アメリカの保守派が日本の敵になる? |
いよいよ新学期が明日からはじまりまして、私の先生もいよいよ明日から学校に来て、週一のランチミーティングをはじめます。私もコースメイトたちに久々に会えるのが楽しみです。
さて、今日は久々にアメリカの内政に関する話を。
デヴィット・ブルックスといえば、ニューヨークタイムズで書いているアメリカの保守系のコラムニストでして、ここ数年間はかなりしゃべれるようになり、テレビの討論番組でも論者としてよく出るようになりましたが、彼はたまにコラムで政治思想に関するなかなか興味深い記事を書きます。
この彼が、ちょっと前のコラムでアメリカの今後の保守思想について書いておりましたが、これがなかなか考えさせてくれるものだったので、例のごとくポイントフォームで紹介します。
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The Next Culture War
By DAVID BROOKS
Published: September 28, 2009
●数百年前から歴史家たちは国家の興亡についてのセオリーを考えている。
●有名なのは、偉大な国家は強い意志とエネルギーから始まるというものだ。
●意志とエネルギーは富と権力に変化し、富と権力は豊かさと贅沢につながり、豊かさと贅沢は国家を腐敗させて衰退させていくことになる。
●ジョン・アダムズはトマス・ジェファーソンに当てた手紙の中で「人間のサガというものは繁栄に耐えきれないものだ」と書いてアメリカの衰退を警告していた。
●しかしアメリカはこのサイクルからは逃れており、はやければ一七四〇年の時点でヨーロッパの生活水準を越えていたにもかかわらず衰退していない。
●その主な理由は、うまくそれを相殺するような正常な経済感覚がアメリカから出てきたからだ。
●初期の植民者たちはカルヴァン派の精神を持っていたし、西部の開拓者たちは厳しい現実に耐え、あとからやってきた移民たちの一世は子供たちに真面目に働くことを教え込んできたからだ。
●また、当時の政府の力にも限界があったため、結果的に人々の自主性と抑制、そして規律を促すことになったのだ。
●経済観念がおかしくなったときでもエリートたちは自ら厳しくすることを見せてきたし、子供たちに倹約することを教え込んでいた。
●ところが過去数年間のアメリカでは経済観念が明らかにおかしくなっていた。
●これがおかしくなっていた時に、人々はそれ以外の価値観の問題、たとえば学校で祈りの時間や進化論を教えるかどうかなど、関係ないことばかりに目をうばわれていた。
●ところがその間に経済観念の問題が深刻化していたのだ。
●この問題はまだそこら中に散見することができる。州政府が宝くじを提供したり、政府の関与するとばくが貧者から金を集めていることなどがそれだ。
●数十年前だったら考えられなかったが、いまや会社のトップやヘッジファンドのマネージャーたちが国税を使って自分たちの会社を立て直したこと平気で言いふらしているのだ。
●ある研究によれば、50年代から80年代にいたる30年間のアメリカ国民の平均消費額はかなり安定しており、GDPの62%くらいだった。
●ところがそこから次の30年でその消費額は上がり、2008年には70%になったのだ。
●この間に個人の借金は爆発的に増えており、たとえば1960年には個人の借金は国民収入のうちの55%だったにもかかわらず、2007年にはそれが133%にまで増えたのだ。
●ここ数ヶ月でこの数字はやや下がってきているが、これはアメリカの経済感覚が正常になったということを意味しているわけではない。
●なぜならアメリカ経済は個人の借金から政府の借金にトレンドが移っただけだからだ。
●このままだと2019年には政府の借金がGDPの83%にも達するのであり、利息の支払いだけでも毎年8千億ドル払わなければならないはずだ。
●これらは単なるお金の額の問題のように見えるが、実は政治思想的に大きな意味を持つ。
●たとえば現在のアメリカの政治思想の戦いは、主に世俗リベラルと宗教保守の間で行われている。
●ところが経済力の衰退は、保守やリベラルの思想に関係なく、国民の生活を平等に直撃するのだ。
●そして我々のいままでの経済観念を修正しようという議論が保守派から出てきた場合、これから目指さなければならないのは、アメリカを「消費経済」ではなく、もう一度「ものづくり経済」にしようということなのだ。
●そしてこれには我々の経済観念を倹約の方向に転換する必要が出てくる。
●そうなるとアメリカ独特のロビー文化も解消しなければならないし、「高い税金」を容認して、「財政ばらまき」をがまんしなければならなくなる。
●いまは政治的に不可能に見えるが、アメリカの財政を立て直すためにはエネルギー税や財政縮小のような抜本的な改革が必要になってくる。
●そしてこの国が本当に必要としているのは、そのような経済観念の復活なのだ。
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つまりこの記事では、アメリカの(政府と個人の)消費癖を立て直さなければ国家破綻だと警告しているのですが、興味深いのがこれが文化闘争、つまり保守とリベラルの政治思想の議論になるとしていることです。
たとえば最近のアメリカの保守派の間では、オバマ政権の法外なばらまき政策を批判しようという動きが出て来ております。
つい先日も「悪の枢軸」という言葉をブッシュに言わせた元ホワイトハウスのスピーチライターのデビッド・フラムが、このブルックスの記事と似たようなことをテレビでコメントしており、これからの保守派は「財政の健全化」を合い言葉にしなければならないと宣言しております。
つまりブッシュの失敗とオバマの勝利で行き場を失ったアメリカの保守派が、これから生きる道として「財政の健全化」という昔からの保守派の思想(ペイリオコンの立場)に立ち戻ろうとしているわけです。
これが実現してくると、困るのはアメリカの消費によって国家経済を支えてきた日本をはじめとする輸出国。
アメリカの保守派が結果的に「海外にお金を流すな」という方向に動くわけですから、これから彼らが日本にとっての「敵」となる可能性が大きくなるわけですな。
かと言ってこのまま消費をづづけて破産してもらっても困るわけですから、ジレンマは続きます。