パット・ブキャナンの「アウタルキー」論 |
さて、今日は久々にアメリカを代表するアイソレーショニスト、パット・ブキャナンの意見を。
最近の彼はMSNBCの政治解説者として相変わらずテレビでシャープな語りを披露しておりますが、政治的には一貫して旧保守派(ペイリオコン)を体現しておりまして、以下のような「アウタルキーをめざせ」的な興味深い意見を書いております。
例のごとくポイントフォームで。
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Tired Out
by Patrick Buchanan
●ニューヨーク州の州都オールバニーに、中国のアウトレットがある。「ウォールマート」だ。
●中国はあまりもうまくやっているために、ジョージア州の南の町に「クーパータイヤ」の工場は閉鎖され、2100人が解雇されてしまった。
●なぜこういうことが起こるのかというと、世界の反対側で作られているタイヤが異様に安いからだ。
●クーパータイヤの工場では人件費として一人あたり一時間に18〜20ドル払っているし、安全や環境面などで色々な規制がある。
●ところが中国では人件費がほんのわずかだし、安全・環境面での規制などは皆無に近い。
●中国が競争に勝ってきたのは、合衆国憲法修正第十四条の「法の下の平等」が中国には適用されないからだ。
●自由貿易によってアメリカの市場に自由にアクセスできる中国は、アメリカだったら完全に操業停止になってしまうような条件でも工場で生産ができ、人件費も驚くほど安くできる。
●しかも北京政府は輸出品の値段を下げるために人民元を人為的に低くしつつ、アメリカからの輸入品には関税をかけているのだ。
●そのおかげで中国は2004年から2008年の間にアメリカのタイヤ市場でのシェアを5%から17%に増やしている。
●しかも驚くなかれ、クーパータイアは中国に工場を建てて、オールバニーで働いていた人を派遣して、自分たちの仕事をうばった中国の作業員に教育しはじめたのだ。
●トマス・ジェファーソンは「商売人に国境はない」と書いたが、これこそがまさに21世紀のアメリカの姿だ。我々の企業エリートたちの信条は、愛国主義からグローバル化へと変わったのだ。
●歴史上で最も自己充足と独立を実現していたこともあるアメリカにとって、これが何を意味するのだろうか?
●2001年にブッシュ大統領になってからアメリカは工業製品の分野で3・8兆ドルの貿易赤字が発生しており、これはガスや石油の輸入によって発生している1・68兆ドルの貿易赤字の2倍の額である。
●しかも中国たった一国との貿易赤字だけで、なんと1・58兆ドルであり、これはガスや石油の貿易赤字の額に匹敵する。
●アメリカの政治家たちは「エネルギーの独立」については叫ぶことをやめないが、非民主制で我々のコンピューターや武器やハイテクの中枢を作っている国に依存していることを恐れないのだろうか?
●アメリカ工業貿易活動委員会の代表は、「アメリカが持っていない資源を輸入して貿易赤字になるのは仕方ないところだが、アメリカが自分たちで作れる工業製品を輸入して貿易赤字になるというのは、明らかに国を破綻させ、何百万もの仕事を失わせる人為的な選択だ」と論じているが、これは誰にも否定できない。
●どれだけの仕事がブッシュ政権時代に失われたのかというと、530万人分の製造業の仕事であり、これは2001年の時点と比べて1/4から1/3の数が減ったことになる。
●そして我々の中国に対する依存は拡大しつつある。アメリカの工業製品の貿易赤字額は2008年には中国のものが60%を占めていたが、それが2009年の半年では79%になっているのだ。
●これを逆流させるにはどうすればいいのかというと、アレクサンダー・ハミルトンのようにすればいいのだ。この時のアメリカはほとんど何も作っておらず、今の中国よりもイギリスに依存していたのだ。
●まずは中国がアメリカに対してやっていることを仕返してやろう。それには中国がアメリカの輸入品に対して関税をかけているように、我々も中国からの輸入品に関税をかければいいのだ。
●アメリカに入ってくるすべての輸入品にも関税をかけ、アメリカに工場をつくる企業に減税するのだ。
●多国籍企業というのは血に飢えたサメと同じでモラルがないものだ。彼らが工場と仕事を外国に持って行った場合には彼らの利益を下げさせ、それらをアメリカに持ち帰ってきた場合にはもうけさせるような仕組みをつくればいいのである。
●これは何もややこしい話ではない。ハミルトンやジェームス・マディソン、そしてエイブラハム・リンカーンなどが全員が行ってきたことだ。その手始めとして、オバマが中国のタイヤに関税をかけるというのはいいアイディアだ。
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ということです。
この人の「前提」は、「アメリカの工場と仕事を守れ」ということにつきますね。
アメリカの歴史的な例を使って縦横無尽に話をするというのがこの人のスタイルであることがおわかりいただけるかと。
国内だけでやっていこうという意味では、彼はアメリカには貴重な「ランドパワー派」ともいえるかも知れません。
これは日本の「シーパワー派」である輸出関連企業にとっては脅威ですな(苦笑