インターネットの物理的地理 |
さて、またしても火曜日のランチミーティングの話の内容を。
先生からの連絡事項や、戦略学の学界内で起こっている議論の報告などが終わると、いよいよ今回はじめて行われる研究生による発表だったのですが、テーマはすでにここで書いたように「インターネットと地理の関係」というもの。
この若いイギリス人の彼は(若い頃のエドワード・ノートンに似てますが)、A4の紙一枚に話す内容を書いてきただけで、あとは彼が得意とする「よどみない語り口」で発表するという作戦に出ました(笑
まず彼は「この発表の目的」を発表しまして、これは「地理の重要性を擁護し、インターネットが地理を無意味にしたという主張を攻撃すること」というもの。
この発表が始まる前に私はこの彼に、『進化する地政学』の中の最終章である「インフォメーション・パワー」を読んだことがあるか聞いてみたのですが、彼はこの著者であるロンズデール氏の名前を聞いたことがないとのこと。
この時点でちょっとリサーチ不足のような気が(苦笑
まず手順としては地理の重要性がネットの発達によって無くなったとするサイバー熱狂派(?)側の主張を三つ紹介。これは、
①グローバル化で「距離が死んだ」
②サイバー領域は今までの地理を「回避」できるようになった
③サイバースペースの中だけでことが解決できるようになった
というものです。
ここから彼はそもそも「サイバースペース」というものが何からできているのかを説き始めたわけですが、基本的にこれはケーブルやサーバー、そしてデータセンターなどの「インフラ」に頼るものであることを指摘します。
インフラがあるということは、それは当然のように「物理的に存在するもの」に依存している、ということになります。
また、この彼はネット環境というものが全世界どこでも均等に配備されているわけでなく、地域によって偏りがある、ということを指摘。
その証拠に、田舎よりも都会のほうがよい回線が敷かれてますし、国よっても速度が違ったりします。
彼はこの例として、電線の地中化が進んでしまっているために高速回線のインフラが遅れているイギリスと、電信柱のおかげで素早く高速回線が敷けた日本の違いを使っておりました。
また、ネパールやアフガンのような山岳地帯の多い国ではネット環境が貧しいことに加えて識字率が低いことも挙げてまして、これには「地理」がインフラに大きな影響を与えることも指摘します。
しかもネットも意外と災害に弱く、たとえばアメリカで起こったハリケーンのカトリーナの大災害の時はネット関連のインフラが全滅しており、イギリスでも数年前にロンドンで起こったガス爆発で、その隣にあったデータセンターがやられてしまった例などを挙げました。
ここで彼は三つの教訓として、
①どこでサイバースペースに接続するか、という要素も重要
②インフラを充実させることは重要
③利用する国民の識字率も重要
としております。
最後に結論として2点あると言いまして、
1、インターネットやサイバースペースはやはり物理的な地理環境に左右されているということ
2、そしてそれらが地理に左右されるということは、戦略を支配している法則やルールにも左右される、
となりました。
彼はこれをたった十分ほどの短い間に鮮やかに説明してくれたのですが、私の感想としては、すでに『進化する地政学』の中で十年前に論じられていた内容なんじゃないの、という感じです。
しかしこの彼の強みは、最近の事例や、識字率の問題などを取り入れていたことでしょうか。
彼はこれをある専門誌に投稿したのですが掲載を断られたとのこと。
しかし話を良く聞いてみると、何カ所かの引用で、wikiなどのように学術的には信頼のおけないネットメディアを使っていたという点があったようです。
日本の学界ではどうなのかわかりませんが、とりあえず私の周辺ではwikiペディアを学術論文に使っているという話は聞いたことがありませんな(笑