ランチミーティングで発表:その2 |
さて、昨日のランチミーティングの様子の話の続きを。
発表が終わってからコースメイトのイギリスとギリシャの空軍のオフィサーたちにさっそく質問を受けたわけですが、彼らの長たらしい(コメントを含む)質問の中身は、ようするに
「順次と累積はわかったが、これを実践段階ではどう使えばいいの?」
ということでした。
これに対して私はまずこの戦略の分け方はあくまでも分析ツールであるということを説明しつつ、ワイリーが本の中の例で示しているように、「洋上戦」vs「潜水艦戦」のように計画はできるんじゃないの?と提案しました。
この二人に共通しているのはどちらも「空軍のドクトリン」の研究をして論文を書いている最中なので、どうしても具体性や実現性というものに異様なこだわりがあるようなのです。
その他にも色々とコメントが出てきたのですが、面白いと思ったのは、このミーティングに参加していたヨーロッパ系(ギリシャ、トルコ、パキスタンなど)のコースメイトよりも、どちらかと言えばイギリスやアメリカ人(20人中5人ほど)のほうがこの順次/累積という分析に興味を示していたことでしょうか。
この中でも特に鋭い反応を示していたのは、本ブログでも以前に「ネオナチ思想はマイノリティーですか」発言をした元グリーンベレーの白人のコースメイトでして、彼は現在COINとCTについての論文を書いているためにこの辺のこと(見える戦略/見えない戦略という対比)が異様に気になっているとか。
そして最後に一番大きな批判をしてきたのが、中東戦争の戦略を研究しているエジプト人のコースメイト。
この彼は数年前にこのワイリーの『戦略論の原点』を原著で読んだらしいのですが、この時にこの「累積/順次」という分析の仕方に全く意味がないと感じたらしいのです。
中東系の人は、このような質問タイムになると話をなかなかまとめられなくて時間切れになってしまうことが多いのですが、この彼も案の定そのような感じでワイリーに対する批判を長々とつづけているうちにミーティングの時間が終了となってしまい、我々は部屋の外で私と延々と語ることになりました。
もちろん彼の不満は「累積と順次なんて分け方は意味ないよ!どっちも戦略としては一緒でしょ?!」ということなのですが、私や彼の議論に巻き込まれていたイギリス人の若い彼(先週の発表者)も交えて学校の廊下で大討論会が勃発。
しかしよくよくこのエジプト人の言っていることを聞いてみると、ポイントとしてはどうやら、
1、累積戦略にも順次戦略的な面があるし、その逆に順次戦略にも累積戦略的なものがある。これは矛盾だ!
2、累積と順次のバランスが重要になるのはわかるのだが、それに対する「最適なバランス」はどうやって知ることができるんだ?科学的じゃない!
という二つの点に集約されるような。
これに対する私や応援(?)にまわってくれたイギリス人やアメリカ人の答えは、
1、累積の中に順次、順次の中に累積があるという理解で問題ない。ただし現れ方が違うだけで、大きく見れば戦略である点では同じ。
2、「最適なバランス」なんかない。だから戦略は(サイエンス)じゃなくて「アート」なのだ。
というものでした。
あとから考えてみると、このエジプト人というのは戦略というものをあまりにも科学的に分析しようとしていたみたいで、科学的に検証して戦略の真髄を明かさなければならない!という思想にとりつかれていたみたいです。
戦略、しかも「最適な戦略」というものは、究極的には誰にもわからないわけで、科学的なアプローチを使って研究することにもちろん意味はあるのですが、それでも「絶対にわからない部分もある」ということをどこかで自覚する必要があるんですね。
この一連のやりとりを終えた後に考えていて面白いなぁと思ったのは、西洋的なやり方に最も批判的と思われている中東の人間が、実は西洋人よりも西洋的な見方で我々を批判してきており、それに対して英米人たちのほうが東洋的な概念を擁護していた、という状況でした。
なんとも不思議な光景でした(笑