住居環境などをみていくとひどいものがある。
●百年前にシカゴで生まれた赤ん坊は5歳になるまでに半数が死亡。
●一九一一年のシカゴ大火災の後で決められた法案では、子供に週54時間以上働かせることを禁止する決定がはじめてなされた。
●一九世紀最後の十年間は、アメリカの歴史上で最も収入格差が広がっていた時期。
●そのような酷い状態であったため、19世紀後半にはアメリカで社会改革運動が生まれて広がることになった。
●この時期に改革派の指導者や「マック・レイカーズ」と呼ばれるようなジャーナリズムも増え、そのおかげでアメリカに新しい「ルール」が出現し、国の統一性がはかられるようになったのだ。
●現在の中国は、まさにこの頃のアメリカと全く同じような道のりを歩んでいる。
●もちろん彼らには我々と違った弱点(一党独裁)があり、この発展のプロセスで失敗するかも知れないが、アメリカにはこれを支援する必要がある。
●この中国の現状をみるにつけ、ひとつ参考になる本がある。ポール・ミドラーによる“Poorly Made in China”という本だ。
●著者のミドラーは中国に長年住んでおり、西洋の企業が中国側と輸出品を取引する際のコンサルタントをしている。
●この本の中で、彼は中国のビジネス環境のひどさを詳細に語っている。
●注意していただきたいのは、私は中国が工業化することによって西洋諸国のように劇的に変身すると信じているわけではないということだ。なぜならわれわれもそれほど急激に変身できたわけではないし、彼らもまずは何よりも収入を必要としているのだ。
●ミドラーが紹介している面白いエピソードは、中国の工場で作業員の安全がまったく考慮されず、とにかく環境コスト度外視で作業をしている現場を見たときである。
●現場の薬品の臭いはひどかったのだが、中国人の工場長は「君たち外国人は中国に来て公害を非難するが、オレには意味がわからん。なぜって、オレにはこの工場のヒドい臭いがカネの臭いに感じられるからさ」
●ミドラーが指摘しているように、中国人は製品のコストを下げるためだったら何でもやる覚悟だ。そしてアメリカ側で輸入している業者もこれをよくわかっている。
●そしてアメリカ側の消費者も安い製品を買えるおかげで得をしているし、何億人もの中国人も1909年頃のアメリカ人と同じ「アメリカン・ドリーム」を実現しつつある。
●そしてこの中国の状態は、まさにアメリカが百年前に世界から仕事を奪い、不正コピーを作っていたという点で一緒なのだ。
●ミドラーはこの本を、アメリカが90年代の時点でもっと速く中国に投資をはじめていればよかったのに、というコメントで締めくくっている。
●しかしミドラーに見られるように、我々も自分たちの国の過去の姿を知らなすぎるのだ。
●グローバル市場が安い労働力を求めるかぎり、中国が外国の圧力に負けて自国の工場の労働環境を改善しようとすることはないだろう。
●そのような改善要求は中国人自身が起こさなければならないのだが、現在はそのような要求が頻発する暴動という形で起こっており、これが大きな運動となるのは時間の問題だ。
●このような新しい状況になったときにアメリカがおぼえておかなければならないのは、アメリカが勃興する時に作り上げた「ソフト・パワー」である「ルール」なのだ。
●世界最古で最も成功している「多国籍経済構造」をもつアメリカは、グローバル化というゲームでも最先端を行っている。
●だからこそ我々にはあとに続く国が、このような困難をうまく乗り切って行けるように支援していく責任があるのだ。
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つまり彼は「現在の中国は、百年前のアメリカの姿そのものだ!」と言いたいわけですね。
それにしても彼は中国の文化や歴史というものに対する歴史がやや甘いような。まあ自分の子供を中国から養子にもらっているくらいですから客観的に見れないところはあると思うのですが。